ガイドライン

(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版

書誌情報
第4章 外科治療

 
CQ11  前立腺全摘除術において尿禁制を確保するため恥骨前立腺靱帯,膀胱頸部温存をするべきである。

推奨グレード C
尿禁制を確保するため恥骨前立腺靱帯,膀胱頸部温存を推奨する理由はない。

 背景・目的
術後尿失禁は前立腺全摘除術における後遺症として大きな問題であり,この点を改善するために恥骨前立腺靱帯を温存した方が術後の尿禁制を改善する,あるいは膀胱頸部温存を取り入れることにより尿禁制が改善するのではという議論がある。この点に関して検討した。

 解 説
RCTではないが,ある程度の数が検討された研究としては膀胱頸部温存,テニスラケット縫縮再建(“tennis racket”reconstruction),膀胱縫縮再建(anterior bladder tube reconstruction)を施行して,1年後の評価を行い,尿禁制には有意差がなく,膀胱頸部硬化症は,再建の方が多く認められたと報告されている1)(III)。他の報告2)(III)では膀胱頸部温存とテニスラケット縫縮再建は早期の尿禁制に役立つという結果ではあったが,別の報告3)(III)では膀胱頸部と恥骨前立腺靱帯の温存は尿失禁期間を短縮しないとしている。このような臨床研究はRCTでないため早急な結論はできないが,必ずしも膀胱頸部の温存を行わなくても再建を行うことで十分早期に尿禁制を回復させることが可能であることを示唆していると思われる。
一方,膀胱頸部温存を行う場合には切除断端陽性率の上昇を伴う可能性が示唆される。もちろん,low PSA,low Gleasonスコア,low tumor volumeの症例を手術の適応としている場合4),5)(III)には独立した危険因子にならないことは明らかであるが,被膜浸潤陽性の癌の場合には膀胱頸部温存は切除断端陽性の危険を伴うことが指摘されている2)(III)。ただしそのことが生命予後に関与するかどうか検討された報告はない。
一方,長期にわたる大規模な予後調査では医療者側が思っているほど,尿禁制が良くないことが指摘されている。報告によると前立腺全摘除術が施行された39歳から79歳の男性1291例の,地域住民を対象にした長期にわたる大規模調査(前立腺癌予後調査)では,8.4%では術後18カ月の時点で尿失禁または排尿コントロール不能の状態であった。39%の症例では完全に尿禁制が保たれたが,残りの症例では様々な程度の尿失禁がみられたとされている6)(III)。したがって術後尿失禁に関する評価は注意深い観察が必要であると思われる。


 参考文献
1) Poon M, Ruckle H, Bamshad BR, et al. Radical retropubic prostatectomy:bladder neck preservation versus reconstruction. J Urol. 2000;163(1):194-8.
2) Marcovich R, Wojno KJ, Wei JT, et al. Bladder neck-sparing modification of radical prostatectomy adversely affects surgical margins in pathologic T3a prostate cancer. Urology. 2000;55(6):904-8.
3) Noh C, Kshirsagar A, Mohler JL. Outcomes after radical retropubic prostatectomy. Urology. 2003;61(2):412-6.
4) Yossepowitch O, Sircar K, Scardino PT, et al. Bladder neck involvement in pathological stage pT4 radical prostatectomy specimens is not an independent prognostic factor. J Urol. 2002;168(5):2011-5.
5) Bianco FJ, Grignon DJ, Sakr WA, et al. Radical prostatectomy with bladder neck preservation:impact of a positive margin. Eur Urol. 2003;43(5):461-6.
6) Stanford JL, Feng Z, Hamilton AS, et al. Urinary and sexual function after radical prostatectomy for clinically localized prostate cancer:the Prostate Cancer Outcomes Study. JAMA. 2000;283(3):354-60.

 

書誌情報