ガイドライン

(旧版)科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン 2009年版

書誌情報
 
膵癌診療ガイドライン CQ・推奨・明日への提言一覧



CQ No.     CQ     推奨 推奨度 明日への提言
1.診断法
1-1 膵癌の危険因子は何か?
1. 危険因子を複数有する場合は,膵癌検出のための検査を行うよう勧められる(グレードB)。
B 膵癌患者の病歴調査から上記の因子を有する比率が高かったというエビデンスがある。膵癌の早期発見のためには無症状の危険因子群を検診することが望ましいが,上記の危険因子を1つでも有する対象数は膨大であり,また検診での検出率が極めて低いというエビデンス(CQ1-3 )からは費用対効果に問題がある。したがって,現時点では,複数の危険因子を有する症例では膵癌発症も念頭においた慎重な経過観察と定期的検査(CQ1-3)が望ましい。
糖尿病,膵嚢胞や肥満の患者数が著しく増加しており,これらの疾患が膵癌危険因子群であることを十分に認識し診療にあたる必要がある(CQ1-2)。
2. 膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasms:IPMN)は癌へ進展することや膵癌を合併することがあるので,的確な診断と慎重な経過観察が勧められる(グレードB)。
B
1-2 膵癌の臨床症状は何か?
1. 他に原因のみられない腹痛,腰背部痛,黄疸,体重減少は膵癌を疑い検査を行うが(グレードB),有症状の場合は進行癌が多い。
B 膵癌は特異的な臨床症状に乏しく,エビデンスの大部分は進行膵癌における症状分析結果に基づいたもので一部には無症状の症例もある。したがって,臨床症状は膵癌を早期に発見する指標にはならない。そこで,腹痛などの腹部症状を認める場合はもちろんであるが,それ以外にも上部消化管疾患が原因でないと思われる腹部症状がみられた場合,また,急激な糖尿病発症がみられた場合には,膵癌の可能性も考慮して診断のための検査(CQ1-3)を行うことが望ましい。
2. 急激な糖尿病(糖代謝障害)の発症や悪化は膵癌合併を疑い,検査を行う(グレードB)。特に糖尿病発症後3年は注意を要する。
B
1-3 膵癌を疑った場合,まず行うべき検査は何か?
1. 血中膵酵素は膵疾患診断に重要だが,膵癌に特異的ではない(グレードC1)。
C1 腫瘍マーカーの評価は多くが進行膵癌での検討であり,早期の膵癌では異常値を示さないことが多い。また,検診で腫瘍マーカーとUSを行っても膵癌検出率は低く,費用対効果の点で問題がある。しかし,危険因子を複数で有するような多危険群に対して,血清学的検査とUS検査を定期的に施行することにより,膵癌の早期発見率が向上することが期待される。また,基準値内でも腫瘍マーカーに増加傾向がみられる場合には,US,CTを行うことが望ましい。
2. CA19-9を含む腫瘍マーカー測定は膵癌診断や膵癌フォローアップに勧められる(グレードB)が,早期膵癌の検出には有用ではない(グレードC1)。
B
C1
3. USは膵癌の最初のスクリーニングに勧められる(グレードB)が,検診での検出率は低い(グレードC1)。主膵管の拡張や嚢胞が膵癌の間接所見として重要である(グレードB)。このような所見が認められた場合は,すみやかにCT検査をはじめとする検査を行うことが強く勧められる(グレードA)。
(膵癌診断におけるUS,CTに関する事項はCQ1-4を参照)
B
C1
B
A
4. 上記検査で異常所見が認められるも膵癌の確定診断に至らない場合には,以後の定期的な検査と慎重な経過観察が勧められる(グレードB)。
B
1-4 膵癌を疑った場合,次に行うべき検査は何か?
1. 膵癌の治療方針決定のためには質的診断が必須で,行うよう強く勧められる(グレードA)。
2. 膵癌はUSおよびCT(造影が望ましい)を行い,必要に応じてMRCP,EUS,ERP,PETを組み合わせるよう強く勧められる(グレードA)。
A

A
血中膵酵素,腫瘍マーカー,US,CT(造影も含む)で膵癌が疑われ,これらの画像所見等から質的診断が可能であれば,さらなる画像検査は必須ではない。膵癌による閉塞性膵炎の間接所見としての血中膵酵素の上昇には特に注意を要する。質的診断に至らない場合にはMRI(MRCP),EUS,ERP,必要に応じてPETなどの検査を組み合わせ総合的に診断していくべきである。小さい膵癌では,これらの検査を駆使しても現在の画像解析能力では腫瘤の描出が困難なことも多い(CQ1-4,図1〜5)。間接所見で膵癌が強く疑われる場合には,細胞診や組織診による確定診断(CQ1-5)を専門施設において行うことが望ましい。
1-5 膵癌における細胞診、組織診の適応と意義は?
