ガイドライン

(旧版)科学的根拠に基づく
膵癌診療ガイドライン 2006年版

書誌情報
 
CQ4 外科的治療法


CQ4-5 膵癌では手術例数の多い施設の合併症が少ないか?

【エビデンス】
膵癌に対しては膵頭十二指腸切除術などが施行されるが,術後発生する膵臓-消化管吻合部の縫合不全は,ときには術後在院死亡の原因となり,外科医を悩ませている。難度の高い膵頭十二指腸切除術は手術症例数の多い施設ではより安全に行えるのかを検証した。
北米ではJohns Hopkins病院において膵頭十二指腸切除術症例数が多く,Johns Hopkins病院の術後成績がメリーランド州内の他施設の成績と比較し発表されている。まず,1988年から1993年の間にメリーランド州で施行された膵頭十二指腸切除術501例の手術成績と費用に関して解析が行われた(レベルIV)1)。在院死亡率は症例数と強く相関し,症例の少ない病院での死亡率は多い病院と比較し6倍(2.2% vs. 19.1%)であった。Johns Hopkins病院ではICU滞在期間が2日間少なく,在院日数は平均4.1日短く,総医療費は$5400少なかった。症例の多いJohns Hopkins病院では在院日数および医療費を徐々に減少させ続けることができたのに対し,他の病院では経時的な改善が得られていない。さらに1990年から1995年にかけてメリーランド州で膵癌と診断され,膵切除もしくは姑息手術,ステント挿入を施行された患者1,236例について検討を加えている(レベルIV)2)。48施設を年間平均症例数により,Low(<4/year),Medium(5〜19/year),High(>20/year)に分類し,症例の背景因子,執刀医の症例数による調整を行い,多変量回帰分析を用いて在院死亡率,在院日数,費用と施設症例数の関係を検討している。3種の治療(膵切除,姑息手術,ステント)いずれにおいても,症例数の多い施設で行われることにより,在院死亡率,在院日数が低下した。
Memorial Sloan-Kettering Cancer Centerからは,ニューヨーク州の184施設で膵頭十二指腸切除術もしくは膵全摘術を施行され,1984年から1991年に退院した1,972例についての解析結果が報告されている(レベルIV)3)。年間症例数が多い施設ほど手術死亡率が低く,在院日数も短くなり,Johns Hopkins病院からの報告と同様な結果が得られている。また,膵切除執刀数が多い外科医ほど,手術死亡率が低く,平均在院日数も短くなっていた。
一方,全米26大学病院で1989年から2年間に膵切除を施行された患者223例について,手術死亡率・合併症発生率と膵切除術式・施設別膵切除症例数・執刀医別膵切除症例数との関連が検討された(レベルIV)4)。手術死亡率は6%(13/223),重篤な合併症発生率は21%であり,執刀医の経験数と死亡率の間に相関関係はなかった。執刀数の検討では,1〜3例の外科医の術後合併症発生率が,4例以上の外科医に比較し有意に高かった。全米大学病院における膵切除術の,術後死亡率と合併症発生率は,許容できる範囲にあると報告している。
ミシガン州のAnn Arborからは,地域の教育病院において一人の指導医が全例に関わった場合の膵頭十二指腸切除術の合併症発生率が報告された(レベルV)5)。134症例の検討では在院死亡率3.7%,合併症発生率28%であり,現在のスタンダードとして受け入れられる数値だとし,合併症の少ない膵頭十二指腸切除術をするのに必ずしもhigh volume centerである必要はないとしているが,これは個人の経験したケースシリーズである。
北米以外では,オランダのAcademic Medical Center(AMC)から,単独施設そして多施設間における膵頭十二指腸切除術の合併症発生率と死亡率に関与する因子に関する検討が報告されている(レベルIV)6)。単一施設であるAMCにおいて1992年から1999年までに膵頭十二指腸切除術を受けた300例を対象とし,1996年12月を区切りとして2群に分け,さらに1983〜1992年の163例と比較検討している。年間経験数が増加するに従い,合併症発生率は60%から41%に,膵液瘻の出現は10%から5.3%に,胃排出遅延も38%から21%に,再開腹は17%から8%に減少しており,在院期間は24日から15日に短縮した。在院死亡は4.9%から1.3%そして0.7%へと時期が新しくなるにつれて減少している。オランダ国内の全病院において膵頭十二指腸切除術を受けた1,126例を対象とした検討では,全国的な術後の死亡率は10.1%で,5年間での変化は認められない。年間5例以下の病院での死亡率は16%,年間25例以上の施設では死亡率1%で,有意にhigh volume centerでの死亡率が低い結果となった。
フィンランドにおいても,膵頭十二指腸切除術後の在院死亡率,合併症率,長期生存率に与える病院の症例数と外科医の数の影響に関して検討された(レベルIV)7)。350例の手術が33病院で98人の外科医により施行されていた。病院の年間症例数が4以下,5〜10例,11例以上と増えるに従い,在院死亡率は13%,7%,4%と減少し,また,各外科医の年間手術症例数が1人以下,1〜3人,4人以上と増えるに従い,14%,10%,3%と在院死亡率は減少した。術後在院死亡率,合併症発生率,在院日数を減少させるには,限られた病院で経験を積んだ外科医が手術することが重要であると主張している。

 

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