ガイドライン

(旧版)科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン 2009年版

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CQ1 診断法


CQ1-2 膵癌の臨床症状は何か?

   臨床症状
 
  1. 腹痛が最も多く,次いで黄疸,腰背部痛,体重減少などがみられる。
  2. 初発症状がないこともある。
  3. 3年以内の急激な糖尿病(糖代謝障害)発症が約半数にみられる。

推奨
1. 他に原因のみられない腹痛,腰背部痛,黄疸,体重減少は膵癌を疑い検査を行うが(グレードB) ,有症状の場合は進行癌が多い。
2. 急激な糖尿病(糖代謝障害)の発症や悪化は膵癌合併を疑い,検査を行う(グレードB)。特に糖尿病発症後3年は注意を要する。


【エビデンス】
初発症状として腹痛,黄疸,腰背部痛が多く,次いで体重減少,消化不良症状などである1),2),3)(レベルIVb)。膵癌の局在から比較すると,頭部癌で症状の発現率が最も高く,黄疸63%,腹痛64%,体重減少53%がみられ,体部癌では腹痛が93%と最も高い4)(レベルIVb)。また,膵癌患者の0〜15%に,腹痛や黄疸が発現する前に食欲低下(22%),掻痒感(6.6%),便通変化(4.9%),気分の変化(3.3%),嗜好の変化(1.6%)などの多様な非特異的症状が認められたとの報告がある5)(レベルIII)。わが国の膵癌集計によると,初発症状のない膵癌が15.4%であった2)(レベルIVb)。2cm以下の膵癌では初発症状として腹痛が24.5%と最も多いが,18.1%が無症状という報告6)(レベルIVb)もある。
糖尿病はしばしば膵癌の既往歴にみられるが,膵癌が診断される前に糖尿病が発症していることが多く,膵癌患者187例での検討で先行2年以内の糖尿病発症が52.5%と高率に認められている7)(レベルI)8)(レベルIVb)。2cm以下の膵癌では糖尿病の増悪が8%に認められている6)(レベルIVb)。また,50歳以上の糖尿病初発患者2,122名の約1%が3年以内に膵癌を合併したという報告9)(レベルIVa)や,55歳以上の糖尿病初発群で,血糖,血中膵酵素,腫瘍マーカー,US所見でいずれかの異常を認めた時点で内視鏡的逆行性膵管造影を行ったところ,13.9%が膵癌と診断されたとの報告10)(レベルII) がある。
以上のように,臨床症状から膵癌を早い段階で発見することは容易ではない。

【明日への提言】
膵癌は特異的な臨床症状に乏しく,エビデンスの大部分は進行膵癌における症状分析結果に基づいたもので一部には無症状の症例もある。したがって,臨床症状は膵癌を早期に発見する指標にはならない。そこで,腹痛などの腹部症状を認める場合はもちろんであるが,それ以外にも上部消化管疾患が原因でないと思われる腹部症状がみられた場合,また,急激な糖尿病発症がみられた場合には,膵癌の可能性も考慮して診断のための検査(CQ1-3)を行うことが望ましい。

【引用文献】
1) Palsson B, Masson P, Andren-Sandberg A. Tumour marker CA 50 levels compared to signs and symptoms in the diagnosis of pancreatic cancer. Eur J Surg Oncol 1997;23:151-156.
2) 日本膵臓学会膵癌登録委員会.膵癌登録報告2007.膵臓 2007;22:e1-e94.
3) 江川新一,武田和憲,福山尚治,阿部永,横山忠明,砂村真琴,松野正紀.膵癌登録からみた膵癌のリスクファクター.肝・胆・膵 2004;48:547-554.
4) Bakkevold KE, Arnesjo B, Kambestad B. Carcinoma of the pancreas and papilla of Vater:presenting symptoms, signs, and diagnosis related to stage and tumour site. A prospective multicentre trial in 472 patients. Scand J Gastroenterol 1992;27:317-325.
5) Gullo L, Tomassetti P, Migliori M, Casadei R, Marrano D. Do early symptoms of pancreatic cancer exist that can allow an earlier diagnosis? Pancreas 2001;22:210-213.
6) 江川新一,武田和憲,赤田昌典,阿部永,横山忠明,元井冬彦,福山尚治,砂村眞琴,松野正紀.小膵癌の全国集計の解析.膵臓 2004;19:558-566.
7) DiMagno EP, Reber HA, Tempero MA. AGA technical review on the epidemiology, diagnosis,and treatment of pancreatic ductal adenocarcinoma. Gastroenterology 1999;117:1464-1484.
8) 山川正規,村田育夫,山尾拓史,磯本一,水田陽平,早田宏,河野茂.膵癌症例における膵癌危険因子の検討.膵臓 2003;18:479-488.
9) Chari ST, Leibson CL, Rabe KG, Ransom J, de Andrade M, Petersen GM. Probability of pancreatic cancer following diabetes:a population-based study. Gastroenterology 2005;129:504-511.
10) Ogawa Y, Tanaka M, Inoue K, Yamaguchi K, Chijiiwa K, Mizumoto K, Tsutsu N, Nakamura Y. A prospective pancreatographic study of the prevalence of pancreatic carcinoma in patients with diabetes mellitus. Cancer 2002;94:2344-2349.


 

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