ガイドライン

(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版

書誌情報
第7章 待機療法

 
CQ2  限局性前立腺癌に対し,根治療法と待機遅延内分泌療法では生存率に差が生じるか?

推奨グレード B
中〜高分化型腺癌においては疾患特異的生存率および全体生存率で根治療法を施行した方が良好であった。低分化型腺癌においても根治療法を施行した方の生存率は待機遅延内分泌療法に比べ良好であった。

 背 景
限局性前立腺癌に対し前立腺全摘除術や放射線外照射等の根治療法を施行した場合と,積極的な治療を施行せず症状が出た段階で内分泌療法を施行する待機遅延内分泌療法で生存率に差が出るかどうかにつき検討した。

 解 説
臨床的限局性前立腺癌に対し前立腺全摘除術,放射線外照射および待機遅延内分泌療法の3つの治療法を施行した論文を集積し検討した報告がいくつかあるが,集積された論文にはrandomized controlled trial(RCT)は含まれておらず,その背景にかなりの差があったため3つの治療戦略の有効性を比較することはできなかった1),2)(III)
次の方法として用いられたのはpopulation base studyであった。スウェーデンの15年間の前向きpopulation studyによると限局性前立腺癌300名のうち223名が待機遅延内分泌療法を施行された。これらの15年訂正死亡率は80.9%であり根治療法を施行した77名の15年訂正死亡率の80.7%と差は認められなかった。ただし根治療法を施行した77名は組織型が中〜低分化型腺癌であったため根治療法を施行した群であり,待機遅延内分泌療法群中には低分化型腺癌の患者は9名しか含まれていない。これらのことから少なくとも中〜高分化型の限局性前立腺癌患者においては積極的な治療がなくとも予後は良好であることが予想される3)(III)
もう一種類のpopulation based studyがアメリカで行われた。50〜79歳の前立腺癌59876名を対象とした大規模なstudyによるとグレード1(Gleasonスコア2-4)の10年疾患特異的生存率はそれぞれ,前立腺全摘除術:94%,放射線外照射:90%,保存的療法:93%であった。ここで言う保存的療法とは手術や放射線療法を受けなかったすべての患者を含んでいる。グレード2(Gleasonスコア5-7)の10年疾患特異的生存率はそれぞれ,前立腺全摘除術:87%,放射線外照射:76%,保存的療法:77%であった。グレード3(Gleasonスコア8-10)では10年疾患特異的生存率はそれぞれ,前立腺全摘除術:67%,放射線外照射:53%,保存的療法:45%であり,グレードが生存率に対し大きな影響力を持っていた4)(III)
さらに1985年から1992年までに報告された限局性前立腺癌に関する非無作為化臨床試験から待機遅延内分泌療法に関するメタアナリシスの結果が報告された。828例の症例が集積された。本論文では待機遅延内分泌療法を施行した群の予後のみを生命表と比較し検討している。結果は10年疾患特異的生存率はグレード1とグレード2を合わせた場合87%であったのに対しグレード3(Gleasonスコア8-10)では34%と予後不良であった5)(II)
以上より待機遅延内分泌療法の予後を決定する因子として腫瘍のグレードが非常に重要であるという点は間違いなさそうである。
さらに北欧を中心とした限局性前立腺癌に対する前立腺全摘除術と待機遅延内分泌療法の大規模なRCTの結果が発表された6)(II)。1989年から1999年までに695名の臨床病期T1b,T1c,T2でPSAが50ng/ml以下の前立腺癌患者が待機遅延内分泌療法(348名)と前立腺全摘除術(347名)とに無作為に振分けられた。この中には低分化型腺癌は含まれていない。平均観察期間は6.2年であった。死亡数は待機遅延内分泌療法:62名,前立腺全摘除術:53名で有意差はなかったが,癌死は待機遅延内分泌療法:31名(8.9%),前立腺全摘除術:16名(4.6%)で有意差(p=0.02)を認めた。結論として前立腺全摘除術は中〜高分化型限局性前立腺癌患者の疾患特異的生存率は改善したが,全体での生存率に差はなかった。
この報告には別報があり,そこでは同様の患者を対象としながらQOLの比較に論点が置かれている7)(II)。要約するとEDおよび尿失禁に関する疾患特異的QOLにおいては前立腺全摘除術の方が有意に不良であった。一方,排尿障害に関する疾患特異的QOLでは待機遅延内分泌療法の方が不良であった。健康一般QOLに関しては双方の間に差は認められなかった。
さらに観察期間を延長した上記のRCTの結果が2005年に発表された8)(II)平均観察期間が8.2年となったこの結果では全体生存率,疾患特異的生存率,転移発生率,局所進行率ともに有意に前立腺全摘除術の方が良好であることが報告されており,外科的治療の優位性がRCTによって証明された。


 参考文献
1) Adolfsson J, Steineck G, Whitmore WF, Jr. Recent results of management of palpable clinically localized prostate cancer. Cancer. 1993;72(2):310-22.
2) Wasson JH, Cushman CC, Bruskewitz RC, et al. A structured literature review of treatment for localized prostate cancer. Prostate Disease Patient Outcome Research Team. Arch Fam Med. 1993;2(5):487-93.
3) Johansson JE, Holmberg L, Johansson S, et al. Fifteen-year survival in prostate cancer. A prospective, population-based study in Sweden. JAMA. 1997;277(6):467-71.
4) Lu-Yao GL, Yao SL. Population-based study of long-term survival in patients with clinically localized prostate cancer. Lancet. 1997;349(9056):906-10.
5) Chodak GW, Thisted RA, Gerber GS, et al. Results of conservative management of clinically localized prostate cancer. N Engl J Med. 1994;330(4):242-8.
6) Holmberg L, Bill-Axelson A, Helgesen F, et al. A randomized trial comparing radical prostatectomy with watchful waiting in early prostate cancer. N Engl J Med. 2002;347(11):781-9.
7) Steineck G, Helgesen F, Adolfsson J, et al. Quality of life after radical prostatectomy or watchful waiting. N Engl J Med. 2002;347(11):790-6.
8) Bill-Axelson A, Holmberg L, Ruutu M, et al. Radical prostatectomy versus watchful waiting in early prostate cancer. N Engl J Med. 2005;352(19):1977-84.

 

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