ガイドライン

EBMの手法による
周産期ドメスティック・バイオレンスの支援ガイドライン

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第7章 推奨と解説


II DVスクリーニング

2.リスク・ファクターの探索

CQ 10: DVのリスク・ファクターとして,何を指標とするのが適切か?
推奨度C DVのリスク・ファクターの探索においては,「パートナーのアルコール中毒」,「パートナーの薬物中毒」,「パートナーの失業」,および「経産婦」を指標とする。


解 説
DV発生に関与するリスク・ファクターについての研究としては,システマティック・レビュー1,ケース・コントロール研究5,横断研究7,症例集積2,記述相関研究1,および妊婦健診でのDVスクリーニング方法に関するRCTにおけるリスク因子についての解析結果を参考とした。ケース・コントロール研究のうち4研究は米国でのものであり,他の1つはオーストラリアのものであった。また,横断研究は米国4,英国1,カナダ1,スウェーデン1であった。症例集積および記述相関研究はいずれも米国のものであった。妊婦を対象としていたものとしては,日本でのスクリーニング方法に関するRCTのほかに,横断研究・症例集積が各1研究あった。救急外来に訪れた女性を対象としたものが6研究と最も多く,その他,薬物中毒クリニックでの研究や,一般病院,一般住民調査などであった。


1)男性パートナーのリスク・ファクター
(1)薬物中毒
275人の妊婦を対象とした米国における横断研究では,女性の過去6カ月におけるDV経験は,パートナーが薬物を使用している場合,使用していない場合に対してオッズ比が25であり,パートナーの薬物使用がDV被害を生む要因のひとつとなる可能性を示唆する結果が報告されている。ただしこの研究は,対象者の92%がアフリカ系アメリカ人の低所得者層という偏った集団のものであることに注意する必要がある。(Gielen et al., 1994レベル4)。

(2)アルコール中毒
カナダでの妊婦健診における妊婦728人を対象とした横断研究では,DV発生に関与する要因のひとつとしてパートナーのアルコール中毒が挙げられている(Muhajarine, 1999レベル4)。
また,米国での138人を対象としたケース・コントロール研究では,DV経験ありの女性は経験なしの女性に対して,パートナーのアルコール中毒ありのオッズ比が12.94であったことが示され,この研究でも,パートナーのアルコール中毒がDV発生の要因となり得ることが示唆されている。ただしこの研究では,DV経験を女性の自己申告によって特定していること,またDVが疑われても外傷がない場合にはケースとしていない点では,データの信頼性に問題がある(Kyriacou et al., 1998レベル4)。
さらに,米国の10都市における電話インタビューによる住民調査(ケース・コントロール研究)では,DV被害者384人,DV非被害者376人のうちの一部(被害者,非被害者合わせて計60人)の解析結果から,パートナーがアルコール問題を抱えていると感じている女性の場合,そう感じていない女性に対して,過去2年におけるDV経験割合が約8倍であったとされている(Sharps et al., 2001レベル4)。

(3)パートナーの失業
米国の大学附属病院救急部を受診した女性915人でのケース(DV経験者)・コントロール(非経験者)研究によると,統計学的に有意であったDVのリスク・ファクターとして,パートナーの失業(OR 2.7),アルコール中毒(OR 3.6),薬物中毒(OR 3.5)が報告されている。この研究では,DVの同定を質問紙を用いた面接で行っているが,面接者はトレーニングを受けており,DV経験は2週間以内でのDVによるけががあることとしていた(Kyriacou et al., 1999レベル4)。


2)女性のリスク・ファクター
DVスクリーニング方法の有効性を検証した,片岡によるRCTでは,DV陽性者と陰性者の要因分析から,陽性者の陰性者に対する経産婦割合のORが2.28(95%CI:1.28, 4.06)という結果が示され,初産婦よりも経産婦のほうがDV被害者である可能性が高いことが示唆されている(Kataoka, 2004レベル4)。


3)DV被害女性の特性について
DV被害を受けている女性の特性については,自己効力感が低下している,自己決定力がない,依存的性格が強いなどさまざまな指摘がなされることがある(Ronnberg et al., 2000レベル5)。しかし,上記に示したように,研究結果に基づいてDV発生の要因として明らかになっているものは,男性パートナーに関連したものがほとんどであり,一方,女性側の要因として,適切な研究により明らかにされているものはない。被害女性であるからといって,その特性等を安易にDV被害と関連づけてとらえることは,適切ではない。


 

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