ガイドライン

(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版

書誌情報
第3章 治療総論

 
3 外科治療


(1)  外科治療におけるエビデンス
(2) 外科治療のエンドポイント
(3) 前立腺全摘除術の根治性
(4) 前立腺全摘除術の適応条件
(5) ネオアジュバント内分泌療法
(6) 手術手技
(7) 術後経過観察・再発診断
(8) 再発後治療



(1)外科治療におけるエビデンス

外科治療は前立腺および精嚢を一塊として摘出し膀胱と尿道とを吻合する根治的前立腺全摘除術が標準術式であり,一般に閉鎖リンパ節の郭清術を同時に施行する。到達経路としては恥骨後式が最も一般的であるが,経会陰式や腹腔鏡による前立腺全摘除術も施設によっては施行されている。
外科治療に関しては,無作為臨床試験(RCT)が実施しにくい等の要因により,エビデンスの評価は一般的に低くなる。この点に関してはRCT以外の比較研究や観察的な疫学研究によっても多くの知見が明らかにされるとは言われているもののやはり十分な検討が必要であろう1)。また本邦の前立腺癌と欧米の前立腺癌が同等の性質を有しているか,という点も考慮する必要がある。

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(2)外科治療のエンドポイント

外科治療の対象となる前立腺癌の予後は一般的に良好であるため一般的なエンドポイントである生命予後が指標になりにくい。このためPSA再発が代替目標として使用されているが,PSA再発が本当に代替目標として適切かという点については議論の余地がある。PSA再発が本当に代替目標として適切かという点についてはhigh riskでは妥当4)(IV)5)(III)6)(IV)と考えられるが,low-intermediate riskではPSA再発をエンドポイントとして解析しても,生命予後に関係しないとの主張もある7),8),9)(III)10)(IV)。この点では摘除後に残存腫瘍の増殖スピードを表しているとされるPSA doubling time(PSADT)の方がより妥当なエンドポイントかもしれない6)(IV)7)(III)

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(3)前立腺全摘除術の根治性

限局性前立腺癌に対する前立腺全摘除術は根治の可能性の高い治療法であり11),12)(II),現状の前立腺全摘除術の安全性および術後再発に対し放射線療法や内分泌療法を併用できることも考慮すると,本術式は長期生存を期待できる治療法と考えてよい。しかしGleasonスコア2-4の症例では,待機遅延内分泌療法と10年疾患特異的生存率で差が認められないと報告されている11)(II)13)(III)。また近年の放射線療法の成績向上からも,最終的に待機遅延内分泌療法,放射線療法と比較して優位であるとの断定的な結論はできない14)(II)

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(4)前立腺全摘除術の適応条件

期待余命が10年以上でPSA<10ng/ml,Gleasonスコア7以下,かつT1c-T2bまでが,前立腺全摘除術の理想的な適応基準であると考えられ15),16),17),18),19)(III),この場合にはおおよそ5年PSA非再発率は70-80%,10年PSA非再発率は50-70%程度である20),21),22),23),24)(III)。合併症として問題となるのは術後の尿失禁と性機能不全である。
一方,Gleasonスコア8以上,あるいはPSA20ng/ml以上,さらにはT3症例に対して,あるいは高齢者の局所前立腺癌を前立腺全摘除術の適応外とする理由は証明できない25),26),27)(III)。もちろん,それらすべてが本治療の適応とはならないことは明白であるが,期待余命,QOLなども考慮し対応することが肝要である28)(IV)29)(III)。これらの外科的治療にあたっては,合併症の程度を許容範囲内にするために十分な外科的技術が要求される。この手術における経験や慣れは治療成績,術後合併症,後遺症に関与している30)(II)31)(III)ことを考慮すると,広範な局所切除と外科的合併症のバランスを取ることのできる経験豊富な泌尿器科医が行うべきであろう32)(II)

