ガイドライン

(旧版)科学的根拠に基づく
膵癌診療ガイドライン 2006年版

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CQ4 外科的治療法


CQ4-4 膵癌に対して拡大リンパ節・神経叢郭清の意義はあるか?

【エビデンス】
膵癌は生物学的悪性度が高く,他の消化器癌に比べその外科治療成績は極めて不良である。しかし,外科的切除のみが根治的治療であり,わが国では遠隔転移を認めない膵癌に対し,腫瘍近傍リンパ節転移の有無に関わらず積極的に切除を行ってきた。リンパ節や神経叢の拡大郭清を伴う切除(いわゆる拡大手術)により予後の改善が認められるとの報告が多くなされ1),2),3),4),5),6),7),8)(レベルIV),わが国では拡大手術が主流となってきた。一方,欧米諸国でも膵癌に対し積極的な拡大切除を行った報告はあるが,合併症発生率や在院死亡率が高く遠隔成績も不良であったとの報告が多い9),10),11),12),13),14)(レベルIV)。このため欧米諸国では,膵癌に対してリンパ節や神経叢郭清あるいは血管合併切除を伴わない切除(いわゆる標準手術)が行われるのが一般的であり,手術単独治療の限界が認識されている15),16)(レベルII)。このように膵癌にリンパ節や神経叢郭清の意義については,わが国と欧米諸国の間では考え方に大きな差異がある。
膵癌に対する欧米式のいわゆる標準郭清と拡大郭清の両者を比較したRCTは現在までに3つの報告があり,いずれも欧米からの報告である17),18),19),20)(レベルII)表6)。これらの報告はすべて術後生存期間に差はなく,術後合併症率も拡大郭清群で有意に多いとの結果であった。しかし,欧米諸国から報告されたRCTにおける拡大郭清の程度は,日本式の徹底したリンパ節・神経叢郭清が必ずしも行われているわけではなかった。そこで,わが国においても欧米式のいわゆる標準手術と日本式の徹底した拡大手術を比較するRCT(厚生労働省がん研究助成金班研究)が行われた21)。この結果は未だ正式な論文報告にはなっていないが,両群の生存率に有意差はなく(1年,3年生存率は標準手術群で76.5%,29.3%,拡大手術群で53.8%,15.1%と拡大手術群の方が若干不良),また,術後のQOLは拡大手術群が有意に不良であった。以上より,現時点では膵癌に対する拡大郭清を伴う手術を積極的に推奨する根拠はないものと考えられる。


  表6 膵癌に対する標準切除と拡大切除のRCT
 
Italian American Japanese
標準 拡大 標準 拡大 標準 拡大
  症例数
  手術時間(分)
  術中輸血量(u)
  PD/PPPD/SSPPD
  門脈切除
  リンパ節郭清個数
  術後在院日数
  合併症率
  死亡率
  予後
40 41 146 148 51 50
372 397 354 384 426 547
195 207 0.5 0.5 2.1 2.4
20/20/0 18/23/0 21/125/0 148/0/0 13/19/19 11/23/16
    4(3%) 4(3%) 24(47%) 24(48%)
13.3 19.8 17.0 28.5 13.3 40.1
22.7 19.3 11.3 14.3 43.8 42.4
18(45%) 14(34%) 42(29%) 64(43%) 下痢0 下痢24(48%)
2(5%) 2(5%) 6(4%) 3(2%) 0 1(2%)
両群で差なし 両群で差なし 両群で差なし
  periampullary carcinomasを含む。

 

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