ガイドライン

(旧版)科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン 2009年版

書誌情報
 
CQ4 外科的治療法



CQ4-6 非切除バイパス,胆管ステント療法は意義があるか?

推奨
外科的切除を目的に開腹し,非切除となった黄疸を伴う膵癌に対しては胆管空腸吻合術による減黄術,予防的胃空腸吻合術が推奨される (グレードB)


【エビデンス】
膵癌の保存的治療の対象となるのは(1)閉塞性黄疸,(2)十二指腸狭窄による通過障害,(3)癌性疼痛などである。CQ4は外科的治療の分野であるので,CQ4-6は外科的治療についての記載にとどめ,ステントチューブ間の検討,チューブステントかメタリックステントかの検討,ERCPルートかPTCDルートの検討,消化管ステント,体外アプローチによる神経ブロックなどは外科的治療に直接かかわらないので今回は割愛する。緩和医療に関しては日本緩和医療学会のホームページ(http://www.jspm.ne.jp/guidelines/sedation/sedation01.pdfhttp://www.jspm.ne.jp/guidelines/index.html1),2) (レベルI)を参照されたい。
膵癌の外科的補助療法に対するRCTをまとめた総説が3つ発表されている3)〜5)(レベルIVb)。(1)閉塞性黄疸,(2)十二指腸狭窄による通過障害,(3)癌性疼痛の順序で記載する。

1.閉塞性黄疸の減黄について
減黄術に関してERCルートよりのチューブステントと外科的減黄術を比較したRCTは3つ6)〜8)(レベルII)(表8)あり,メタアナリシスは2つ9),10)(レベルI)ある。悪性下部胆管狭窄に限っての内視鏡的ステントと外科的減黄術に関するシステマテックレビューとメタアナリシスが2007年にMossら10)(レベルI)により報告された。
ERCルートによるチューブステントと外科的減黄を比較した3つのRCT6)〜8)(レベルII)がある。Shepherdら6)(レベルII)によればステントは初回入院日数が有意に短かった。長期的には生存率は両群では変わらず,黄疸は90%以上で減黄された。ステントでは引き続いての入院を要したが,総入院日数は外科的減黄より短く,内視鏡的チューブステントは外科的減黄術に代わり得るものだとしている。Andersonら7)(レベルII)は生存時間,合併症,入院日数,QOLでステントと外科的減黄に違いはなかったとしている。Smithら8)(レベルII)の報告が101例と100例で最も症例数が多く,減黄率は両者で相違はなかったが,内視鏡的チューブステントのほうが関連死亡が有意に少なく(3%と14%,P=0.01),治療関連合併症も有意に少なく(11%と29%,P=0.02),平均入院日数も有意に少なかった(20日と26日,P=0.001)。しかし,黄疸再発は内視鏡的チューブステントで多く(35.6%と1.9%),上部消化管通過障害はステントに多く(17%と7%),メディアン生存期間は21週と26週で差はなかった。以上より,早期治療に伴う合併症は内視鏡的チューブステントで少なく,晩期の合併症は外科的減黄術で少ないと述べている。
Taylorら9)(レベルI)のこれら3つのRCT6)〜8)(レベルII)に関するメタアナリシスでは(1)減黄失敗,重症合併症はさまざまで明らかな差はなかった,(2)内視鏡チューブステントでは外科的減黄術よりもさらなる治療を要した,(3)30日死亡率は異ならなかった,(4)外科治療は引き続きの治療を要さなかった,(5)内視鏡的チューブステントと外科的減黄術との間に明らかな差はなかった,と述べ,より大きなRCTで新たなメタリックステントと外科的黄疸との比較が必要である。また適切なQOLの評価も必要であると述べている。Mossら 10) (レベルI) の悪性下部胆管閉塞に対する内視鏡的チューブステントと外科的減黄術の3つのRCT 6)〜8) を使ったメタアナリシスでは技術的成功,治療的成功に両群間に差はなかった。全合併症はステントで有意に少なく,30日以内死亡はステントのほうが良い傾向であった。黄疸再発は有意に外科的減黄術で少なかった。生存率とQOLに両群間に差はなかった。3つのRCTの中,2つのシリーズではステント群で総入院日数が短かった。
メタリックステントと外科的減黄術のRCTは1つ 11) (レベルII) ある。2007年に出たメタリックステントと外科的減黄術のRCT 11) (レベルII) では内視鏡的メタリックステントは外科的減黄術より安く,QOLがより良いとの結果であった。
経皮経肝ルートによるステントか外科的減黄術かの比較については,1986年にBornmanら 12) (レベルII) の検討により経皮経肝ルートによるステント(PTE)と外科的減黄術の比較がRCTでなされた。PTEは最初の入院は短いが,総入院日数はPTEと外科的減黄術とで違いはなく,ステントの閉塞,消化管閉塞を考えると両者間に差はないとしている。
外科的減黄術の術式には胆嚢空腸吻合術と胆管空腸吻合術があるが,それらを比較したSarfehら 13) (レベルII) のRCTでは胆嚢空腸吻合術のほうでは再狭窄が多く,胆管空腸吻合術のほうでは開存率がよく,悪性胆管狭窄には胆管空腸吻合術のほうが良いとしている。

