ガイドライン

(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン

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IV 骨粗鬆症の予防

 
B.中高年者の予防と検診

中高年者における骨折・骨粗鬆症予防のためには,骨量の維持,特に女性での閉経後骨量減少の最小化,そして転倒防止が重要である。閉経後骨量減少の一次予防のためには,標準体重の維持,食事・栄養摂取の適正化,運動習慣・活発な身体活動の維持が重要である163)。これらについては「IV 骨粗鬆症の予防 A.若年者の予防」,ならびに「V 骨粗鬆症の治療 C.骨粗鬆症の一般的な治療(薬物以外) a.食事指導」および「b.運動指導」で述べられているので参照されたい。本項では骨粗鬆症の二次予防,すなわち骨粗鬆症検診について述べる。同検診で用いられるスクリーニング検査には二重エックス線吸収法(DXA)や定量的超音波法(QUS)があるが,臨床的なリスク要因を多くもつ者は骨粗鬆症のリスクが高いので,それらの評価でスクリーニングできる可能性もある。そこで,以下の検討課題を設定した。


Research Question
中高年者に対する骨量測定によって治療等の介入の必要な人を正確に抽出できるか

閉経期女性を対象にした骨密度と骨折のコホート研究は少なく,骨密度測定部位と部位別骨折リスクとの検討もされていないが,全般的にみて低骨密度の女性ではその後の骨折リスクが高かった164)。60歳以上の白人女性についてのコホート研究のメタアナリシスによれば77),165),女性ではDXAか一重エックス線吸収法(SXA)で測定した全骨部位における骨密度が1標準偏差(SD)低いと,測定後1.8~24年間の骨折相対リスク(RR)はおおむね1.5(1.4~1.6)となった。測定部位によるリスクの差は大きくなかったが,大腿骨頸部骨折発生は大腿骨頸部骨密度と最も強く関係し,RRは2.6であった(表25)。骨密度と骨折のRRとの関係は,骨密度測定からの期間が長くなるほど弱く,高齢者では弱かった。男性についての検討は少ないが,女性と同様の結果であった。QUSによる踵骨評価もDXAと同程度に骨折リスクを表すが166),測定値の精度や季節変動に問題がある167)。日本人については原爆生存者コホートの結果のみで,女性における椎体骨折のRRは腰椎骨密度1SD低下につき1.54,大腿骨頸部骨密度で1.78で,男性ではやや小さくなったが同様の結果であった22)
以上より,中高年女性ではDXAによる骨密度が向こう5年程度まで骨折リスクを表す(レベルIV)。したがって,治療などの介入が必要なRRを設定すれば,ひるがえって介入すべき骨密度のカットオフを決定できる。男性においても同様と考えられる。