1. 各種の画像検査により膵腫瘤の質的診断がつかない症例では,治療開始にあたり組織もしくは細胞診による確定診断が望ましい。確定診断法として超音波ガイド下穿刺吸引細胞診・組織診,CTガイド下穿刺吸引細胞診・組織診,超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診・組織診,ERCP下膵液細胞診,ERCP下組織診などがあり,患者と施設の状況から適切な方法を用いる(グレードB)。
B 種々の画像診断により膵癌と診断され切除された病変において良性疾患が5〜10%存在すること,膵癌患者に対する手術侵襲が大きいことを考慮すると,少なくとも画像診断で膵癌の診断に難渋する場合には,病理組織学的な確定診断を試みることが望ましい。組織採取に伴う偶発症も存在するが,その程度や頻度と手術侵襲を勘案すれば組織採取が勧められる。組織採取の方法はいくつか存在するが,患者の病態を考慮して最も安全で確実な方法を選択することが重要である。採取方法の優劣を示す明らかなエビデンスはないことより,組織採取の手段は患者および主治医によって決定されるべきである。遺伝子検索についてはいまだ研究段階であり今後の発展が期待される。
2. 超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診は腹部超音波検査やCTなどで腫瘤を捉えることが困難な病変に対しても有用である(グレードC1)。
C1
3. 遺伝子検索は細胞診・組織診の補助的診断として有用である(グレードC1)。
C1
1-6 膵癌の病期診断(TNM因子)はどのようにするのか? 膵癌の病期診断(TNM因子)にはMDCTやEUSが勧められる(グレードB)。 B 正確な病期診断はいまだに困難であるが,いくつかの画像診断を総合的に判断するのが現実的である。実際には従来の画像解像度で上回るMDCTを中心に,US,EUSで判断することが多い。
2.化学療法
2-1 局所進行切除不能膵癌に対し,化学療法単独による治療は推奨されるか? 局所進行切除不能膵癌に対する化学療法単独による治療は選択肢の1つとして推奨される(グレードB)。 B 優れた化学療法剤の開発により治療成績向上が期待されており,局所進行切除不能膵癌に対する化学療法の重要性は今後より大きなものになると考えられる。
2-2 遠隔転移を有する膵癌に対して推奨される一次化学療法は何か? 遠隔転移を有する膵癌に対する一次化学療法としては,ゲムシタビン塩酸塩が推奨される(グレードA)。 A ゲムシタビン塩酸塩単剤治療を生存期間において上回る併用化学療法も報告されたが,標準的治療と位置づけるには十分なコンセンサスが得られていない。国内外で新薬を用いた臨床試験が進められており,今後の展開が期待される。
2-3 切除不能膵癌に対して推奨される化学療法の投与期間は何か? 切除不能膵癌に対するゲムシタビン塩酸塩は,投与継続困難な有害事象の発現がなければ,病態が明らかに進行するまで投与を継続する(グレードB)。 B なし
2-4 切除不能膵癌に対して二次化学療法は推奨されるか? わが国においては保険適応内で十分な科学的根拠を有する二次化学療法薬はないが有用性を示唆する報告もあり,また,海外においてはランダム化比較試験により有用性を示した二次化学療法も最近報告されている。PSの良好な患者に対して十分な説明と同意を得たうえで二次化学療法を実施することは選択肢の1つとして考慮してもよい(グレードC1)。 C1 新薬の開発研究が精力的に行われており,これらの薬剤によって近い将来,標準的二次化学療法が確立することを期待したい。
3.放射線療法
3-1 局所進行切除不能膵癌に対し化学放射線療法は有効か? 局所進行切除不能膵癌に対する化学放射線療法は有効な治療法であり,治療選択肢の1つとして推奨される(グレードB)。 B 高いエビデンスはないが,PS良好で,照射野設定が広くならない(15×15cm以下)局所進行切除不能膵癌に対して,化学放射線療法は標準治療の1つと考えられる。治療法選択の際,主に生存期間中央値について議論されることが多いが,化学放射線療法を施行することにより,2年生存割合などの中長期的な生存割合の向上や局所制御による疼痛緩和が期待できることも利点である(CQ3-5 )。化学療法単独も治療選択肢の1つになり得るが(CQ2-1),治療方針決定の際には患者に化学放射線療法も含めて説明する必要がある。
