ガイドライン

(旧版)科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン 2009年版

書誌情報
 
CQ4 外科的治療法



CQ4-1 Stage IVa膵癌に対する手術的切除療法の意義はあるか?

推奨
Stage IVaまでの膵癌(注)には根治を目指した手術切除療法を行うことが勧められる(グレードB)
(注)『膵癌取扱い規約』第4版のS2またはRP2またはPV2,かつN0またはN1のStage IVaが対象。


【エビデンス】
手術適応を,他の治療modalityと比較した臨床研究についての報告は日本からの2編のみ存在する1),2)(レベルII) 。この研究は厚生労働省の助成する班研究として日本全国の一定レベルの規模がある施設からの登録症例を,手術中の所見をもとに登録条件を満たしているかどうかを厳密に選別し,そのうえで外科切除手術と化学放射線療法に無作為化割り付けした。その治療成績を比較検討したところ,外科切除群が化学放射線療法群に比較して1年生存率(62% vs.32%),平均生存期間(17カ月 vs.11カ月),ハザード比(0.64)で優っていた。またQOLに差はなかった。この臨床試験は膵頭部癌と膵体尾部癌を含むが,癌占拠部位は予後規定因子ではなかった。この臨床試験は,遠隔転移がなく,『膵癌取扱い規約』第4版のN0,N1までの患者を対象病期とし,A2を除外している。すなわち『膵癌取扱い規約』第5版のS(+),RP(+),PV(+)によって膵外進展していると考える病期であり,A(+)例は対象になっていない点に注意が必要である。このような患者を対象に,手術切除を行うことは患者の利益になると結論されている。この報告は開腹所見を基準に判定している。術前のCTを用いた画像診断の前方浸潤,後方浸潤,門脈浸潤に対する正診率はそれぞれ65%,84%,86%であった。したがって,治療法の決定は,開腹診断を基準に行うべきであると述べられている。この臨床試験は,5-FUを増感剤とした化学放射線療法を外科切除と比較しているが,現在はゲムシタビン塩酸塩を増感剤とした化学放射線療法の有用性が検討されており,再検討が必要になるかもしれない。
膵切除のような侵襲を伴う手術切除は,手術のリスクとこれに見合うアウトカムとのバランスが適応を決する条件となる。単一施設における後ろ向き解析で,年代ごとに手術死亡率が減少し,術後生存期間が改善されていることが報告されている3),4)(レベルIVa)。Johns Hopkins大学では1970年から1994年に組織学的に膵管癌と診断され,PDが行われた201例についてアウトカムを10年ごとに解析した3)(レベルIVa)。このシリーズの全体の手術死亡率は5%であるが,最初の52例については死亡率17%,のちの149例については死亡率0.7%であった。3年生存率は1970年代14%,1980年代21%,1990年代36%と有意に改善していた。大阪成人病センターでは膵頭部癌に対し,1971年から1981年の37人にR1(D1)手術,1981年から1986年の22人に対しR2(D2)手術を行い,手術死亡率がそれぞれ14%と5%であり,3年生存率はそれぞれ13%と38%であったと報告した4)(レベルIVa)。これらの報告は,近年手術成績が改善してきていることを示しており,手術適応を推奨する側面的根拠といえる。
一方で膵切除手術は,手術を実施する施設の規模と,アウトカムに相関があることが報告されている。オランダの患者登録を用いて1994年から1998年にPDが行われた1,126人のアウトカムを解析した5)(レベルIVa)。年間PD施行数が5件未満の施設では死亡率16%,5件から9件の施設では死亡率13%,10件から24件の施設では死亡率8%,25件以上行っている施設では死亡率1%であった。他にも同様の報告があり,いわゆるhigh volume centerにおける膵切除手術の成績が良好であることが示されている6),7)(レベルIVa)。また米国の癌登録を利用して,11の癌登録センターのデータから65歳以上の遠隔転移のない膵癌に対する治癒切除患者396人の,予後規定因子を解析した結果,多変量解析で腫瘍径,リンパ節転移の有無,組織学的gradeとともに,医育機関での手術かどうかが,予後因子として抽出された8)(レベルIVb)。したがって,Stage IVaまでの膵癌に手術を推奨するが,手術を実施する施設については別途考慮が必要である。
膵体尾部癌(DP)については,膵頭部癌に比較して切除率が低いが,アウトカムは膵頭部癌と変わらないとする報告が多い。Memorial Sloan-Kettering Cancer Centerで1983年から1994年に行われた膵癌に対する膵体尾部切除術のアウトカムを解析した結果,DP34人の手術死亡率は0%,5年生存率は14%であった9)(レベルIVa)。Heidelberg大学で1972年から1990年までに膵癌に対して行われた13例のDPは,全体の中の切除率は12%,生存期間の中央値は13カ月であった10)(レベルV)。Mayo Clinicで1963年から1987年に行われた治癒切除となったDP44人について解析した。このうち膵癌は26人であったが,全体での手術死亡は2%,合併症率9%,生存期間中央値10カ月,2年生存率15%,5年生存率8%であった11)(レベルIVa)。米国のVeterans Hospital 159施設で1987年から1991年に行われた膵癌に対するDP29例を,同時期のPD252例のアウトカムと比較した結果,死亡率は21%と8%,合併症率は44%と36%,平均生存期間は646日と453日であった12)(レベルIVa) 。死亡率が高いのは,いろいろなレベルの病院全体の統計であるためと解析されている。以上の報告から,膵体尾部癌に対する切除基準の考え方は膵頭部癌と同様でよいと考えられる。
膵全摘術(TP)の結果についての報告は,おおむね膵全摘の適応について懐疑的である。Mayo Clinicで1951年から1978年に行われた51人の膵癌に対するTPについて,アウトカムを検討したところ,手術死亡率14%,入院期間26日,インスリン必要量24単位/日であり,3年生存率は9%,5年生存率は2.3%,生存期間の中央値13カ月であった。2人が糖尿病で死亡している。症例の31%が多中心性膵癌であり,49%に領域リンパ節転移陽性であった13)(レベルIVa)。また,Bringham and Women's Hospitalで1970年から1986年にかけて膵癌に対して行われたTP48人についてアウトカムを検討した結果,1970年から1976年の死亡率は18%であり,1977年から1986年は0%であった。全体の5年生存率は14%であった14)(レベルIVa)。Memorial Sloan-Kettering Cancer Centerで1983年から1998年に行われた膵癌に対する膵切除患者488人のうち,TP28人のアウトカムを検討した結果,死亡率1%,合併症率54%,入院期間32日,生存期間中央値9.3カ月であり,断端陽性は予後に影響しなかった15)(レベルIVa)。いずれの結果もTPは比較的安全に行えることを示しているが,他の治療法の成績を併せ考えると,現在膵癌に対してTPを推奨するエビデンスはないといえる。

