ガイドライン

(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版

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第1章 疫学

 
CQ8  前立腺癌検診は欧米ではどのように評価されているか?

国および学会によって立場が異なるが,多くの国では,検診の利益と不利益を説明した上で,希望者に対して前立腺癌検診を行うべきと考えられている。

米国癌学会のガイドライン1)においては,前立腺癌検診による利益と不利益を説明し,希望者に対しては50歳以上での検診を推奨している。検査法はPSA値測定と直腸診を推奨し,また,年齢上限は平均余命が10年以上としている。さらに,前立腺癌罹患率が高い黒人,あるいは,前立腺癌の家族歴を有する人には45歳あるいは40歳からの検診受診を勧めている。米国泌尿器科学会も米国癌学会のガイドラインと同様の基本方針で,50歳以上,高危険群では40歳以上の毎年のPSA値測定と直腸診による検診受診を勧めている2)
一方で,米国予防医学研究班ではすべての癌検診の推奨度を考察し公表している3)。前立腺癌検診に関しては,前立腺癌死亡率の低下に関するいくつかの研究があるものの,大規模無作為比較対照試験の結果がでておらず,また検診受診により過剰診断・過剰治療を受ける症例の割合が把握できていない,スクリーニング検査,治療によって引き起こされるQOL障害の程度が解明されていないことを問題点として指摘している。現時点では,ルーチンの検診を推奨すべきエビデンスも,また推奨しないエビデンスもないことを理由に,検診とその後の治療に関して受診者に情報提供を行い,受診をするか否かは自己判断に委ねるべきとしている。
アメリカ内科学会は,米国予防医学研究班と同様の方針で,検診の利益と不利益について情報提供を行い,検診受診の自己判断を勧めている4)
ヨーロッパでの癌予防勧告委員会においては,無作為比較対照試験の結果が出ていないことを理由に,ルーチン検査の一環としてのインフォームドコンセントなきPSAスクリーニングは,行うべきではないとの見解である5)
現在,米国では州によって検診の方針は違うが,カリフォルニア州のように医師側に前立腺癌検診のメリットとデメリットを説明する義務が課せられている州もある。また,ヨーロッパでは以前よりルクセンブルグ,最近はフランスが国家レベルで前立腺癌検診を推奨している。現時点では,他の多くの国では,検診の利益と不利益を説明した後に,希望者に対して前立腺癌検診を行うべきとの基本方針である。被検者側からの評価といった点では,実際の米国における検診受診率の把握はむずかしいが,約75%の人が検診受診歴を有し,約50%の人は毎年PSA検査を受けているといわれており,前立腺癌検診の施行に肯定的な意見が多い。


 参考文献
1) Smith RA, Cokkinides V, Eyre HJ, et al. American Cancer Society guidelines for the early detection of cancer, 2004. CA Cancer J Clin. 2004;54:41-52.
2) Prostate-specific antigen(PSA)best practice policy. American Urological Association(AUA). Oncology(Williston Park). 2000;14:267-72, 277-8, 280 passim.
3) Recommendations and Rationale. Screening for Prostate Cancer:U.S. Preventive Services Task Force(USPSTF):available at: http://www.ahcpr.Gov/clinic/3rduspstf/prostatescr/prostaterr.htm :accessed on November 12, 2004.
4) Harris R, Lohr KN. Screening for prostate cancer:an update of the evidence for the U.S. Preventive Services Task Force. Ann Intern Med. 2002;137:917-29.
5) Recommendations on cancer screening in the European union. Advisory Committee on Cancer Prevention. Eur J Cancer. 2000;36:1473-8.


 注)疫学に関する事項は推奨グレードをつけられない部分が多いため,他のパートと異なり各クリニカルクエスチョンに対して,コメントおよび解説,文献の3部からなる構成とした。また文献の評価は,それぞれが扱っている対象が日本人か外国人か,community-basedかhospital-basedかの2点を明記した。

 

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