  表8  急性閉塞性黄疸における胆道ステントと手術によるバイパスの3つの前向き試験
Shepherd HA
1988
Anderson JR
1989
Smith AC
1994
Moss AC
2007
stent surgery stent surgery stent surgery stent surgery
患者数 23 25 23 25 100 101 153 153
男/女 10/13  17/8 11/14  8/17 45/56 40/60    
平均年齢 72.8 73.2 77 76 70 70    
悪性確信例 48% 68% 76% 68% 100% 100%    
技術的成功 82% 92% 88% 88% 95% 94% 93% 90%
治療的成功         92% 92% 90% 90%
合併症 30% 56% 30% 20%    11%*1    29%*1    29%*2    50%*2
30日死亡  9% 20% 20% 24%  8% 15% 10% 17%
胆道狭窄再発         36%  2%    36%*3     2%*3
*1:P=0.02,*2:P=0.007,*3:P<0.00001

2.予防的胃空腸吻合について
予防的胃空腸吻合については2つのRCTが発表されている14),15)(レベルII) 。膵癌の外科的切除を目的に開腹しても非切除となることがしばしばあり,その際,予防的胃空腸吻合が問題となる。開腹時,消化管の通過障害がなかった症例でも10〜20%には将来的に消化管の通過障害をきたすことが知られており,Lillemoeら 14) (レベルII) や,Cameronら 15) (レベルII) のRCTでは胃空腸吻合を行うことにより,合併症,術死,術後入院日数,QOL,予後に変化はなく,将来的に胃空腸吻合などを受ける必要がなくなり,予防的胃空腸吻合は意義があるとされている。さらに,胃空腸吻合での順蠕動と逆蠕動の吻合を比較したYilmazら 16) (レベルII) のRCTでは両者間に術後合併症,経口開始までの期間,再開腹率,上部消化管出血,術死,入院日数と生存期間に有意差はなかった。順蠕動のほうが逆蠕動より有意に手術時間が長く,逆蠕動に胃排泄遅延が少ない傾向にあった。順蠕動も逆蠕動も術後の胃の排泄時間を有意に延長した。順蠕動のほうが臨床的に良い結果となる傾向にあった。

3.癌性疼痛に対する外科的治療について
癌性疼痛に対する外科的治療については開腹下14)(レベルII)や胸腔鏡下17)(レベルII)のブロックについてのRCTが報告されている。開腹下での50%エタノールによる神経ブロックについて,生食水をプラセボとして比較検討したところ,平均痛みのスコアは有意に軽減したが,入院時死亡,合併症,経口摂取開始,入院日数に差はなかった14)(レベルII)。また,痛みのなかった患者へのブロックは痛みのスコアを軽減し,さらに痛みの発生を有意に遅らせた。さらに予後の改善が有意に認められた。別な手術的アプローチである両側胸腔鏡下神経ブロックでは良性,悪性の膵性疼痛に対して有効な治療法であることが示されている17)(レベルII)

【明日への提言】
臨床の場では非切除膵癌が大多数を占める現実を考えると減黄術,消化管バイパス,癌性疼痛除去などは重要である。しかし,わが国ではやや置き去りにされてきた分野でもある。鏡視下手術でのバイパスや新規ステントの開発や改善などが進んでおり,きちんとしたRCTを行い,問題を整理していく必要がある。

【引用文献】
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2) 日本緩和医療学会.「終末期における輸液治療に関するガイドライン作成委員会」 厚生労働科学研究「第3次がん総合戦略研究事業 QOL向上のための各種患者支援プログラムの開発研究」班 終末期癌患者に対する輸液治療のガイドライン.日本緩和医療学会承認(http://www.jspm.ne.jp/guidelines/glhyd/glhyd01.pdf)2006年10月15日.
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16) Yilmaz S, Kirimlioglu V, Katz DA, Kayaalp C, Caglikulekci, Ara C. Randomised clinical trial of two bypass operations for unresectable cancer of the pancreatic head. Eur J Surg 2001;167:770-776.
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