ガイドライン

(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン

書誌情報
II 骨粗鬆症の診断

 
A.総論
b.医療面接(病歴の聴取)

Research Question
医療面接(病歴の聴取)の目的は何か

医療面接を事前に行うことによって,骨粗鬆症検診や骨粗鬆症診療の効率化が図れる。また,骨粗鬆症の予防方法や治療方法の適正な選択を行うための糸口となるなどの利点があり,骨粗鬆症の検診や診療では必須である。


Research Question
医療面接する一般的な方法は

医療面接には,聞き取り式と自己記入式がある。聞き取り式の聴取は時間を要するが,理解度の低い高齢者や視力障害者でも正確に情報を得ることができる。自己記入式は,待ち時間に行えば検診や診療時間を有効に利用でき,回答する者もよく考えたうえで記入することができる。回答が未完成の部分は,聞き取り調査を適宜追加すれば,正確な病歴の調査を行うことができる利点がある。


Research Question
医療面接で必要な内容は何か

医療面接の内容には,
1 受診目的
2 症状およびADL
3 年齢および閉経時期
4 既往歴および現在治療中の病気
5 過去の骨粗鬆症検査の有無および結果
6 骨粗鬆症および骨粗鬆症骨折の家族歴
7 骨折の既往
8 食事内容
9 嗜好品
10 運動の頻度および程度
11 子供の有無
が網羅されている必要がある55)

医療面接の内容は,対象とする年齢が若年者であるか,高齢者であるかによっても異なるし,その目的が骨粗鬆症の検診であるか,骨粗鬆症の診療であるかなどによっても,重点をおくポイントはそれぞれ異なる。


Research Question
骨粗鬆症の検診において医療面接はなぜ重要か

骨量減少には多くの要因が関係している。その要因は骨量減少の危険因子とよばれているが,危険因子のなかには,その後の努力により改善できる因子と除去することは難しい因子がある(表7)。骨粗鬆症の検診においては,特にその後の努力により除去できる要因についてていねいな医療面接を行っておけば,検診後の事後指導あるいは骨粗鬆症の一次予防を効率よく行える。

表7 骨粗鬆症の危険因子(老人保健法による骨粗鬆症予防マニュアルより)
  除去しえない危険因子 除去しうる危険因子  
  加齢   カルシウム不足  
  性(女性)   ビタミンD不足  
  人種(白人>黄色人種・黒人)     ビタミンK不足  
  家族歴   リンの過剰摂取  
  遅い初経   食塩の過剰摂取  
  早期閉経   極端な食事制限(ダイエット)  
  過去の骨折   運動不足  
      日照不足  
      喫煙  
      過度の飲酒  
      多量のコーヒー  


Research Question
骨粗鬆症の診断において医療面接はなぜ重要か

原発性骨粗鬆症の診断は,退行期に腰背部痛をきたすさまざまな椎体疾患や骨減少を生ずる骨萎縮性疾患を念頭におきながら,問診や身体所見,エックス線写真や血液生化学検査などを総合的に評価して行われる。したがって,他の疾患からの除外診断を正確に行うためには,ていねいに医療面接することが重要である。


Research Question
医療面接すべき椎体疾患にはどのようなものがあるか

臨床症状が原発性骨粗鬆症と酷似する椎体疾患との鑑別が重要となる。日本骨代謝学会により提唱された原発性骨粗鬆症の診断基準では,これらの疾患は低骨量を呈する疾患のなかで「その他の疾患」として分類されている(表89)
日常経験する頻度と疾患の重篤性から考えると,骨軟化症,悪性腫瘍の骨転移に関する医療面接が重要である。

表8 退行期に腰背部痛をきたし,骨粗鬆症との鑑別を要する椎体疾患
  各種の骨軟化症  
  原発性,続発性副甲状腺機能亢進症  
  悪性腫瘍の骨転移  
  多発性骨髄腫  
  脊椎血管腫  
  脊椎カリエス  
  化膿性脊椎炎  


Research Question
骨軟化症の医療面接のポイントは

骨軟化症は,類骨組織へのリンの沈着障害を基本とする疾患で,どの型の骨軟化症も疼痛,筋力の低下,骨格の変形を主徴候とする。なかでも腰背部痛は最も高頻度にみられる臨床症状で,高齢者では原発性骨粗鬆症の疼痛と鑑別することが困難である。低リン血症が進行した骨軟化症では,著しい筋力低下も自覚する56)


Research Question
転移性脊椎腫瘍の医療面接のポイントは

骨腫瘍のうち最も頻度の高いものは悪性腫瘍の骨転移であり,転移部位として脊椎骨が最も多い。また脊椎骨への転移をきたす原発巣としては,肺癌が最も多く,乳癌,子宮癌,胃癌の順である57)。腰背部痛を訴える場合には,これらの疾患に関する医療面接をする必要がある。
転移性脊椎腫瘍では罹患部位の頑固な疼痛をきたすことが多く,帯状痛や坐骨神経痛などの放散痛を認める。疼痛の程度は概して強く,動作時のみでなく安静時にも痛みを生じて睡眠を妨げられることも多い。また,脊柱管や脊髄組織への浸潤の程度によっては,横断性の脊髄麻痺症状を呈することもある。好発年齢は原発性骨粗鬆症と共有するため,悪性腫瘍の既往があり,その後強い腰背部痛をみる症例では,まず悪性腫瘍の脊椎骨への転移を疑うべきである。


Research Question
医療面接すべき骨減少性疾患にはどのようなものがあるか

測定精度の高い骨密度測定法が普及し,骨粗鬆症の診断はより客観的に行われている。その反面,骨密度測定値のみが一人歩きして「骨密度が低いので骨粗鬆症である」といった短絡的な解釈が行われることがある。したがって,原発性骨粗鬆症の診断に際しては,種々の原因によって生ずる骨減少性疾患,すなわち続発性骨粗鬆症と厳密に鑑別する必要がある。日本骨代謝学会による原発性骨粗鬆症の診断基準では続発性骨粗鬆症を念頭におき,医療面接すべき疾患を明記している(表99)。これらの疾患との鑑別は医療面接のみでは難しい点も多いが,骨密度値のみを拠りどころに原発性骨粗鬆症を診断するのは慎むべきである。

表9 原発性骨粗鬆症と鑑別が必要な骨減少性疾患
  1 内分泌性
甲状腺機能亢進症,性腺機能不全,Cushing症候群
 
  2 栄養性
壊血病,その他(蛋白質欠乏,ビタミンAまたはD過剰)
 
  3 薬物
コルチコステロイド,methotrexate(MTX),ヘパリン
 
  4 不動性
全身性(臥床安静,対麻痺,宇宙飛行),局所性(骨折後など)
 
  5 先天性
骨形成不全症,Marfan症候群など
 
  6 その他
関節リウマチ,糖尿病,肝疾患など
 


まとめ

1 医療面接を事前に行うことは骨粗鬆症の検診や診療では必須である。
2 医療面接の内容は,対象とする年齢やその目的により聴取するポイントは異なる。
3 骨粗鬆症の検診における医療面接は,特に食生活や運動習慣などその後の努力により除去できる要因に重点をおく。
4 骨粗鬆症の診断における医療面接は,退行期に好発する椎体疾患や骨減少を生ずるさまざまな骨減少性疾患を念頭におきながら行うことが重要である。特に疾患の頻度と重篤性から考えると,骨軟化症,悪性腫瘍の骨転移に関する医療面接が重要である。

 

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