ガイドライン

EBMの手法による
周産期ドメスティック・バイオレンスの支援ガイドライン

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第7章 推奨と解説


I 支援環境を整える

1.医療者としての環境

CQ 1: 医療者に対し,DVについての教育的介入が必要か?
推奨度A 医療者に対してDVに関する教育的介入を行う。


解 説
1)医療者がDVに対してもつ障壁

欧米において医療者(助産師,看護師および医師)には,女性へのケアを行う際に障壁が存在することが明らかになっている。文献検討(Ronnberg et al., 2000レベル5)の結果,医療者側からの障壁として,以下の点が報告されている。性的暴力に特化したきちんとした教育の欠如による知識不足,性的暴力を取り扱ううえでの時間的制約,「暴力を受けやすい女性のタイプ」というステレオタイプな見方,被害者や加害者と認識することの危うさ(被害者や加害者と認識することによって医師自身が過去に受けた暴力がよみがえる危険性),患者を怒らせることへの不安,パートナーを非難することへの抵抗や不安,力不足・希望のない感情・不満,ルチーンにスクリーニングを行わないなどDV被害への対応が求められている医療者としての自覚に欠けることなどが挙げられている。

2)医療者の態度と支援の現状
医療者がDVに対してもつ障壁の結果,医療現場では以下の状況が起きている。

(1)DVに関わる医師の態度
カナダの各地域に勤務する医師で,配偶者からの虐待に対する態度の違いを比較した結果,地域による差はなかった(Ferris, 1994レベル3b)。しかし,医師の98.7%は暴力のケースを見逃しており,55.3%は3割かそれ以上のケースを見逃していると回答していた。また,68%は発見方法の知識を持っておらず,発見方法の知識がある場合には,発見する割合が高くなると回答している(p=0.0007)。DV発見については,30.6%の医師が身体的暴力を診断することができるとし,25.2%が精神的暴力を診断できるとした。
DVに対する意識とスクリーニングの実施(Chamberlain et al., 2002レベル3b)については,女性の患者について,暴力を受けている割合が10%以上であると推測している医師は,その割合が5%以下であると認識している医師に比べて,女性患者が初めて受診したときのスクリーニング実施割合が8倍であった(OR 8.08, 95%CI:3.47, 18.82)。さらに,暴力被害に関わる必要があると感じている医師は,感じていない医師に比べて,健康診査でのスクリーニング実施割合が3倍であった(OR 3.05, 95%CI:1.45, 6.45)。
スクリーニング実施の割合については差があり,6%(Elliott et al., 2002レベル3b)から,85.7%と幅があった。医師は,女性が受傷しているときはいつも,あるいはほとんどの場合,スクリーニングを行っていると答えていた(Chamberlain et al., 2002レベル3b)。
医師の専門領域(内科医,家庭医,産婦人科医,救急医)別に見たところ,スクリーニング実施率が10%を超えている施設割合が多かったのは,産婦人科領域であった。一方,救急領域では実施割合10%以下の施設割合が多かった(Elliott et al., 2002レベル3b)。
スクリーニングの実施状況については,DV,喫煙,アルコール中毒,HIV/STDリスクのそれぞれを比較している(Gerbert et al., 2002レベル3b)。女性が新しく医療機関に受診したときのスクリーニング実施割合は,DVでは19%,喫煙98%,アルコール中毒90%,HIV/STDリスク47%で,有意にDVは低いという結果であった(p < 0.001)。また,新患以外の通常受診時のスクリーニング実施割合も,DVは13%,喫煙82%,アルコール中毒61%,HIV/STDリスク27%で,有意にDVでは低く,なかなかスクリーニングが実施されていない状況にあった(p < 0.001)。
以上のように,女性が受診した場合に医師の行うスクリーニングの実施は少なく,DVを受けている女性の発見の機会が閉ざされている。さらに,DVに関する知識や認識の不足が,スクリーニングの実施状況に影響していることが明らかになった。

(2)DVに関わる助産師および看護師の態度
助産師および看護師に対する調査(Edin et al., 2002レベル5)では,助産師の中では,DVについてルチーンに何かをすることはなかった。また,妊婦全員にDVについての質問をするという助産師はなかったと報告されている。
スクリーニングの実施状況については,地域の保健師のほうが病院に勤務している看護師に比べ,スクリーニングを実施する傾向にあった(保健師70.1%,私的施設の看護師18.3%,病院看護師43.5%, p=0.001)(Moore et al., 1998レベル4)。

(3)医療者による二次被害
医療者の対応,例えば,被害者にケアを押しつけたり,独断で判断したり,心ないことばをかけることによって,さらに,被害を受けた女性が傷つくことが報告されている(読売新聞, 2003 )。支援者となるべき医療者が,二次被害を起こすことなく,ことばかけに十分注意を払い,配慮した態度で接することは重要である。

