ガイドライン

(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン

書誌情報
V 骨粗鬆症の治療

 
D.骨粗鬆症の薬物治療
b. 各薬剤の特徴とエビデンス
(2)女性ホルモン製剤

解説

女性の骨代謝において,エストロゲンの低下は骨吸収を亢進させ,高回転型の骨量減少をきたす。閉経は,閉経後女性の骨量減少や閉経後骨粗鬆症の最大の要因であり,したがってエストロゲンの補充は,骨粗鬆症の予防や治療に対し最も合理的な手段と考えられる。しかしながら,エストロゲンは骨代謝以外に多種の生理および薬理作用を有するので,骨粗鬆症の治療薬として選択する場合には,そのリスクとベネフィットを十分に考慮して用いなければならない。

骨密度に対する効果
臨床的に使用される代表的なエストロゲンには,結合型エストロゲン,17βエストラジオール,およびエストリオールの3種類がある。結合型エストロゲン(国内では骨粗鬆症の効能効果を取得していない)の場合,0.625mg/日の3年間の投与により腰椎で3.5〜5%,大腿骨で1.7%の骨密度の増加が得られる(PEPI study:45〜64歳の健康な閉経女性を対象)340)。エストロゲンの骨密度増加作用は用量依存的であり,0.3mg/日の投与でも,椎体および大腿骨のいずれの部位においても有意の骨密度増加が期待され341),しかも服用者の85%以上において骨密度増加が期待できる342)。2005年現在,わが国では17βエストラジオールは貼付剤としてのみ使用可能であるが,海外では経口剤も発売されている(表46341),343),344),345),346),347),348),349),350)。17βエストラジオールの貼付剤は規定どおりの使用により結合型エストロゲンと同等の効果が得られるように設計されている。一方,エストリオールの骨密度増加作用は結合型エストロゲンや17βエストラジオールに比べ弱い。

[エビデンステーブル]
表46 女性ホルモン製剤の骨量増加,骨折予防効果に対する臨床試験成績
効果 文献 例数
(実数/プラセボ)
投与期間
(年)
使用薬剤 成績 エビデンス
レベル
エストロゲン プロゲスチン
骨密度 343) 129/46 2 25〜100µg/日E2TD なし 腰椎骨密度増加 II
344) 194/67 2 25〜100µg/日E2TD なし 腰椎骨密度増加 I
345) 268/87 2 25〜75µg/日E2TD なし 腰椎骨密度増加 I
346) 108/53 2 50〜100µg/日E2TD なし 腰椎,大腿骨骨密度増加 I
347) 90/45 2 1.0mg/日E2 oral 0.25〜0.5mg/日NETA 腰椎,大腿骨骨密度増加 I
348) 237/41 3 1.0〜2mg/日E2 oral 25〜50µg/日gestodene 腰椎,大腿骨骨密度増加 I
349) 466/113 2 1.0〜2mg/日E2 oral 5〜20mg/日dydrogesterone 腰椎,大腿骨骨密度増加 I
341) 737/85 2 0.3〜0.625mg/日CEE oral 0〜2.5mg/日MPA 腰椎,大腿骨骨密度増加 I
350) 60/63 2 25µg/日E2TD 0.125mg/日NETA 腰椎,大腿骨骨密度増加 I
骨折 351) 4,292/3,845 >1 種々 種々 非脊椎骨折RR=0.73
(95%CI 0.56〜0.94)
I
352) 8,506/8,102 5.6 0.625/日CEE oral 2.5mg/日MPA 椎体骨折RR=0.65
(95%CI 0.42〜0.92)
I
352) 5,310/5,429 6.8 0.625/日CEE oral なし 椎体骨折RR=0.62
(95%CI 0.46〜0.93)
I
358) 348/116 5 2mg/1〜21日E2 valerate 1mg/12〜21日CPA 非椎体骨折RR=0.37
(95%CI 0.12〜1.12)
I
TD:Transdermal,E2:estradiol,CEE:conjugated equine estrogen,NETA:norethisterone acetate, MPA:medroxyprogesterone acetate, CPA:cyproterone acetate


