ガイドライン

(旧版)科学的根拠に基づく
膵癌診療ガイドライン 2006年版

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CQ・推奨・明日への提言一覧


CQ No.     CQ     推 奨 推奨度 明日への提言
1.診断法
1-1 膵癌の危険因子は何か? 危険因子を複数有する場合は,膵癌検出のための検査を行うよう勧められる(グレードB)。 B 膵癌患者の病歴調査から上記の因子を有する比率が高かったというエビデンスである(表1)。膵癌の早期発見のためには無症状の危険因子群を検診することが望ましいが,上記の危険因子を一つでも有する対象数は膨大であり,また検診での検出率が極めて低いというエビデンス(CQ1-3)からは費用対効果に問題がある。したがって,現時点では,複数の危険因子を有する症例では膵癌発症も念頭においた慎重な経過観察と定期的検査(CQ1-3)が望ましい。
1-2 膵癌を考える臨床症状は何か?
1. 他に原因のみられない腹痛,腰背部痛,黄疸,体重減少は膵癌を疑い検査を行うが(グレードB),有症状の場合は進行癌が多い。
B 膵癌は特異的な臨床症状に乏しく,エビデンスは進行膵癌における症状分析結果に基づいたもので一部には無症状の症例もある。したがって,臨床症状は膵癌を早期に発見する指標にはならない。そこで,腹痛などの腹部症状を認める場合はもちろんであるが,それ以外にも上部消化管疾患が原因でないと思われる腹部症状がみられた場合,また,急激な糖尿病発症がみられた場合には,膵癌の可能性も考慮して診断のための検査(CQ1-3)を行うことが望ましい。
2. 急激な糖尿病(糖代謝障害)の発症や悪化は膵癌合併を疑い,腫瘍マーカーや画像検査を行う(グレードB)。
B
1-3 膵癌の診断法:ファーストステップは何か?
1. 血中膵酵素は膵疾患診断に重要だが,膵癌に特異的ではない(グレードC)。
C 腫瘍マーカーの評価は多くが進行膵癌での検討であり,早期の膵癌では異常値を示さないことが多い。また,検診で腫瘍マーカーとUSを行っても膵癌検出率は低く,費用対効果の点で問題がある。しかし,危険因子を複数で有するような多危険群に対して,ファーストステップの検査を定期的に施行することにより,膵癌の早期発見率が向上することが期待される。また,基準値内でも腫瘍マーカーに増加傾向がみられる場合には,US,CTを行うことが望ましい。
2. CA19-9を含む腫瘍マーカー測定は膵癌診断や膵癌フォローアップに勧められる(グレードB)が,早期膵癌の検出には有用ではない(グレードC)。
B
C
3. USは膵癌の最初のスクリーニングに勧められる(グレードB)が,検診での検出率は低い(グレードC)。主膵管の拡張(2mm以上)や小嚢胞が膵癌の間接所見として重要である(グレードB)。このような所見が認められた場合は,すみやかにCT検査をはじめとする検査を行うことが強く勧められる(グレードA)。
(膵癌診断におけるUS,CTに関する事項はセカンドステップCQ1-4を参照)
B
C
B
A
1-4 膵癌の診断法:セカンドステップは何か?
1. 膵癌の治療方針決定のためには質的診断が必須で,行うよう強く勧められる(グレードA)。
A 血中膵酵素,腫瘍マーカー,US,CT(造影も含む)で膵癌が疑われ,これらの画像所見等から質的診断が可能であれば,さらなる画像検査は必須ではない。膵癌による閉塞性膵炎の間接所見としての血中膵酵素の上昇には特に注意を要する。質的診断に至らない場合にはMRI(MRCP),EUS,ERP,必要に応じてPETなどの検査を組み合わせ総合的に診断していくべきである。小さい膵癌では,これらの検査を駆使しても現在の画像解析能力では腫瘍の描出が困難なことも多い(図1-1~5)。間接所見で膵癌が強く疑われる場合には,細胞診や組織診による確定診断(CQ1-6)を専門施設において行うことが望ましい。
2. 膵癌はUSおよびCT(造影も含む)を行い,必要に応じてMRCP,EUS,ERP,PETを組み合わせるよう強く勧められる(グレードA)。
A
1-5 膵癌の病期診断(TNM 因子)に有効な検査法は何か? 膵癌の病期診断(TNM 因子)にはヘリカルCTやEUSが勧められる(グレードB) B 正確な病期診断はいまだに困難であるが,いくつかの画像診断を総合的に判断するのが現実的である。実際には従来のヘリカルCTを画像解像度で上回るMDCT(注)を中心に,US,EUS,場合によっては血管造影を加えて判断することが多い。
[(注)マルチスライスCTと同義語で,検出器を多列で並べることにより広いスキャン範囲・短いスキャン時間・細かい空間分解能を持つCT。]
1-6 確定診断法とは何か?