3)医療者への介入効果
これらの障壁をなくし,適切な医療およびケアを提供するために,医療者への知識・態度等の向上を目指してトレーニングが行われている。それぞれの施設で,さまざまなトレーニングまたは教育プログラムが開発,評価されている。
3〜6時間の多領域にわたるトレーニングプロジェクトの結果,医療者の知識,医療者自身が感じる,聞くことへの抵抗感(コンフォート・レベル)は,介入直後に改善する(Harwell et al., 1998レベル4)と報告されている。
1時間のワークショップによって,DV被害事例の提示,DV文献の紹介を含む,プロトコルを実施した前後での知識,態度,実践の変化を比較している研究があった(Roberts et al., 1997レベル4)。一般知識は,看護師は正解率が上昇し61.6%から71.5%へ(p=0.0001),医師は63.4%から72.4%へ(p=0.0015),態度については,女性の看護師の態度が好転した(p=0.0005)。また,地域のリソースの知識,法的側面の知識も,正解率が高くなった(14.6→47.6,p < 0.0001)。
また,教育は行動の違いに現れており,特定の教育を受けた看護師は暴力の実態を日常的にアセスメントしていた(34%vs 49%, p=0.035)(Moore et al., 1998レベル4)。
DVのトレーニングとスクリーニング実施の関連については(Elliott et al., 2002レベル3b),トレーニングを受けた場合は,受けなかった医師に比べて,スクリーニング実施割合は高かった。また,過去2年間にパートナーからの暴力についてのトレーニングを受けた医師によるスクリーニング実施割合は,健診の場でも,またけがをしている患者対象の場合でも,トレーニングを受けていない医師よりも高かった(Chamberlain et al., 2002レベル3b)。
Coonrodら(2000レベル2b)は,レジデントを対象に20分間の教育的介入を行った。その結果,介入の前後で研修医の知識は有意に上昇していた(知識テストでの平均正解率は,介入群の介入前57%→介入後73%, コントロール群の介入前57%→介入後56%, p=0.002)。介入群とコントロール群のスクリーニングの実施状況を比較すると,両群で有意な差は認められなかったが,介入群のレジデントではDVのスクリーニング実施率が高くなっていた(71% vs 52%, RR1.35, 95%CI:0.96, 1.90, p=0.07)。そのほかにも,教育的トレーニングを受けた後,スクリーニングの実施割合が増加したとの報告がある(Harwell et al., 1998レベル4, Knight et al., 2000レベル4, Janssen et al., 2002レベル4)。
また,Wiist & McFarlane(1999レベル2c)は,女性の受ける暴力についての知識,アセスメントの手順,カウンセラーへの紹介を含む内容の90分のセッションを行い,介入群のスクリーニングの実施割合は,15カ月で88%,コントロール群で0%(p=0.001)という結果を得ていた。
Campbellら(2001レベル1b)は,2日間のトレーニングとプランニングプログラムによって,スタッフの知識と態度は有意に上昇(p < 0.019)し,スクリーニング実施割合も有意に上昇していた(p < 0.04)。システムの変革を目的としたこのトレーニングモデルでは,ケアの実施率は2年間維持され,さらに,患者の満足度は,実験群のほうが有意に上昇していた(p < 0.001)。しかし,2年後のDVの発見割合については,実験群とコントロール群の間で有意差は認められなかった(p=0.52)と報告している。Ramsayら(2002 , レベル1a)のシステマティック・レビューでも,DVの発見割合については同様の結果が得られていた。
介入の方法については,これらの教育的介入が効果をあげている一方で,介入直後は改善されるが,その効果は長く続かないことも報告されている(Harwell et al., 1998レベル4)。組織的な取り組みとして,医療者への規律的行動という管理的介入を導入している報告もあり(Larkin et al., 2000レベル4),スクリーニングの実施にあたっては効果をあげていた。
以上のように,医療者へのトレーニングおよび介入プログラム,サポートやシステムの変革は,医療者の知識・態度を高め,被害者へのスクリーニングの実施と介入といったケアの実施の定着を促す。しかしながら,被害者女性の発見についての有効性は,明確に認められていない。


[システム変革トレーニングの内容例(Campbell,et al. 2001 )]
FVPF(Family Violence Prevention Fund)+PCADV(Pennsylvania Coalition Against Domestic Violence)をもとにつくられた2日間のティーム・トレーニング・アプローチ
内容
1日目: 1/2日…didactic instruction(講義)IPVの背景,EDのアセスメント,文書作成,紹介等を含む適切な対応。
  1/2日…アセスメントと介入のロールプレイ,法的義務,ティームによる計画の開始
2日目: システムを変えるアクションプラン(場に応じた適切なプロトコルの計画,プロトコルの適応の組織化の方略,EDスタッフのトレーニング,公的なサポートの確保)
  *全期を通じて,文化的感受性,文化的許容ケアについて,十分な注意が払われた。
 

 

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