3-2 局所進行切除不能膵癌に対し化学放射線療法の標準的な併用化学療法は何か? 局所進行切除不能膵癌に対して,化学放射線療法を行う場合の標準的な併用化学療法は5-FU である(グレードB)。
ゲムシタビン塩酸塩との併用については積極的に推奨するだけの科学的根拠が十分ではないものの,その有用性を示唆する報告もあり,安全性が確認されたレジメンにおいて十分な説明を行い同意を得たうえで実施することは,選択肢の1つとして考慮されてもよい(グレードC1)。
B


C1
膵癌は早期に遠隔転移をきたす率が高く,局所進行切除不能膵癌に対する治療においては,局所治療と全身療法とのバランスをいかにとるかが,生存率向上の鍵と考える。レジメンの完遂率,有効性については,放射線治療の線量や照射野の設定,線量分割,照射方法によっても大きく影響されることに注意されたい。今後,併用する化学療法,併用のタイミング等についてさらに検討を進めるとともに,過去20年間における放射線治療技術の進歩を正しく反映させることで,両者の有効性を最大限に引き出す努力を続けていく必要がある。
3-3 局所進行切除不能膵癌に対する外部放射線治療の臨床標的体積に予防的リンパ節領域を含めるべきか? 局所進行切除不能膵癌に対する外部放射線治療の臨床標的体積に予防的リンパ節領域を含むか否かについてはまだ前向き比較試験が行われていない。よって推奨できるに十分な科学的根拠はないものの,現時点では肉眼的腫瘍体積と転移頻度の高いリンパ節群を含んだ臨床標的体積にすることが勧められる(グレードC1)。 C1 各種の臓器癌の取扱い規約において,各所属リンパ節群への転移の頻度を根拠にして郭清用リンパ節の群別の分類がなされている。そして外科においては郭清範囲の妥当性を判定する目的でD2郭清とD3郭清との比較試験などが行われている臓器もある。同様に放射線治療でもCTを利用した三次元放射線治療計画の登場により,正確なリンパ節群の局在の把握が可能になってきたとともに,さらに高精度放射線治療技術の登場により,線量集中性の高い放射線治療が可能となってきたために,現在ではリンパ節転移の頻度を根拠にしてCTVを設定することが可能になりつつある。これまでは膵癌の外部放射線治療においてこのような規準がほとんどなかったことから,将来的には膵癌の外部放射線治療のCTVの設定時に手術と同様な比較試験を行って,規準を作っていく価値があると考える。
3-4 局所進行切除不能膵癌に対し術中放射線療法の効果はあるか? 局所進行切除不能膵癌に対し術中放射線療法の有用性を支持する少数の報告はあるが,これが予後を改善させるか否かについての科学的根拠はいまだ十分ではない(グレードC1)。 C1 エビデンスは低いものの,局所進行切除不能膵癌でバイパス手術を施行する際には,術中放射線療法を用いることにより1回で大線量(20〜25Gy程度)を照射することが可能となり,これに引き続いての外照射療法の期間や入院期間を短縮できるという臨床的な利点がある。また外照射による(化学)放射線療法(40〜50Gy程度)に術中放射線療法を追加し,放射線の総線量を腫瘍の根治可能と考えられる線量レベルにまで高めることにより長期生存の可能性が開かれるという点からも,実施可能な施設で本治療法を行うことは選択の1つと思われる。
3-5 放射線療法は切除不能膵癌のQOLを改善するか? 切除不能膵癌のQOL改善には,放射線療法(グレードC1)や化学放射線療法(グレードB)が勧められる。 C1
B
放射線療法が癌性疼痛に有効なことは日常よく経験される。癌性疼痛に対しては,鎮痛剤等の対症療法にとどまらず,抗腫瘍効果と除痛効果を併せもつ放射線療法を考慮する意義はあると思われる。
線量分割については,遠隔転移のない症例では,もし放射線治療が奏効した場合にはそれなりの予後が得られる可能性もあるため,晩期合併症にもある程度配慮した線量分割,すなわち1回線量2Gy前後の通常分割照射が望ましいと考えられ,最も報告の多い50.4 Gy/28分割/5.5週もしくは50Gy/25分割/5週が推奨される。QOL改善目的の放射線治療では満足のいく疼痛緩和が達成される線量で十分であり,これ以上の総線量は要求されないと考える。