骨折に対する効果
22の論文を対象としたメタアナリシスの結果では,エストロゲン単独もしくはプロゲスチンとの併用により非椎体骨折のリスクは0.73(95%CI 0.56〜0.94)に低下すると報告されている。特に,その予防効果は60歳以下で高い351)。一方,一般閉経後女性を対象とした大規模前向き試験としては,50〜79歳までの健康な女性を対象に行われたWomen's Health Initiative(WHI)で,0.625mgの結合型エストロゲンと2.5mgの酢酸メドロキシプロゲステロンの配合剤投与により,大腿骨頸部および椎体骨折のリスクをそれぞれ33%,24%減少させた352)。WHIではその対象者にBMIが25以上の肥満者を約70%も含むことが指摘されていたが,BMIで層別化しサブアナリシスを行ったところ,BMI25未満の女性では大腿骨頸部の骨折リスクが0.50(95%CI 0.28〜0.90)とさらに低下した。子宮のない女性に結合型エストロゲンを単独で投与したWHIのもう一つの試験でも,大腿骨頸部骨折が39%,椎体骨折が38%,すべての骨折が30%予防された353)表46)。エストロゲンの骨折予防効果は,プロゲスチンの併用の有無やエストロゲンの種類に関係なく発揮され,また投与期間が長いほどその効果は顕著である353)。また,骨折予防効果は,対象者の年齢,閉経後年数,BMI,喫煙,転倒,骨折の既往の有無の影響は受けない352)。エストロゲンの骨折予防効果は服用開始後より出現するが,服用中止により速やかに減弱する。

その他の効果
短期的にはエストロゲン欠落に基づく諸症状,すなわち顔面紅潮,発汗,睡眠障害の症状緩和が期待でき,また長期的には萎縮性膣炎や性交痛の改善を促す。また,直腸・結腸癌のリスクを低下させる。
脂質代謝では血中HDLを上昇させ,LDL,総コレステロール値を低下させる。中性脂肪は結合型エストロゲンの投与で増加するが,低用量の結合型エストロゲン投与や17βエストラジオールの投与では変化しない。

副作用
エストロゲン投与の副作用には,性器出血,乳房痛などエストロゲンの生理作用に起因するものと,子宮内膜癌,乳癌,血栓症など生命予後に影響を与えかねないものとが存在する。これらのうち,前者は投与量を減らすことで対応が可能である。一方,後者のうち,子宮内膜癌はプロゲスチンの併用で確実に減少し,乳癌はプロゲスチンの併用でリスクが高まる可能性がある。
子宮のある女性に0.625mgの結合型エストロゲンと2.5mgの酢酸メドロキシプロゲステロンを連続で投与した場合,冠動脈疾患(RR1.29),脳卒中(RR1.41),静脈血栓症(RR2.11),および浸潤乳癌(RR1.26)のリスクは上昇する354)。しかし,総死亡リスクや死因の内訳は影響を受けず,さらに乳癌のリスクは5年以下の使用では増加しない354)。一方,結合型エストロゲンのみの投与においては,冠動脈疾患や浸潤乳癌のリスクは6.8年の使用では上昇しなかったが,血栓症は投与開始後1年以内でリスクが高く,その後はむしろ低下する353)
大規模前向き臨床試験であるWHI報告は,長期間のエストロゲン投与はベネフィットに比べリスクが上回ると評価したため,以来HRT(ホルモン補充療法)に対する評価に大きな影響を与えた。しかし,本試験では肥満,高血圧,過去・現在を含めた喫煙習慣,試験参加以前からのHRTの経験などを有する女性を対象者に多く含んでいるため,本結果を他の集団に当てはめるべきでないという見解も出されている355)。また,本試験で使用されたホルモン剤は,結合型エストロゲンと酢酸メドロキシプロゲステロンの合剤の1種類のみであること,また,エストロゲン製剤はその種類や投与経路,あるいは投与量により脂質代謝や血清蛋白に与える影響が異なるので,ほかのエストロゲン製剤では異なる結果が得られる可能性を否定できない。ましてや,日本とは疾病構造,死亡率および遺伝的背景や生活習慣が異なる対象集団での試験であるので,これをそのまま日本人に当てはめて考えることは妥当ではない356)。HRTの副作用の出現時期や頻度は副作用ごとに異なり,HRTの開始年齢や開始時の臨床背景,および遺伝的特異性の有無などの影響を受ける357)


推奨

骨密度:骨密度増加効果がある(グレードA)。
椎体骨折:椎体骨折を防止する(グレードA)。
非椎体骨折:非椎体骨折を防止する(グレードA)。
上記のエビデンスは主として結合型エストロゲンに関する結果である。結合型エストロゲンに関しては世界的な総合評価はグレードBであるが,わが国では骨粗鬆症に対する保険適応がないため,他の女性ホルモン製剤(エストリオール,17βエストラジオール)が骨粗鬆症に対する総合評価の対象となる。しかし,これらの薬剤のエビデンスは極めて少ないため,結果として下記の総合評価となった。
(総合評価:グレードC)

 

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