ガイドライン

(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版

書誌情報
第3章 治療総論

 
6 待機療法


(1)  待機療法の定義
(2) 進行性前立腺癌に対する待機遅延内分泌療法
(3) 限局性前立腺癌に対する待機遅延内分泌療法
(4) 限局性前立腺癌に対するPSA監視療法



(1)待機療法の定義

広義の待機療法とは前立腺癌の確定診断がついている患者に対し,治療が必要になるまで治療を延期することを意味する。この場合二次治療として内分泌療法を想定した待機遅延内分泌療法と,放射線療法や手術療法等の根治療法を二次治療として考えるPSA監視療法(狭義の待機療法)を区別して考える必要がある。本項ではこの待機遅延内分泌療法およびPSA監視療法とを区別して記載するので注意されたい。

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(2)進行性前立腺癌に対する待機遅延内分泌療法

進行性前立腺癌に対する待機遅延内分泌療法と即時内分泌療法の優劣についてはいまだ決着を見ていない。ただ転移を有する前立腺癌の約半数は18〜24カ月で再燃し,30〜36カ月で死亡することを考慮すると,転移性前立腺癌において待機遅延内分泌療法を選択しても即時内分泌療法に対しその差はわずかである。National cancer institute(NCI)の前立腺癌に関するPhysicians data query(PDQ)やEuropean association of urology(EAU)の前立腺癌ガイドライン双方とも転移を有する前立腺癌に対して待機遅延内分泌療法を推奨していない。

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(3)限局性前立腺癌に対する待機遅延内分泌療法

次に限局性前立腺癌に対する手術療法と待機遅延内分泌療法との比較が検討された。北欧を中心とした限局性前立腺癌に対する前立腺全摘除術と待機遅延内分泌療法の大規模なrandomized controlled trial(RCT)の結果が発表された1)(II)。結論として前立腺全摘除術は中〜高分化型限局性前立腺癌患者の疾患特異的生存率を改善したが,全体での生存率に差はなかった。しかし,その後観察期間を延長した成績では全体生存率,疾患特異的生存率ともに前立腺全摘除術群で有意に良好であった2)(II)
1985年から1992年までに報告された限局性前立腺癌に関する非無作為化臨床試験から待機遅延内分泌療法に関するメタアナリシスの結果が報告された。828例の症例が集積され,結果は10年疾患特異的生存率はグレード1とグレード2を合わせた場合87%であったのに対しグレード3(Gleasonスコア8-10)では34%と予後不良であった3)(II)。このように限局性前立腺癌に対する待機遅延内分泌療法においては腫瘍のグレードが大きな予後決定因子となっていることが明らかにされた。

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(4)限局性前立腺癌に対するPSA監視療法

さらに今日ではPSAによるモニタリングが一般的となっており,より早期の前立腺癌に対し根治療法を即座に施行した場合,あるいはPSAによる経過観察を行い浸潤性前立腺癌になる前に根治療法を施行した場合との比較が検討されている。どのような症例がPSA監視療法の適応になるかはいまだ一定の見解はないが,Gleasonスコアが6以下でPSAが20ng/ml以下,臨床病期T1-2が一つの目安となるだろう。期待余命および針生検における癌の広がりも考慮の対象となる。経過観察項目としては3〜6カ月ごとの直腸診とPSAのチェックが必要であり,必要に応じて再生検を施行すべきである。二次治療に移行するタイミングとしてはPSAの倍加時間を考慮した報告が多く倍加時間が2年以内の症例については二次治療に移行している割合が多いようである4),5)(III)
PSAテストが普及するにつれlow riskの前立腺癌が多く発見される傾向が報告されている。しかし米国のデータではPSA監視療法を選ぶ人はむしろ減少してきている。このPSA監視療法選択比率が減少した分は小線源治療と内分泌療法選択比率の増加となっている6)(III)。治療法選択の変化の背景には,治療法選択に際しての医療側の要因と患者側の要因があると思われるが,QOL調査を含めた今後の詳細な解析を待つ必要がある。各種治療法間のQOLの比較に関しての情報はまだ乏しいが,米国での800例あまりの横断的解析では,PSA監視療法群は前立腺全摘除術群にくらべSF-36の8つの下位尺度のうち身体機能と全体的健康感で有意に低下していた。しかし,放射線外照射や内分泌療法群では8つの下位尺度のほとんどで前立腺全摘除術群より有意に低下していた。このことからPSA監視療法中の健康関連QOLの低下が,必ずしもPSA監視療法の選択率の低下の直接の原因になっているとは考えにくい7)(III)。癌を告知された状態で,何も治療を開始しない不安感を患者が抱くことが要因の一つとして考えられるが,PSA監視療法を選択するか否かは医師側の説明に大きく依存するだけに8)(IV),患者へのカウンセリングに有用な科学的情報,特に日本人での情報の蓄積が急務と考えられる。現在日本人患者においても,小病巣・高分化癌と推定される症例に限って,一定の選択規準を設けて,PSA倍加時間をモニタ-しながらPSA監視療法に関するfeasibility studyが進行中である9)(III)

 

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