[エビデンステーブル]
表25 中高年者における骨折・骨粗鬆症の二次予防について
文献 研究デザイン 対象者 検討方法 結果変数 結果の概要 エビデンス
レベル
77) メタアナリシス 1985~1994年発表の11の前向きコホート集団。約90,000人年の観察期間に2,000以上の骨折。 骨密度1SD低下あたりの骨粗鬆症性骨折の年齢調整相対リスク(RR)を,測定と骨折の部位別に算出。1990~94年発表の大腿骨頸部骨折の患者対照研究も補足的に利用。 骨密度1SD低下あたりの年齢調整骨折RR 椎体骨折RR1.7~2.4,大腿骨頸部1.6~2.6,橈骨遠位部1.4~1.8,全骨折1.4~1.6でいずれも有意。椎体骨折は腰椎骨密度(RR2.3),大腿骨頸部骨折は大腿骨頸部骨密度(RR2.6)がリスクをよく表す。患者対照研究でも同様の結果。 I
22) コホート研究 47~95歳の日本人男性763人女性1,593人。原爆生存者成人健康研究より抽出。 ベースラインに腰椎,大腿骨近位の骨密度を測定し,平均4年間追跡。新規の椎体骨折をエックス線撮影で,大腿骨頸部骨折をカルテで把握。 骨密度1SD低下ごとの年齢調整骨折RR 腰椎骨密度1SD低下あたりの椎体骨折RR1.54,大腿骨頸部骨密度では1.78。大腿骨頸部骨折は数が少ないが,RRは白人と大差なし。男性でもほぼ同様。 IV
58) コホート研究 アジア8ヵ国の45~88歳の閉経女性860人で指標を開発し,日本人閉経女性1,123人で妥当性を検証。 11項目のリスク要因で大腿骨頸部骨密度T値≦-2.5を診断する回帰式をつくり,有意な変数を選択。ROC解析でカットオフ値を設定。それを検証用コホートに適用して妥当性を検証。 大腿骨頸部骨密度のT値≦-2.5の者の抽出 変数選択の結果,年齢と体重だけのスコアとなった。スコア≦-1をハイリスクとすると存在率60%,Se 91%,Sp 45%,PPV 21%。検証用コホートではそれぞれ75%,98%,29%,21%。 IV
171) 無作為割付比較試験 英国の家庭医登録者から抽出した45~54歳女性4,800人。 無作為に同数の2群に分け,一方に腰椎と大腿骨頸部の骨密度測定を行い,低い側1/4を抽出して,家庭医を通じてホルモン補充療法(HRT)を推奨し(A群),他方は放置した(C群)。9年後,郵送で治療状況と骨折状況を調査。 全骨折の発生率と年齢,身長,体重調整
RR,relative risk reduction(RRR)
A群59.7%,C群56.8%が回答。A群はC群よりHRT(52.4% vs 44.5%,p<0.001),他の治療薬(36.6% vs 21.6%,p<0.001)が高率。骨折は全部位でA群7.9%,C群9.4%発生し,年齢,身長,体重調整RRRは25.2%(RR=0.748,95%CI:0.569~0.986)。 II
172) 非無作為割付比較試験 他目的コホート研究に参加した65歳以上男女4地区計3,107人。 2地域住民(1,422人)に大腿骨頸部骨密度測定,他の2地区(1,685人)は放置し,6年観察。退院時記録より大腿骨頸部骨折を把握。多要因調整骨折ハザード比(HR)を算出。 大腿骨頸部骨折の発生の多要因調整HR 大腿骨頸部骨折発生率は骨密度測定群4.8/1,000人年,非測定群8.2で,HR0.64(95%CI:0.41~0.99),RRR34%。HR0.75の要因が実施群に30%多く存在すると仮定するとHR0.69(0.45~1.08)。 III


Research Question
中高年者における臨床的リスク要因の評価によって骨量測定の必要な人を正確に抽出できるか

このためには,年齢,体重,既存骨折,ホルモン補充療法(HRT),喫煙などの複数のリスク要因を組み合わせてスコア化したSCORE168),ORAI169),FOSTA(原文ではOSTA)58)などがある。しかし,前二者は白人女性を対象にしているが,FOSTAはアジア人女性を対象にした年齢と体重からなる簡単な指標で,日本人女性の検証用コホートでも,大腿骨頸部骨密度のT値≦-2.5SDを感度98%,特異度29%で抽出できた170)。この種の指標はいずれも感度は高いが特異度が低く,そのため,陽性反応的中度は低いが,高い陰性反応的中度が期待できる。したがって,骨密度測定が必要な者を抽出するためではなく,必要のない者を除外する目的で使用できよう(レベルIV)。同様の指標を用いて骨折リスクの高い者を抽出する試みは成功していない。また,男性用の指標はない170)