遠隔転移を伴う症例では,化学療法が主体となるが,放射線治療を用いる場合は50.4Gy/28分割/5.5週を基本として,予後に応じ40Gy/20分割/4週などのように総治療期間を短縮した治療計画とする。ただし,治療期間短縮のために1回線量を上げ過ぎると合併症が問題となる恐れがあるので,1回線量は高くとも3Gyにとどめ,その場合の線量分割は30Gy/10分割/2週とするのが妥当と思われる。なお,上記いずれの場合も照射野が広くなり過ぎないように注意が必要である。
4.外科的治療法
4-1 Stage IVa膵癌に対する手術的切除療法の意義はあるか? Stage IVaまでの膵癌(注)には根治を目指した手術切除療法を行うことが勧められる(グレードB)。
(注)『膵癌取扱い規約』第4版のS2またはRP2またはPV2,かつN0またはN1のStage IVaが対象。
B 本CQに対する推奨のエビデンスとなっている臨床試験1),2)(レベルII)は,切除手術の意義と画像による病期診断の精度についての2つの重要な成果をわれわれに明確に示している。臨床研究で対象となった病期の膵癌ではR0手術が可能であり,一部の患者では治癒を含む長期生存が得られる。したがって,治癒の可能性を期待した治療方針を選択する場合には,切除手術を実施することが理にかなっている。さらに群として生存期間の期待値の長短による比較を行った場合にも,手術切除群が放射線化学療法群に比較して利益がある。しかし,手術切除群が放射線化学療法群に優ったとはいえ,その治療成績は決して満足できるものではないことを認識しなければならない。
この臨床試験のもう1つの成果は,現時点では術前の画像病期診断の正診率が低く,正確な病期診断には開腹所見が必要だということである。このことは外科医のみならず,手術治療に携わらない診断医,化学療法医,放射線治療医も十分認識すべきであり,画像のみを根拠に安易に治療方針を決定すべきではない。将来的には,さらに強力な診断技術の開発が行われることを期待したい。
4-2 膵頭部癌に対しての膵頭十二指腸切除において胃を温存する意義はあるか?
膵頭部癌に対する膵頭十二指腸切除において胃温存による術後合併症の低下,QOL,術後膵機能,栄養状態の改善は明らかではない(グレードC1)。
C1 PPPDとPDの検討は膵頭部癌や乳頭部癌を広く含んだ癌を対象としたものが多く,早期や長期の合併症,QOLの検討もその定義が論文で異なる。根治性の検討においても長期観察したものは少ない。最近のメタアナリシスではPPPDがPDより手術時間が短く,出血量が少ないが,両者で予後は変わりないとの報告があるが,膵頭部癌にのみ絞り,術後早期や長期の合併症,栄養状態,膵機能,QOL,予後など強力で大きなRCTでの検討が望まれる。
膵頭部癌に対する膵頭十二指腸切除において胃温存により手術時間は短縮され,出血量は少ないが,胃温存による生存率低下はない(グレードC1)
C1
4-3 膵癌に対する門脈合併切除は予後を改善するか? 膵癌に対して根治性向上を目的とした予防的門脈合併切除により予後が改善するか否かは明らかではない。門脈合併切除により切除断端および剥離面における癌浸潤を陰性にできる症例に限り適応となると考えられる (グレードC1)。 C1 門脈浸潤の疑われる,あるいは門脈浸潤陽性例に対する場合は,少なくとも動脈浸潤を伴わず,切除断端および剥離面における癌浸潤を陰性にできれば,門脈合併切除により長期生存例の得られることがあると考えられる。
4-4 膵癌に対して拡大リンパ節・神経叢郭清の意義はあるか? 膵癌に対する拡大リンパ節・神経叢郭清が生存率向上に寄与するか否かは明らかでなく,行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない(グレードC2)。 C2 わが国で行われたRCTの拡大手術は,大動脈周囲リンパ節,上腸間膜動脈および総肝動脈周囲神経叢の全周郭清という徹底した広範囲郭清であるにもかかわらず,生存率は標準手術と同等であった(エビデンス参照)。4つのRCTのメタアナリシスでもやはり同様の結果が得られ,現在,臨床的に経験する膵癌にはR0を目指した手術を行えばよく,徹底した神経叢郭清や大動脈周囲リンパ節を含む広範囲リンパ節郭清を行う拡大手術の意義はないと思われる。しかし将来,より早期の膵癌が発見,診断されるようになれば,そうした小さい膵癌にこそ拡大手術の意義があるかもしれない。