1. 各種の画像検査により膵腫瘤の質的診断がつかない症例で,治療開始にあたり組織もしくは細胞診断が必要な場合には,確定診断法としてERCP下膵液細胞診,ERCP下組織診,超音波ガイド下穿刺吸引細胞診・組織診,CTガイド下穿刺吸引細胞診・組織診,超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診・組織診などがあり,患者と施設の状況から適切な方法を用いる(グレードB)。
B 種々の画像診断により膵癌と診断され切除された病変において良性疾患が5~10%存在すること,膵癌患者に対する手術侵襲が大きいことを考慮すると,少なくとも画像診断で膵癌の診断に難渋する場合には,病理組織学的な確定診断を試みることが望ましい。組織採取に伴う偶発症も存在するが,その程度や頻度と手術侵襲を勘案すれば組織採取が勧められる。組織採取の方法は幾つか存在するが,患者の病態を考慮して最も安全で確実な方法を選択することが重要である。採取方法の優劣を示す明らかなエビデンスはないことより,組織採取の手段は患者および主治医によって決定されるべきである。遺伝子検索については未だ研究段階であり今後の発展が期待される。
2. 超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診は腹部超音波やCTなどで捉えることが困難な病変に対しても有用である(グレードC)。
C
3. 遺伝子検索は細胞診・組織診の補助的診断として有用である(グレードC)。
C
2.化学療法
2-1 局所進行切除不能膵癌に対し,化学療法単独による治療は推奨されるか? 局所進行切除不能膵癌に対する化学療法単独による治療は標準的治療法として推奨するだけの十分な根拠は乏しい(グレードC)。 C 塩酸ゲムシタビンによる化学療法は,副作用が比較的軽く,外来治療が可能であるため,化学放射線療法に比べ患者への負担が少ないと考えられる。両者の比較試験が存在しない現段階においては,エビデンスが十分ではないことを患者に説明した上,塩酸ゲムシタビンによる化学療法を選択肢の1つに加えることは可能と考える。また,化学放射線療法の実施が困難な場合には,塩酸ゲムシタビンによる化学療法を検討すべきであろう。
2-2 遠隔転移を有する膵癌に対して推奨される一次化学療法は何か? 遠隔転移を有する膵癌に対する一次化学療法としては,塩酸ゲムシタビンが推奨される(グレードA)。 A ゲムシタビン単剤治療を生存期間において上回る併用化学療法も報告されたが,標準的治療と位置づけるには十分なコンセンサスが得られていない。
2-3 切除不能膵癌に対して推奨される化学療法の投与期間は何か? 切除不能膵癌に対する塩酸ゲムシタビンは,投与継続困難な有害事象の発現がなければ,病態が明らかに進行するまで投与を継続する(グレードB)。 B なし
2-4 切除不能膵癌に対して推奨される二次化学療法は何か? 切除不能膵癌に対する二次化学療法は推奨するだけの根拠に乏しく,臨床試験において行われるべきである(グレードC)。 C 国内ではイリノテカン(レベルⅢ)とS-1(レベルⅢ)の組織学的に診断された遠隔転移を有する膵癌における後期臨床第Ⅱ相試験が終了しており,今後これらの投与が臨床に寄与できることを期待したい。
3.放射線療法
3-1 局所進行切除不能膵癌に対し化学放射線療法は有効か? 局所進行切除不能膵癌に対する5-FU併用化学放射線療法は有効な治療法であり,治療選択肢の一つとして推奨される(グレードB)。なお,5-FUの併用方法(ボーラスか持続投与か),併用時期,および維持化学療法を含めた化学放射線療法の具体的なレジメンについては未だ一定のコンセンサスが得られていない。 B PS良好で,照射野設定が広くならない(15×15cm以下)局所進行切除不能膵癌に対しては,外部照射で総線量50Gy以上の化学放射線療法が現状では標準治療と考えられる。治療法選択の際,主に生存期間について議論されることが多いが,化学放射線療法では,局所制御による疼痛緩和が期待できることも利点の一つである。治療方針決定の際には患者に化学放射線療法について説明すべきである。
