ガイドライン

EBMの手法による
周産期ドメスティック・バイオレンスの支援ガイドライン

書誌情報
 
第1章 緒言
I 背景

ドメスティック・バイオレンス(以下DVとする)は,全世界的な問題として国連総会,世界女性会議で中心的課題として問題提起されてきた。
日本においては,夫婦間の暴力に関する初めての全国無作為調査(2000年)によると,女性の約15%が「医師の治療が必要とならない程度の暴行を受けたことがある」と回答し,約5%つまり20人に1人は「命に関わるような暴力を受けた」経験を持っているという深刻な被害の実態が報告されている1。それを受けて,2001年10月「配偶者からの暴力の防止および被害者の保護に関する法律(以下,DV防止法)」が制定され,DVが女性の人権侵害であることが明記され,国や地方自治体の責務が規定された。法律の整備により社会の理解が促され,被害者の発見や保護が進むかのように見えた。しかし法制定後も,配偶者暴力相談支援センターやシェルターの不足,法規制の対象には配偶者ではない親しい人からの加害行為が含まれていないことなど,新しい課題が明らかとなり,2004年の法律改定に至った。2003年に行われた内閣府の調査報告でも2,女性の約16%が身体に対する暴行を受けたことがあると回答し,約10%が性的な暴力を受けた経験を報告している。被害女性の割合は2000年の報告と変わらない数字であり,法律制定後も減少していない実態が示されている。
DVは,女性の健康に大きな影響を及ぼすことが知られている。身体的暴力によるけがのみならず,抑うつ症状,不安,外傷後ストレス障害(PTSD)など心理的な影響も多大であることが多くの調査で報告されている。北米では,DVを公衆衛生(Public Health)の問題であるという視点から,医療において予防と早期発見を目指した取り組みが展開されている。
2003年に行われた東京の妊婦328人を対象とした調査(Kataoka, 2004 )では,「女性に対する暴力スクリーニング尺度」を用いた場合,約24%がスクリーニング陽性と判定された。また同じ集団において,ゴールドスタンダードとみなされる日本語版ISAを用いた場合でも,約5%のDV被害割合が報告されている。つまり,日本における妊婦のDV被害割合は,少なくとも5%つまり20人に1人であり,DVのリスクがある女性を含めると24%であることがわかっている。
東京都が実施した被害女性への面接調査によると,妊娠中に暴力が始まった,または妊娠してから暴力の程度が悪化したという例が報告されている3。妊娠中の暴力は,女性と胎児の健康に影響し,さらに出産後における子どもへの虐待との関連も示唆されている。妊娠中,および幼い子どもを抱えている産後・育児という周産期にある女性には,特に支援の必要性が高い。また,妊娠中は定期的に医療機関を受診するため,医療者をはじめ支援者と接する機会が増え,潜在化している被害者の発見と支援の提供の好機になる。したがって,妊娠期をはじめ周産期ケアの場は,DV被害者への支援の必要性が高い。
DV防止法には,医療の役割として被害者の通報,適切な情報提供について規定されているが,これまでのところDV被害者に対し医療が何をすべきかを具体的に示した指針は出されていない。したがって,被害者の心身社会的な健康の向上を目的としたケアあるいは支援のガイドラインを作成する意義は非常に高いと考えられる。



1総理府男女共同参画室(2000).「男女間の暴力に関する調査(概要版)」
  http://www.gender.go.jp.[2004-05-05]
2内閣府男女共同参画局編(2003). 配偶者からの暴力に関する調査.東京:内閣府.
3東京都生活文化局(1998).「女性に対する暴力」調査報告書.東京:東京都政策報道室.

 

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