4-5 膵癌では手術例数の多い施設での合併症が少ないか? 膵頭十二指腸切除術など膵癌に対する外科切除術では,手術症例数が一定以上ある専門医のいる施設では合併症が少ない傾向があり,合併症発生後の管理も優れていると推察される(グレードB)。 B 膵癌の外科治療にあたって留意しなければならないことは,難易度の高い手術であり,術後合併症の頻度が高く,重篤な合併症へと発展する可能性があることである。症例の多い施設では合併症発生の頻度も低く,合併症が発生した際にも適切な対応をとりやすい。膵癌外科治療は「専門の外科医がおり周術期管理に優れた施設」で受けることを推奨する。high volume centerの定義は明らかとなっていない。報告で取り上げている術式は難易度が高く合併症が問題となる膵頭十二指腸切除術がほとんどである。文献的には年間20〜25例以上をhigh volume centerと分類しているケースが多い。以上より膵頭十二指腸切除術を年間20例以上施行している施設をhigh volume centerと考えたい。
4-6 非切除バイパス,胆管ステント療法は意義があるか? 外科的切除を目的に開腹し,非切除となった黄疸を伴う膵癌に対しては胆管空腸吻合術による減黄術,予防的胃空腸吻合術が推奨される(グレードB)。 B 臨床の場では非切除膵癌が大多数を占める現実を考えると減黄術,消化管バイパス,癌性疼痛除去などは重要である。しかし,わが国ではやや置き去りにされてきた分野でもある。鏡視下手術でのバイパスや新規ステントの開発や改善などが進んでおり,きちんとしたRCTを行い,問題を整理していく必要がある。
5.補助療法
5-1 膵癌に対する術前治療((1)化学放射線療法および,(2)化学療法)は推奨されるか? 術前治療((1)化学放射線療法および,(2)化学療法)の有用性を支持する論文が増加傾向にある。しかし,これが長期遠隔成績を向上させるか否かについては,今後の臨床試験や研究の蓄積によって明らかにされるべきである(グレードC1)。 C1 今後,ランダム化比較試験の蓄積などによって,膵癌に対する(1)術前化学放射線療法や,(2)術前化学療法が生存期間(率)の向上に寄与するか否かを明らかにしていく必要がある。前者((1))では,肝転移予防対策が重要課題である。
5-2 膵癌の術中放射線療法は推奨されるか? 術中放射線療法の有効性を支持する十分なエビデンスはいまだに示されておらず,これが予後を改善させるか否かについては,今後の臨床試験や研究の蓄積によって明らかにされるべきである(グレードC1)。 C1 第1版以降の発表文献について,膵癌切除例の補助療法として術中照射(IORT)の有用性について検索を行ったが,有用性を示すだけの根拠がいまだ得られていない。現在,国内でRCTが進行中であり,その結果が待たれる。
5-3 膵癌の術後化学放射線療法は推奨されるか? 5-FUをベースとした術後補助化学放射線療法のメタアナリシスからは,有用性を支持するエビデンスは得られなかった。ゲムシタビン塩酸塩を加えたレジメンについては,今後の臨床試験や研究の蓄積によって明らかにされるべきである(グレードC1)。 C1 5-FUをベースとした膵癌の術後化学放射線療法に関する最近のメタアナリシスの結果からは,その有用性について十分な根拠を見出すのは現時点では難しい。R1切除例への有効性やゲムシタビン塩酸塩を用いた新しいレジメンの有効性については今後検討を重ねて明らかにされるべきである。
5-4 術後補助化学療法を行うことは推奨されるか?
国際的に十分なコンセンサスが得られた術後補助療法のレジメンは確立していないが,ゲムシタビン塩酸塩による術後補助化学療法は,有用性,安全性の点で比較的良好な成績を示しており推奨される(グレードB)。
B 近年のランダム化比較試験により補助化学療法の有用性が示されつつあり,今後の臨床試験によりさらなる有効性を有する補助化学療法が確立することを期待したい。

 

書誌情報