3-2 局所進行切除不能膵癌に対し術中放射線療法の効果はあるか? 局所進行切除不能膵癌に対し術中放射線療法の有用性を支持する少数の報告はあるが,これが予後を改善させるか否かについての科学的根拠は未だ十分ではない(グレードC)。 C エビデンスは低いものの,切除不能局所進行膵癌でバイパス手術を施行する際には,術中放射線療法を用いることにより1回で大線量(20~25Gy程度)を照射することが可能となり,これに引き続いての外照射療法の期間や入院期間を短縮できるという臨床的な利点がある。また外照射による(化学)放射線療法(40~50Gy程度)に術中放射線療法を追加し,放射線の総線量を腫瘍の根治可能と考えられる線量レベルにまで高めることにより長期生存の可能性が開かれるという点からも,実施可能な施設で本治療法を行うことは選択の一つと思われる。
3-3 放射線療法は切除不能膵癌のQOLを改善するか? 切除不能膵癌に伴う癌性疼痛に対しての,放射線療法(外照射または術中照射のいずれか一方または両者の併用)あるいは化学放射線療法の有用性を支持する少数の報告はあるが,これがQOLを改善させるか否かについての科学的根拠は未だ十分ではない(グレードC)。 C 放射線療法で高率に除痛効果が期待できることは日常臨床においてよく経験されることである。癌性疼痛に鎮痛剤等の対症療法のみでなく,放射線療法を抗腫瘍効果とともに除痛効果として考慮する意義はあると思われる。
線量分割については,遠隔転移のない症例では,もし放射線治療が奏効した場合にはそれなりの予後が得られる可能性もあるため,晩期合併症にもある程度配慮した線量分割,すなわち一回線量2Gy前後の通常分割照射が望ましいと考えられ,最も報告の多い50.4Gy/28分割/5.5週もしくは50Gy/25分割/5週が推奨される。QOL改善目的の放射線治療では満足のゆく疼痛緩和が達成される線量でも十分であり,これ以上の総線量は要求されないと考える。
遠隔転移を伴う症例では,化学療法が主体となる。しかし,放射線治療を用いる場合は50.4Gy/28分割/5.5週を基本として,予後に応じ例えば40Gy/20分割/4週などのように総治療期間を短縮した治療計画とするが,治療期間短縮のために一回線量を上げると合併症の危険が増える。QOL改善目的の放射線治療でQOLを損ねては本末転倒であり,一回線量は3Gyを超えるべきではない。その場合の線量分割は30Gy/10分割/2週が妥当と考えられる。なお,上記いずれの場合も照射野設定が広くならないよう注意が必要である。
4.外科的治療法
4-1 Stage IVa膵癌に対する手術的切除療法の意義はあるか? Stage IVaまでの膵癌(注)には根治を目指した手術切除療法を行うことが勧められる(グレードB)。
[(注)膵癌取扱い規約第4版のS2またはRP2またはPV2,かつN0またはN1 のStage IVaが対象]
B 本CQに対する推奨のエビデンスとなっている臨床試験は,切除手術の意義と画像による病期診断の精度についての2つの重要な成果をわれわれに明確に示している。臨床研究で対象となった病期の膵癌ではR0手術が可能であり,一部の患者では治癒を含む長期生存が得られる。したがって,治癒の可能性を期待した治療方針を選択する場合には,切除手術を実施することが理にかなっている。さらに群として生存期間の期待値の長短による比較を行った場合にも,手術切除群が放射線化学療法群に比較して利益がある。しかし,手術切除群が放射線化学療法群に勝ったとはいえ,その治療成績は決して満足できるものではないことを認識しなければならない。
この臨床試験のもう1つの成果は,現時点では術前の画像病期診断の正診率が低く,正確な病期診断には開腹所見が必要だということである。このことは外科医のみならず,手術治療にたずさわらない診断医,化学療法医,放射線治療医も十分認識すべきであり,画像のみを根拠に安易に治療方針を決定すべきではない。将来的には,さらに強力な診断技術の開発が行われることを期待したい。
4-2 膵頭部癌に対しての膵頭十二脂腸切除において胃を温存する意義はあるか?
