ガイドライン

(旧版)有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン

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VI.考察

 
1. 有効性評価

胃がん検診については、無作為化比較対照試験による死亡率減少効果が示されておらず、また公共政策として行っているのもわが国のみである。従って、死亡率減少効果を示す証拠についても限定されており、また研究の質について問題を残している。
胃X線検査については、症例対照研究、コホート研究などの観察研究のみの評価であり、研究デザインそのものの限界がある。症例対照研究のバイアスとしては、情報バイアス、セレクション・バイアス、ヘルシースクリニー・バイアスがある72)。胃がん検診の症例対照研究は、がん登録や死亡小票、受診者名簿などに基づいていることから、情報の収集については配慮されている。しかし、いずれの研究もセレクション・バイアスの問題に言及しながらも、その対処は行われていない。また、ヘルシースクリニー・バイアスに対処するための観察期間以前の受診歴の調整も行われていない。ただし、いずれの研究でもがん死亡や検診受診の情報収集や対照群の抽出については一定の配慮がなされ中等度以上の質が確保され、一致した結果を示している。また、坪野らのコホート内症例対照研究は予備的研究であるが、唯一セレクション・バイアスを制御した検討が行われていることから、症例数を増加した上での今後の報告が期待される。
胃内視鏡検査については、胃X線検査より早期がんが多く発見されることから来る期待感が社会的通念として先行する一方で、がん検診としての有効性を客観的に示す科学的根拠が整っていなかった。死亡をエンドポイントとした評価研究が行われていないだけではなく、発見率・早期がん割合などの報告も専門性の高い一部の施設の報告に偏っている。検診としての有効性を評価するためには、専門性の高い施設からだけではなく、普遍的なデータによる評価が必要なことも考慮されなくてはならない。こうした点を踏まえながら、人間ドックをはじめ多くの検診で用いられている現状に鑑み、早急な評価が求められる。
ペプシノゲン法のコホート研究はあるが、研究の質が極めて低く、十分な評価を行うことはできなかった。また、胃X線検査との感度・特異度は比較検討されているが、検診歴が無視されており、その結果から初回受診の割合がほとんどを占めるペプシノゲン法が胃X線検査の感度を上回ると結論づけている。両検査では滞在時間が異なることが予想されるが、胃X線検査が広く行われている現状を考慮すれば、両者の差は初回受診と経年受診の差であり、見かけ上、ペプシノゲン法の感度が高くなっている可能性もある。今後は、両者の検査歴や滞在時間を考慮した精度の比較が必要である。
ペプシノゲン法については、研究論文としては公表されていないが、広島県において症例対照研究が行われており、研究班報告書にその成果が掲載されている73)。胃がん死亡の41人を症例群とし、同一の性、年齢±3歳で設定した1対3で対照群に設定している。過去2年未満のペプシノゲン法受診歴は症例41人中2人(4.9%)、対照群123人中37人(30.1%)であり、胃がん死亡のオッズ比は0.119(95%CI:0.027-0.520)と報告している。しかし、本報告は以下の問題点を含んでおり、ペプシノゲン法の効果を過大に評価している可能性が高い。すなわち、ペプシノゲン法受診歴を症例・対照間で後ろ向きに比較する基準となる日は症例の胃がん診断日とすべきだが、報告書ではその記載が不明確である。仮に、症例の死亡日を起算日とした場合、診断日から死亡日までの症例の検診受診機会はないと考えられるので、解析の中で症例の受診歴を少なく見積もることになり、オッズ比が見かけ上低く計算される。また、対象年齢は45-92歳であり、検診の評価には適切と考え難い年齢層も含まれている。さらに、市町村では胃X線検査による胃がん検診がすでに行われていることを考えると、その受診歴について考慮すべきである。従って、本研究により、ペプシノゲン法による胃がん検診の有効性が適切に評価されているとは言い難い。
上記の方法とは異なり、ヘリコバクターピロリ抗体は特殊な位置づけにある。実際には、わが国では、同法単独による胃がん検診は行われていない。しかしながら、IARCにおいても胃がんリスク要因とされ6)、また感染者には胃がん発症への予防対策として除菌の効果が期待されている。ヘリコバクターピロリ抗体を用いた検診については、胃がん死亡減少を目的とした従来のがん検診とは異なり、胃がん発生予防を目的とした対策である。このため、胃がんの自然史の把握とともに、除菌による予防効果を明確にする必要がある。今回の検討においては、検診そのものとしての評価が可能な研究はなく、また除菌の予防効果の証拠も不十分であった。ハイリスク群集約のツールとして、他の方法との組み合わせで使用するがん検診の可能性は期待されるが、今後の評価を待たなければならない。

 

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