【明日への提言】
本CQに対する推奨のエビデンスとなっている臨床試験1),2)(レベルII)は,切除手術の意義と画像による病期診断の精度についての2つの重要な成果をわれわれに明確に示している。臨床研究で対象となった病期の膵癌ではR0手術が可能であり,一部の患者では治癒を含む長期生存が得られる。したがって,治癒の可能性を期待した治療方針を選択する場合には,切除手術を実施することが理にかなっている。さらに群として生存期間の期待値の長短による比較を行った場合にも,手術切除群が放射線化学療法群に比較して利益がある。しかし,手術切除群が放射線化学療法群に優ったとはいえ,その治療成績は決して満足できるものではないことを認識しなければならない。
この臨床試験のもう1つの成果は,現時点では術前の画像病期診断の正診率が低く,正確な病期診断には開腹所見が必要だということである。このことは外科医のみならず,手術治療に携わらない診断医,化学療法医,放射線治療医も十分認識すべきであり,画像のみを根拠に安易に治療方針を決定すべきではない。将来的には,さらに強力な診断技術の開発が行われることを期待したい。

【引用文献】
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2) Imamura M, Doi R, Imaizumi T, Funakoshi A, Wakasugi H, Sunamura M, Ogata Y, Hishinuma S, Asano T, Aikou T, Hosotani R, Maetani S. A randomized multicenter trial comparing resection and radiochemotherapy for resectable locally invasive pancreatic cancer. Surgery 2004;136:1003-1011.
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