膵頭部癌に対する膵頭十二指腸切除において胃温存による術後合併症の低下,QOL,術後膵機能,栄養状態の改善は明らかではない(グレードC)。
C PPPDとPDの検討は膵頭部癌や乳頭部癌を広く含んだ癌を対象としたものが多く,早期や長期の合併症,QOLの検討もその定義が論文で異なる。根治性の検討においても長期観察したものは少ない。膵頭部癌にのみ絞り,術後早期や長期の合併症,予後についての詳細なRCTの検討が望まれる。
膵頭部癌に対する膵頭十二指腸切除において胃温存による生存率低下はない(グレードB)。
B
4-3 膵癌に対する門脈合併切除は予後を改善するか? 膵癌に対して根治性向上を目的とした予防的門脈合併切除により予後が改善するか否かは明らかではない。ただし門脈合併切除により切除断端および剥離面における癌浸潤を陰性にできる症例に限り適応となると考えられる (グレードC)。 C 門脈浸潤の疑われる,あるいは門脈浸潤陽性例に対する場合は,少なくとも動脈浸潤を伴わず,切除断端および剥離面における癌浸潤を陰性にできれば,門脈合併切除により長期生存例の得られることがあると考えられる。
4-4 膵癌に対して拡大リンパ節・神経叢郭清の意義はあるか? 膵癌に対する拡大リンパ節・神経叢郭清が生存率向上に寄与するか否かは明らかでなく,行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない(グレードC)。 C わが国で行われたRCTの拡大手術は,大動脈周囲リンパ節,上腸間膜動脈および総肝動脈周囲神経叢の全周郭清という徹底した広範囲郭清であるにも関わらず,生存率は標準手術と同等であった(エビデンス参照)。最近,Mayo Clinicからも標準手術(D1郭清)vs.拡大手術(D2郭清)のRCTの結果が第105回日本外科学会において発表されたが,結果はわが国のRCTと極めて似たものであった。この2つのRCTの結果から,現在,臨床的に経験する膵癌には肉眼根治が得られるような手術を行えば良く,徹底した神経叢郭清や大動脈周囲リンパ節を含む広範囲リンパ節郭清を行う拡大手術の意義はないと思われる。しかし,将来,より早期の膵癌が発見,診断されるようになれば,そうした小さな膵癌にこそ拡大手術の意義があるかも知れない。また,わが国で追求されてきた後腹膜神経叢郭清の意義についても今後,検討する必要がある。
4-5 膵癌では手術例数の多い施設の合併症が少ないか? 膵頭十二指腸切除術など膵癌に対する外科切除術では,手術症例数が一定以上ある専門医のいる施設では合併症が少ない傾向があり,合併症発生後の管理も優れていると推察される(グレードB)。 B 膵癌の外科治療にあたって留意しなければならないことは,難易度の高い手術であり,術後合併症の頻度が高く,重篤な合併症へと発展する可能性があることである。症例の多い施設では合併症発生の頻度も低く,合併症が発生した際にも適切な対応をとりやすい。膵癌外科治療は「専門の外科医がいて周術期管理にすぐれた施設」で受けることを推奨する。high volume centerの定義は明らかとなっていない。報告で取り上げている術式は難度が高く,合併症が問題となる膵頭十二指腸切除術がほとんどである。文献的には20~25以上をhigh volume centerと分類しているケースが多い。以上より膵頭十二指腸切除術を年間20例以上施行している施設をhigh volume centerと考えたい。
5.補助療法
5-1 膵癌に対する術前化学放射線療法は推奨されるか? 近年,術前化学放射線療法の有用性を支持する論文が増加傾向にある。しかし,これが長期遠隔成績を向上させるか否かについては,今後の臨床試験や研究の蓄積によって明らかにされるべきである(グレードC)。 C 今後ランダム化比較試験の蓄積などによって,膵癌に対する術前化学放射線療法が生存期間(率)の向上に寄与するか否かを明らかにしていく必要がある。
5-2 膵癌の術中放射線療法は推奨されるか? 術中放射線治療の有用性を支持する少数の報告はある。しかし,これが予後を改善させるか否かについては,今後の臨床試験や研究の蓄積によって明らかにされるべきである(グレードC)。 C これまで膵癌切除後の術中放射線治療の意義を切除単独とのランダム化比較試験によって検証した報告はない。今後はランダム比較試験の蓄積によって,その意義を明らかにしていく必要がある。
5-3 膵癌の術後(化学)放射線療法は推奨されるか? 膵癌の術後(化学)放射線治療の有用性を支持する報告がある一方で,手術成績を改善しないとする報告もみられる。この治療法が真に予後を改善させるか否かについては,今後の臨床試験や研究によって明らかにされるべきである(グレードC)。 C 膵癌の術後(化学)放射線療法についてはランダム化比較試験が行われ,その有用性について否定的な見解も示されているが,予後を改善するとの報告も多いことや,新しいレジメンによる検討も行われており,さらにエビデンスを集積する必要がある。
5-4 術後補助化学療法を行うことは推奨されるか?
欧州におけるランダム化比較試験より5-FUをベースとする術後補助化学療法が推奨される(グレードB)が,わが国ではこれを支持するエビデンスが乏しく,十分なコンセンサスが得られていない。
B ドイツで行われた比較試験の中間報告を受けて,塩酸ゲムシタビンによる術後補助化学療法に対する期待はわが国でも急速に高まっている。現在進められている臨床試験により本療法の延命効果が確定すれば,本ガイドラインにおいても推奨度がより高く位置づけられるものと予想される。
塩酸ゲムシタビンによる術後補助化学療法の延命効果は現時点では確定していない(グレードC)。
C

 

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