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(5)ネオアジュバント内分泌療法

3カ月間のネオアジュバント内分泌療法による治療成績の改善はRCTにより否定されており,33),34),35)(II)推奨されない。しかし,より長期のネオアジュバント内分泌療法ではどうか,あるいは単独治療で限界のある局所進行前立腺癌に適応することで生存率の向上が得られるかなどについては検討の余地がある。

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(6)手術手技

現在,主に行われているのは恥骨後式前立腺全摘除術,会陰式前立腺全摘除術,腹腔鏡下前立腺全摘除術であるが,それぞれに短所があり37)(III),どの方法が最も推奨されるかという点についてはエビデンスが確立していない。
断端陽性率に関しては恥骨後式では尖部に,会陰式では膀胱頸部に,腹腔鏡では側後方に断端陽性がみられることが多いとの報告がある38)(III)。恥骨後式に特有の問題としては出血が多いこと,術後,鼠径ヘルニアの頻度が高いこと39),40)(III),会陰式では直腸の合併症が特徴的である39),40),41),42)(III)。腹腔鏡下前立腺全摘除術は経験が浅い段階では合併症を起こす頻度が比較的高いと報告されている43)(III)44)(II)45),46)(III)
尿禁制は前立腺全摘除術における大きな問題ではあるが,恥骨前立腺靱帯あるいは膀胱頸部温存を推奨するエビデンスはなく,膀胱頸部温存は被膜浸潤陽性のような癌の場合には切除断端陽性の危険が指摘されている47)(III)。大規模な予後調査では医療者側が思っているほど,尿禁制が良くないことが指摘されている48)(III)
神経温存に関しては安全な適応基準は確立しておらず49)(IV),さらに性機能の温存に関しては予想以上に温存されていない点が明らかにされている50)(I)
リンパ節郭清に関しては日本人のノモグラムが確立されることで,郭清を省略できる症例が同定可能かもしれない51)(III)。「拡大郭清により予後が向上するか」という点に関しては,そもそも前立腺全摘除術の対象とされた症例の病態により結論が異なる可能性が高い。RCTではあるが,low grade, low stageの症例が多かった研究では拡大郭清は意味がないとされている52)(II)。一方,high riskの症例が多い研究では拡大リンパ節郭清術に意味があり,外腸骨・内腸骨・閉鎖リンパ節を郭清することが望ましいとの報告もあり53)(III),結論は導けない。

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(7)術後経過観察・再発診断

補助療法を施行していない前立腺全摘除術後においてはPSA再発のカットオフは0.2ng/mlとすべきであるという意見が多く,現実的と思われる7),9),54)(III)。一般的にはPSA再発は再発の最初のイベントと解釈される。PSAが検出できないレベルで再発・転移が起こりうることが報告されているが,これは非常に稀で,未分化型の腫瘍にしか起こらないと考えてよい8),55)(III)。したがってPSA再発が認められない場合には直腸診などの追加検査は不要である8),55),56),57)(III)

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(8)再発後治療

前立腺全摘除術においてリンパ節が陽性であった場合,臨床的再発(PSA再発ではない)の段階で内分泌療法を開始した群よりも,即座にアジュバント療法を開始した群の方が予後が良好であったことがRCTで報告されている62)(II)
pT3(-4)N0 M0症例に対するアジュバント放射線療法は,PSA再発のリスクを下げる可能性がある63),64),65)(III)。しかしpT3N0 M0症例でもGleasonスコア7-10かつpT3b症例や術前PSA高値(25ng/ml以上)であった場合にはアジュバント放射線療法が無効になる可能性が高くなる66)(III)。また切除断端陽性症例でもGleasonスコア≧8かつ術前PSA>10.9ng/mlではアジュバント放射線療法を行っても再発リスクが高いと報告されている67)(III)
放射線療法をアジュバントとして行うか,PSA再発後に救済治療として実施するかについては,アジュバントが良いとする報告68)(III)と,PSA再発まで待っても結果は同等とする報告69)(II)があり,結論は一定していない。

 

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