ガイドライン

(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版

書誌情報
第4章 外科治療

 
CQ17  危険因子を有する症例に対してはアジュバント治療が推奨される。

推奨グレード B
pN positive症例に対する,アジュバント内分泌療法と臨床的再発まで待機することに関するRCTで,臨床的再発まで待機することは有意に予後を低下させることが示されている。
推奨グレード C
しかし,その他のPSA再発に関する不利な予後因子(切除断端陽性,精嚢浸潤陽性)を持つ症例に対してアジュバント放射線治療,あるいは内分泌治療を追加することにより予後が改善するかどうかについての明確なエビデンスはない。

 背景・目的
切除の結果,外科治療が不成功になる確率が高いことが危惧される場合には当然,術後補助療法を併用することにより予後の改善を期待する訳であるが,限局性前立腺癌の最終的な生命予後は長期にわたることもあり,補助療法を適応することによるメリット,デメリットを証明しにくい状況にある。術後補助療法については1)その適応,2)時期,つまりアジュバントか救済か,3)さらにはその治療が最終的な予後の改善につながるかという問題がある。またそもそも推奨される治療法として放射線治療か内分泌療法かという問題もある。この点を検討した。

 解 説
(1)アジュバント内分泌療法
術後内分泌療法はPSA再発率を改善するという論文は多数散見される。これは十分予想できることであり,内分泌療法によりPSA値が低下してPSA再発の時期を遅らせることは理論的にも当然である1)(IV)。重要なことは最終的な予後を改善させるかという点につきる。たとえば切除断端陽性などの直接には癌の悪性度とは相関しない病態に対するアジュバント療法の意義を認めないことは十分理解できる2),3)(III)。本治療を適応することが有用と考えられるのは,やはり高い悪性度を有した症例と考えられる。具体的にはpN positive4)(II)あるいはpT3b5)(III)症例であり,clinical progressionまでの期間延長は期待できるとされている。
ではアジュバントとして治療を開始することと救済として施行することではどちらが推奨されるかという点に関する検討では,切除の結果,リンパ節転移陽性例に対してアジュバント治療と臨床的再発まで待機するRCTで,アジュバント内分泌療法が有意に予後を改善していた4)(II)。しかしこの論文で筆者らが指摘しているように,近年ではPSAにより再発の判定が可能であり,臨床的再発まで待つことは稀となっており,現状には即さなくなっている。PSA再発あるいはPSADTなどを治療開始のポイントとして,アジュバント療法と救済療法の優劣を検討したRCTスタディはない。

(2)アジュバント放射線治療
仮に手術を行ったにもかかわらず,何らかの理由で局所に癌細胞が残存したとすると,理論的には局所治療である放射線治療を追加することにより根治が得られる可能性がある。アジュバント放射線治療に関する問題点も前述したのと同じである。
アジュバント放射線治療を併用するべき病態としては再発の危険因子を有する症例となる。pN positive症例はすでに全身転移とも考えられ,本治療の適応にはならないと考えるのが一般的である。したがって一般的には切除の結果pT3あるいは切除断端陽性であった症例に対して適応を考慮すべきとされている。
無作為化されていないがpT3(-4)N0 M0症例に対しては,アジュバント放射線療法を施行することでPSA再発のリスクを下げる可能性があることが報告されている6),7),8)(III)。この中で適応に疑問のある病態としてはGleasonスコア7-10かつpT3b症例,あるいは術前PSA高値(25ng/ml以上)以上であったと報告している9)(III)
切除断端陽性症例に対するアジュバント放射線治療に関してはGleasonスコア≧8かつ術前PSA>10.9ng/mlでは,放射線療法を行っても再発リスクが高いと報告されている10)(III)。これらの病態はすでに細胞学的には遠隔転移をきたしているか,そもそも放射線治療の効果が乏しいのかという可能性が考えられるがおそらく前者ではないかと想定される。
上記の検討はアジュバント放射線治療を施行しても「無益」な症例を同定しているが,逆にアジュバント放射線治療が不要な症例も当然あると思われる。この問題に関してはアジュバント治療と救済療法についてのRCTを考慮する必要があるが,RCTは実施されておらず結論も一定していない。たとえばpT3N0 M0または切除断端陽性の場合,5年PSA非再燃率は,アジュバント放射線治療を行うと81%であり,PSA再燃時に救済放射線治療を行うと19%という報告11)(III)もあれば,pT3-pT4N0 M0症例で,アジュバント放射線治療を行うと5年PSA非再燃率は90%ではあるが,PSA<1.1ng/dlのPSA再燃時に救済として64Gy以上の放射線治療を行った時の,5年PSA非再燃率は79%となり5年PSA非再燃率に差はないという報告12)(II)もあり,結論は一定していない。最終的な生存率への寄与については現在まで文献上証明されたものはない。
一方,中等線量の体外照射は,術後4カ月頃に,一時的に尿失禁や便失禁・排便症状に影響するが,12カ月を目安に照射なし群と同程度に軽快する13)(III)とされている。
いずれにしても,おそらく現時点ではPSA再発あるいはPSADTを確認してから術後治療を選択,開始することが最も現実的ではと考えられる。
本内容に関しては次の救済治療の検討また放射線治療の項目も参照されたい。


 参考文献
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3) Lau WK, Bergstralh EJ, Blute ML, et al. Radical prostatectomy for pathological Gleason 8 or greater prostate cancer:influence of concomitant pathological variables. J Urol. 2002;167(1):117-22.
4) Messing EM, Manola J, Sarosdy M, et al. Immediate hormonal therapy compared with observation after radical prostatectomy and pelvic lymphadenectomy in men with node-positive prostate cancer. N Engl J Med. 1999;341(24):1781-8.
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9) Petrovich Z, Lieskovsky G, Langholz B, et al. Postoperative radiotherapy in 423 patients with pT3N0 prostate cancer. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2002;53(3):600-9.
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12) Schild SE. Radiation therapy(RT)after prostatectomy:The case for salvage therapy as opposed to adjuvant therapy. Int J Cancer. 2001;96(2):94-8.
13) Hofmann T, Gaensheimer S, Buchner A, et al. An unrandomized prospective comparison of urinary continence, bowel symptoms and the need for further procedures in patients with and with no adjuvant radiation after radical prostatectomy. BJU Int. 2003;92(4):360-4.

 

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