ガイドライン

EBMの手法による
周産期ドメスティック・バイオレンスの支援ガイドライン

書誌情報
 
第4章 ドメスティック・バイオレンスの実態


I 周産期の被害実態

1. 周産期の被害割合

日本の実態を示すものとして,東京の妊婦328人を対象とした調査では,「女性に対する暴力スクリーニング尺度(VAWS)」を用いた場合,約24%がスクリーニング陽性と判定され,また同じ集団において,ゴールドスタンダードとみなされる日本語版ISAを用いた場合でも,約5%のDV被害割合があった。つまり,妊娠中のDVは,少なくとも妊婦の5%にあり,DVのリスクがある妊婦を含めると24%になることがわかっている(Kataoka, 2004レベル4)。
全世界的なDVの実態について,1963年から1995年までに先進国で発表された論文の中から採択した13論文の吟味によるシステマティック・レビュー結果では,妊娠中のDV被害割合は0.9%から20.1%まで幅があった。この被害実態の幅は,文化および社会状況のみならずDVの同定方法や対象集団の相違に起因すると考えられる(Gazmararian et al., 1996レベル3a)。
各国のDVの実態を示す報告では,米国からの報告が最も多かった。米国における妊娠中のDV被害割合に関する報告では,26%(Parker et al., 1993レベル3b),16%(McFarlane et al., 1995レベル3bMcFarlane et al., 1996レベル3b),8%(Helton et al., 1987レベル4),8.8%(Goodwin et al., 2000レベル4)と,研究によりさまざまであった。
妊娠前から産後にかけて継続的に発生割合の変化を調べた調査では,妊娠前6.9%,妊娠中6.1%,出産後6カ月3.2%と,妊娠前・中よりも産後のほうが発生割合は低下していたとの報告があった(Martin et al., 2001レベル3b)。
被害女性を対象に,虐待が起こった時期を質問した調査では,妊娠1年前にあったものが30.2%,妊娠中に虐待を受けていたもの18.1%であり,そのうち継続的に妊娠1年前から妊娠中も虐待を受けていたものは63%認められ,かつ,この群が最も虐待の程度が深刻であった(McFarlane et al., 1999レベル3b)。同様に被害女性を対象にして,妊娠前から産後への被害割合の変化を見た調査では,妊娠1年前に虐待被害があったのは84%,妊娠中に被害があったものは68%であり,44.6%では産後6カ月まで被害が続いていた(McFarlane et al., 1999レベル3b)。
産後まで暴力が継続するかという点に関しては,思春期の妊婦に限った報告では,産後3カ月以内が21%と最も多く,24カ月には13%と低下していた。しかし,妊娠中に暴力を受けていた女性の75%は産後にも暴力を受けており,妊娠中の暴力が産後まで継続している実態が示されていた(Harrykissoon et al., 2002レベル3b)。また,カナダにおける周産期クリニックなどでの質問紙と面接による調査では,妊娠中に身体的暴力を受けていた30人中27人(90%)で,産後も被害を受けていたことが報告されている(Stewart, 1994レベル4)。

   以下は,日本および米国以外の諸外国の実態である。
妊娠前と妊娠中の暴力被害について産後に質問したスイスの報告では,情緒的・身体的・性的暴力の被害割合は,全体で18%(95%CI:13, 23)であった。暴力が妊娠中に始まったのは7%(95%CI:3, 10),妊娠前から続いていた暴力はその内の18%であった(Irion et al., 2000レベル3b )。また被害の84%で,加害者は夫か顔見知りであった。
カナダの報告では,妊婦における被害割合は6.6%であり,このうちの63.9%の女性では妊娠中に虐待が増加していた(Stewart et al., 1993レベル4)。
スウェーデンの報告では,妊婦健診中に発見されたDV被害割合は1.3%であり,過去の人生に被害を受けた経験のある人の割合は19.4%であった(Stenson et al., 2001レベル4)。さらにスウェーデンの妊婦を対象とした報告では,27.5%の女性が過去の人生において虐待被害経験があり,過去1年以内に限っても24.5%が被害にあっていたとされている(Hedin et al., 1999レベル4)。
オーストラリアでは,妊婦の29.7%が過去に虐待を受けており,その内の5.9%は妊娠中も続いていた(Webster et al., 1994レベル4)。
香港では,妊婦のDV被害割合は15.7%であった。加害者は夫がほとんどであった(Leung et al., 1999レベル3b)。
サウジアラビアの7,105人(1996年から1999年)の妊婦に妊娠中の暴力とその結果としての健康状態への影響について調べた報告では,妊娠中の被害割合は21%であった。身体的暴力を受けた女性1,463人と,受けていない女性5,537人を比較した場合,妊娠中に入院するオッズ比(Odds Ratio:OR)は 1.5(95%CI:1.1, 2.0),未熟児出産のOR 3.4(95%CI:1.4, 2.8),下腹部を蹴られたり叩かれたりしたあとがあるという症状のOR 24.6(95%CI:1.9, 220),腎臓感染のOR 2.3(95%CI:1.3, 2.5)(Rachana et al., 2002レベル3b),帝王切開(Cesarean Section:CS)のOR 3.0(95%CI:1.1, 3.0),胎児ジストレス(non-reassuring fetal status)のOR 2.2(95%CI:1.0, 3.3)と報告されている。

 

書誌情報