ガイドライン

(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版

書誌情報
第3章 治療総論

 
9 緩和医療


(1)  前立腺癌における緩和医療
(2) 疼痛対策
(3) 脊髄麻痺
(4) 局所症状
(5) 水腎症に対する対策



(1)前立腺癌における緩和医療

進行性前立腺癌でもホルモン療法等が奏効している場合には排尿困難,血尿や骨転移巣の痛み等癌に基づく症状も緩和されていることが多い。問題は再燃した場合であり,抗癌剤等の追加治療を行ってみても最終的にはほとんどの症例が緩和医療の対象となる。前立腺癌の緩和医療として重要な点は,1)骨転移巣の疼痛対策,2)脊椎転移による脊髄麻痺,3)排尿困難および血尿,4)尿管の閉塞に伴う腎後性腎不全などがあげられる1)

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(2)疼痛対策

疼痛性骨転移は,前立腺癌の大きな問題となりうる。鎮痛薬,放射線,ステロイド,骨親和性放射性核種,硝酸ガリウムおよびビスフォスフォネートといった緩和治療のための多くの治療手段が実施されている2)。鎮痛薬が果たす役割は大きく,適切な薬剤の選択が必要である。一般的にはWHOが提唱する3段階のアプローチが広く行われている。簡単に解説すると第1段階としては非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を使用する。第2段階としては弱オピオイドとNSAIDを併用する。それでも疼痛の緩和が十分でない時は第3段階としてモルヒネ散あるいはモルヒネ徐放製剤を副作用対策を講じながら漸増する。癌性疼痛の管理については日本緩和医療学会からEvidence-Based Medicineに則ったがん疼痛治療ガイドライン(2000)が出版されているので参照されたい3)
痛みを訴える骨転移巣が比較的限局している時には骨痛緩和のための外部照射療法は,極めて有用である4)(II)。多発性骨転移により痛みを訴える場合に,以前は全身あるいは半身照射が用いられることがあったが,前立腺癌のような造骨性転移をきたす場合,ストロンチウム89のような放射性同位元素を用いることの有効性が報告されている。しかしながら本薬剤は日本では認可されていない。外照射とストロンチウム89のrandomized controlled trial(RCT)によると,疼痛緩和効果については局所または半身照射した場合の効果とほぼ同じであったが,ストロンチウム89は局所照射と比較すると新たな骨転移による疼痛を有意に抑制した5),6)(I)
前立腺癌の骨転移巣は造骨性であることが多く骨代謝および骨吸収能は亢進している。ビスフォスフォネート製剤は破骨細胞の骨吸収能を抑制することにより疼痛の緩和や病的骨折の予防に役立つ。1つのRCTではビスフォスファネート製剤の静脈内投与により病的骨折等の合併症の発生頻度が有意に減少し,疼痛緩和にも有用であったと報告された7)(II)。Systematic reviewによれば骨転移を有する前立腺癌では,診断された時点で本剤の投与を開始し継続して投与することにより,生存率には寄与しないが骨転移に関連する合併症の頻度を有意に減少するとしている。またビスフォスフォネート製剤は腸管から吸収されにくいため経口投与よりも静脈内投与の方が良いと報告されている8)(I)。日本ではビスフォスフォネート経口剤は骨粗鬆症にしか適応がとれていないが,注射製剤は悪性腫瘍による高Ca血症に対して適応がある。

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(3)脊髄麻痺

脊椎転移による脊髄麻痺に対する治療法としてはステロイド投与,放射線療法,手術療法があげられる。ステロイド投与は放射線あるいは手術の補助療法として用いられ,その効用はRCTにて検証されている9)(II)。しかしながら無視できない副作用も認められており,大量あるいは常用量のステロイドを投与するかはいまだ議論の分かれるところである。放射線療法としては30Gy/10fractionsを照射することが多い。手術療法としては前立腺癌の脊椎転移による脊髄圧迫の場合,骨の脆弱性がないため椎弓切除術が主になる。放射線療法単独と椎弓切除術とのRCTがあるが有効率については有意差が認められなかった10)(II)

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(4)局所症状

排尿困難を有している進行性前立腺癌患者に対する姑息的な意味での経尿道的前立腺切除術(TURP)に関しては,最近の報告によれば前立腺肥大症に対するTURPに比べ術後再度尿閉になったり再手術を必要とする頻度は高いものの症状の改善には十分役立っていたということであり,一考の余地はあるものと思われる11)(III)。タンポナーデとなるような高度の血尿に対し姑息的な放射線療法が有効であったと報告されている12)(III)

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(5)水腎症に対する対策

前立腺癌の進展に伴い尿路閉塞が出現する頻度は3.3-16%と報告されており,尿路閉塞症状を伴わない前立腺癌に比較してその予後は有意に不良である13)(III)。前立腺癌の腫大による下部尿路閉塞から水腎症をきたしている場合にはカテーテル留置あるいは前項であげたTURPが適応となる。前立腺癌が直接膀胱に浸潤することから尿管口の狭窄をきたす場合や,リンパ節転移による尿管の圧迫から水腎症をきたす場合には,尿管ステント,尿管皮膚瘻,経皮的腎瘻(percutaneous nephrostomy, PNS)が治療手段として考えられる。前立腺癌が初発でこれから内分泌療法を考慮している場合,一時的にせよ病状が好転することが期待できるため積極的な治療を試みるべきである。しかしながら,内分泌療法を含めた種々の治療法に対し抵抗性となった前立腺癌で,水腎症をきたした場合の予後は極めて不良であるため,PNSの造設に関しては慎重に考慮すべきである14)(III)。尿管ステント,尿管皮膚瘻,PNS等の治療手段の優劣を比較検討したRCTはないが,尿管ステントもしくはPNSが尿管皮膚瘻に比べ低侵襲である。特に超音波ガイド下のPNS留置術は侵襲も少なく手技が簡便な上,長期にわたる留置も可能であるため第一選択として考えるべきである。尿管ステントは体内に留置するため患者の利便性は高いが悪性腫瘍による尿管閉塞では再狭窄をきたしやすい15)(IV)

 

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