ガイドライン

(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版

書誌情報
第2章 診断

 
CQ6  PSA 4.0ng/ml未満では精密検査の対象となるか?

推奨グレード C
PSA低値での前立腺癌スクリーニングシステムは確立されていない。

 背景・目的
触知不能前立腺癌の診断に関しては,PSAが10ng/ml以上,おそらく実際には4.0ng/ml以上で生検を行うべきというのが共通認識である。しかし,最近の一部の報告ではPSAが4.0ng/ml未満でも局所限局の前立腺癌が一定数存在するといわれている1)(I)2)(III)
海外からの報告では,PSAが2.5-4.0ng/mlの対象群に11個所生検を行ったところ24.5%に癌が発見された2)(III)。また,PSAが3-4ng/mlの間にある50〜66歳という比較的若い年齢層においては前立腺癌の検出率は13.2%であり,これらの癌の大多数は臨床的に意味のある癌とされている3)(II)。これらの報告にみられるように,PSAが4.0ng/ml未満の群に対して積極的に生検を行う意義があるのか検証した。

 解 説
PSAが4.0ng/mlに近づくにつれて陽性反応的中率(PPV)が上昇するという報告は存在する4)(I)。また,前立腺癌出現に至る自然史の調査から,PSAが4.0ng/ml未満であっても年齢別の平均値を上回る群では将来的に癌が出現する率が高いことが示されている5)(III)
しかし,PSAが4.0ng/ml未満の群に対する生検の陽性反応的中率(PPV)はPSA4-10ng/mlの対象群の平均に比べて低く,PSA以外にfree to total PSA比(F/T比),PSA density,経直腸超音波検査(TRUS),直腸診などのパラメーターを加えても,かなり低いとする報告が多い6),7)(III)。これらのパラメーターに加えて,年齢階層別PSA基準値の扱いや下限値の設定(2ng/ml〜,2.5ng/ml〜,3ng/ml〜など)など,結論の得られていない多くの問題が存在している。現実的にこの対象群に対して介入を行うことは,莫大な生検数の増加をもたらし,その大多数は不必要な生検の転帰に至り,臨床的に意味のない癌の発見数も増加すると考えられる。
欧米と日本の前立腺癌罹患率の差違を考えると,日本ではさらに癌発見率は低いものと予想される。実際,日本での後ろ向き対象症例研究における癌発見率は,PSA1ng/ml未満で0.18%,PSA1.0-1.9で1.0%,PSA2.0-4.0で3.6%であった7)(III)
現時点ではPSAが4.0ng/ml未満の群に対して積極的に精密検査(生検)を勧めるエビデンスは存在せず,スクリーニング法も確立されていない。


 参考文献
1) Lujan M, Paez A, Miravalles E, et al. Prostate cancer detection is also relevant in low prostate specific antigen ranges. Eur Urol. 2004;45(2):155-9.
2) Babaian RJ, Johnston DA, Naccarato W, et al. The incidence of prostate cancer in a screening population with a serum prostate specific antigen between 2.5 and 4.0ng/ml:relation to biopsy strategy. J Urol. 2001;165(3):757-60.
3) Lodding P, Aus G, Bergdahl S, et al. Characteristics of screening detected prostate cancer in men 50 to 66 years old with 3 to 4ng/mlprostate specific antigen. J Urol. 1998;159:899-903.
4) Schroder FH. Diagnosis, characterization and potential clinical relevance of prostate cancer detected at lowPSAranges. Eur Urol. 2001;39 Suppl 4:49-53.
5) Fang J, Metter EJ, Landis P, et al. Low levels of prostate-specific antigen predict long-term risk of prostate cancer:results from the Baltimore Longitudinal Study of Aging. Urology. 2001;58(3):411-6.
6) Schroder FH, van der Cruijsen-Koeter I, de Koning HJ, et al. Prostate cancer detection at low prostate specific antigen. J Urol. 2000;163(3):806-12.
7) Ito K, Kubota Y, Yamamoto T, et al. Long term follow-up of mass screening for prostate carcinoma in men with initial prostate specific antigen levels of 4.0ng/mlor less. Cancer. 2001;91(4):744-51.

 

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