ガイドライン

(旧版)有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン

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VI.考察

 
7. 今後の研究課題

1950 年代に開始された胃X線検査による胃がん検診の評価は、ほとんどがわが国において実施され、諸外国では評価研究そのものが実施されていない。しかも、わが国で実施された研究も、症例対照研究を中心とする観察的な研究のみであり、無作為化比較対照試験による評価は実施されていない。このため、新たな手法として胃内視鏡検査やペプシノゲン法などの有効性評価に関する研究を行う場合には、胃X線検査との感度の比較だけではなく、死亡率を指標とした質の高い研究を実施する必要がある。その際、胃X 線検査が広く行われている現状を踏まえ、過去の検診歴を適切に考慮しなければならない。
がん検診の共通の課題として過剰診断の問題がある。Tsukumaらは、内視鏡により診断された早期胃がん56人について10年以上にわたる追跡を行った結果、早期に留まる期間は平均44か月であった87)。手術が行われたかどうかなどの詳細な情報の把握が不明である38人の胃がん死亡率は、検診発見群と外来発見群で有意差はなかった(ハザード比:0.65 95%CI:0.28-1.55)。この結果から、多くの早期胃がんは進行がんに進展するものの、検診のもたらすレングス・バイアスや過剰診断の可能性が示唆された。過剰診断は、がん検診に共通の課題であり、胃がん検診のみが例外ではなく、評価についてはこの点を配慮しなくてはならない。
また、胃X線検査による胃がん検診についても、評価研究の対象となった時代における標準的な方法から、機器・撮影法・造影剤などが変化している。こうした変化により有効性の大きさが変わってくる可能性もあるので、検査方法の変化に対応して有効性に関しても、定期的な再評価を行うべきである。
今回検討対象とした胃内視鏡検査、ペプシノゲン法は、がん検診としての有効性評価を行う上での研究が不十分であった。今回の死亡率減少効果の評価には用いていないが、胃内視鏡検査、ペプシノゲン法については胃がん発見率に関する論文は数多く存在する。しかし、がん検診としての有効性評価の指標はあくまでも死亡率であり、代替指標として発見率を用いた評価は適切ではない。一方、間接的証拠の中でも、感度を含む検査精度に関する研究は重要である。しかし、大腸がん検診とは異なり、無作為化比較対照試験が行われていない胃X 線検査と他の検査方法との感度の比較だけでは、有効性を証明することは適切ではない。がん検診の評価について系統的アプローチを行う上では、胃X 線検査との相対感度の比較、検診対象となりうる集団における感度・特異度、発見がんの病期分布など、間接的証拠ともなりうる基礎情報の収集が重要となり、こうした基礎研究を踏まえ、死亡率を評価指標とした研究が必要である。無作為化比較対照試験による評価が望ましいが、現状では、症例対照研究やコホート研究による評価が現実的である。ただし、可能なかぎりバイアスの制御について配慮し、質の高い研究を行うように努めるべきである。
胃内視鏡検査は胃X線検査に比べ胃がん発見率が高いことから、胃X線検査と同等以上の効果が期待される。しかし、発見率や早期がん割合が高いという点は、内視鏡検診の有効性を示唆する証拠であると同様に、検診の不利益となる過剰診断を示唆する証拠ともも考えられる。こうした問題に的確に対処するためにも、胃内視鏡検査の有効性の評価には胃がん死亡率をエンドポイントとした研究が必須である。間接的証拠として、胃X線検査結果をマスクして胃内視鏡検査の結果を判定する厳密な診断精度の比較研究が求められている。
一方、ペプシノゲン法とヘリコバクターピロリ抗体により、検診対象の集約を行ったWatabeらの研究67)は死亡率をエンドポイントとするものではないが、今後の胃がん検診における対象集約の可能性を示唆するものである。ヘリコバクターピロリ抗体やペプシノゲン法については、ハイリスク群の対象集約としての利用が期待されるが、その評価のための研究が不十分である。ペプシノゲン法では、従来の胃がん検診と同様に、無症状者を対象とした単独あるいは併用法による検診が期待される一方、対象集約を目標とした研究が同時にすすめられている。ハイリスク群の集約は、従来の胃X線検査と競合ではなく、むしろ効果を増大する可能性が高い。評価の確立した胃X線検査との併用を含め、今後は、評価方針を明確化し、目的に適応した評価が可能な研究デザインを計画すべきである。

 

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