Research Question
中高年者において骨量測定を用いた骨粗鬆症検診は骨折を減らすうえで有効か

この課題を検証したはじめての無作為割付比較試験(RCT)が2005年9月米国骨代謝学会で報告された。Barrら171)は,英国の45~54歳女性4,800人を無作為に同数の2群に分け,一方(A群)に腰椎と大腿骨頸部の骨密度測定を行って,低い側1/4に家庭医を通じてHRTを推奨し,他方(C群)は放置した。9年後A群はC群より高率にHRTや,他の骨粗鬆症治療を受けていた。骨折はA群7.9%,C群9.4%に発生し,relative risk reduction(RRR)は22.9%,年齢,身長,体重を調整すると25.2%で有意となった。しかし,このRCTはintention-to-treat分析をしておらず,RRRを過大評価している可能性がある。しかも40%強の脱落がある。したがって,この結果をもってただちに検診を推奨するわけにはいかないが,骨折率の低い閉経周辺期女性でも検診の有効性が示唆された意義は大きい。
Kernら172)は,65歳以上の2地域住民(1,422人)にDXAによる大腿骨頸部骨密度測定を実施し,他の2地区住民(1,685人)には実施せずに6年間観察する非無作為割付比較研究を実施した結果,大腿骨頸部骨折発生率は実施群で1,000人年あたり4.8,非実施群8.2で,多要因調整のRRRは34%と報告した。この研究はRCTではないので,測定できない交絡要因の影響は否定できない。しかし,ハザード比0.75の要因が実施群に30%高率に存在すると仮定しても,30%程度のRRRは認められ,ある程度は信頼できる結果と評価できよう。
検診の効率の評価として,5歳階級別に大腿骨頸部骨折173)と椎体骨折168)の年間発生率を仮定し,10,000人が検診を受け,大腿骨近位部骨密度のT値≦70%をハイリスク群として抽出し174),その70%が治療を継続し171),治療のRRRを大腿骨頸部骨折で37%,椎体骨折で48%と仮定175)した場合に,5年間の同骨折absolute risk reduction(ARR)と同骨折1件を予防するために検査しなければならない数number needed to screen(NNS)を計算した(表26)。NNSは骨折発生率に大きく依存するので,検診は大腿骨頸部骨折を予防するには効率的とはいえないが,65歳以上の椎体骨折については効率的といってよい。しかし,骨折発生率が低いこれより若い年代では非効率である。US Preventive Services Task Force170)やCummingsら165)も同様の見解で,National Institute of HealthのConsensus Development Pane36)は経済分析の不足など根拠不十分として骨粗鬆症検診そのものを推奨していない。
現在わが国の骨粗鬆症検診は40歳から70歳までの女性を対象に5歳刻みの節目検診として広く行われている。65歳未満については骨粗鬆症予防のための生活習慣改善が主眼であり,骨折予防のために同検診が有効なのは65歳以上の女性(レベルIV),あるいはこの年代に匹敵する骨折率が予想される男女と考えられる。

表26 骨折1件を減らすために検診しなければならない数(NNS)のシミュレーション
  年齢群
50~54 55~59 60~64 65~69 70~74 75~79
仮定 対象者数 10,000 10,000 10,000 10,000 10,000 10,000
年間骨折発生率 大腿骨頸部(対105a 10 37 51 108 197 480
椎体(対104b 41 63 125 188 288 438
ハイリスク者の割合(%)c 0.8 4.0 6.2 12.8 24.8 40.4
ローリスク群に対するハイリスク群の骨折RRd 4 4 4 4 4 4
治療継続割合e 0.7 0.7 0.7 0.7 0.7 0.7
治療のRRR 大腿骨頸部骨折f 0.37 0.37 0.37 0.37 0.37 0.37
椎体骨折f 0.48 0.48 0.48 0.48 0.48 0.48
観察期間(年) 5 5 5 5 5 5
結果 検診によるARR 大腿骨頸部骨折 0.04 0.7 1.4 5.2 14.5 45.4
椎体骨折 2 15 44 116 274 537
検診のNNS 大腿骨頸部骨折 242,089 14,609 7,165 1,937 690 220
椎体骨折 4,747 667 227 86 36 19
RR:Relative risk,RRR:Relative risk reduction,ARR:Absolute risk reduction,NNS:Number needed to screen
a文献173より1992~1994年の平均,b文献22 Figure1より計算,c文献174より,d文献77より推測,e文献170の仮定より,f文献175より


評価と推奨

1 骨粗鬆症検診は骨粗鬆症の早期発見とともに骨折ハイリスク群を抽出することを目的とする。
2 骨粗鬆症の早期発見には骨密度測定(腰椎,大腿骨,橈骨,中手骨)が有用である(グレードA)。
3 骨折ハイリスク群の抽出には骨密度測定の他に,QUSの利用も可能である(グレードB)。

 

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