ガイドライン

(旧版)有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン

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VI.考察

 
4. 対策型検診と任意型検診

2005年に公開した大腸がん検診ガイドラインでは、対策型検診を一元的にOrganized screeningとしたが、2006年の胃がん検診ガイドラインでは、わが国における対策型検診の現状を考慮し、現状の対策型検診(Population based screening)と対策型検診の理想型である組織型検診(Organized screening)を識別し、その特徴を明らかにした。
これを踏まえて、本ガイドラインでは、対策型検診と任意型検診を対象とし、実施の可否を推奨として示した。両者ともに、集団あるいは個人における利益と不利益のバランスを考慮しなくてはならない。死亡率減少効果については、対策型検診では必須である。一方、任意型検診では、死亡率減少効果が証明されている方法が選択されることが望ましいが、個人あるいは検診実施機関が、死亡率減少効果が明確ではない方法を選択する場合がある。対策型検診では推奨されていない方法を用いる場合には、がん検診の提供者は、死亡率減少効果が証明されていないこと、及び、当該検診による不利益について十分説明する責任を有する。
対策型検診は、地域住民のみが対象ではなく、職域などの集団も該当する。実施に際し、検診の対象となる受診者名簿が完備され、それに基づく体系的な勧奨や追跡調査が行われる体制が整備されることが望ましい。北欧や英国では、国民のがん死亡減少を目的とした政策として、乳がん検診や子宮頚がん検診の組織型検診(Organized Screening)が行われている78)。組織型検診(Organized Screening)については、Hakama らより、対象者の確定、精検体制、精度管理、追跡調査などが定義されている78)。これに基づき、北欧や英国における組織型検診(Organized Screening)では、受診率対策ばかりではなく、対象となる受診者を網羅的に把握した上で、精度管理の目標値を設定し、重要な不利益に関するモニタリングが行われている79)。このような体制を整備し、不利益を最小化し、死亡率減少効果を最大化することにより、北欧や英国では乳がんや子宮頸がんの死亡率減少を実現している。これに対し、わが国の老人保健事業によるがん検診は、市区町村によっては検診の対象となる受診者名簿が存在することもあり、一部の地域では北欧や英国と同様の組織型検診(Organized Screening)に類似した検診体制が整えられている。しかし、特に都市部においては検診対象者が必ずしも正確には把握されていない。これらの点から、組織型検診(Organized Screening)が実施されている市町村や職域は極めて少ないのがわが国の現状である。
一方、任意型検診は、主として検診機関や医療機関で行われている人間ドックなどにおけるがん検診が該当する。任意型検診は、米国におけるOpportunistic Screeningに相当し、個人の死亡リスクの減少を目的としている。このため、検査の感度が高いことが重視され、特異度は問題とならない場合が多く、不利益の抑制が困難な場合もある。任意型検診では、がん検診のみならずその他の多種の検査項目と同様に個人の健康の確認や良性疾患の発見を目的の一つとしているという側面を重視し、受診者への説明において、がん検診の本来の目的との相違や、健診とがん検診の目的を曖昧にし、十分な説明が行われていない現状がある。Milesらは、Opportunistic Screening についても、個人のリスクの減少を目的とするとしている79)。Opportunistic Screeningであっても死亡率減少効果が無視できないことは、USPSTFやニュージーランドの前立腺がん検診のガイドラインでも明らかにされている10) 80)
任意型検診において危惧されるのは、死亡率減少効果に関する説明が適切に行われず、個人の価値観や満足感を満たせば、根拠のないものや不明確な方法でも行えるという誤解を生じることである。任意型検診であっても、死亡率減少効果が証明されていることが望ましく、現状で死亡率減少効果の証明されていない方法が普及しているだけで、十分な証拠の代替とならないことを検診提供者は十分認識する必要がある。ただし、効果の大きさや不利益については個人の価値観により判断されるものであり、そのために検診提供者は十分な説明などの支援対策を怠ってはならず、その責任を有することを認識すべきである。また、不利益を最小化することを念頭に安全性の確保や精度管理の整備が必要である。がん検診の実施体制に対策型検診と任意型検診が混在する現状において、科学的根拠に基づいてがん検診を推進するという基本姿勢のもとに、本ガイドラインが活用されることを期待するものである。

 

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