ガイドライン

EBMの手法による
周産期ドメスティック・バイオレンスの支援ガイドライン

書誌情報
 
要約
目的 (健康問題,対象患者,医療提供者,セッティングを含む,ガイドラインの主要目的)
本ガイドラインは,周産期に関わる病院・診療所・助産所などの周産期女性を対象としている臨床現場において,医療者が,潜在化しやすいドメスティック・バイオレンス(Domestic Violence, 以下DV)被害女性を発見し,適切な施設・支援機関へつなげることにより,女性の保護および回復に向けての適切な介入が行われるようになることを目指して作成された。したがって本ガイドラインは,DV被害女性の発見および保護と安全確保のための支援に関する実際的な指針を示すことが主たる目的であり,自立のための支援など,被害者への治療的介入に関する指針は含まない。

オプション (ガイドライン作成において考慮される診療オプション)
DV被害女性のための支援環境整備,被害女性のスクリーニング,被害者保護と安全確保,医療現場から支援体制への連携,および女性への情報提供に関するエビデンスを明らかにし,現段階において最も有効性が期待されるケアの指針を作成した。

アウトカム (代替治療の比較において考慮される重要な健康上および経済上のアウトカム)
DV被害女性の発見と保護,被害女性への治療的介入や再発予防に関して,医療現場における取り組みは,十分になされていないのが現状である。本ガイドラインの実施により,被害者の発見と保護,および適切な支援機関への連携が実現し,被害女性の救済と再発予防および健康の向上につながることが期待される。

根拠 (いつ,どのようにして証拠が収集,選択,統合されたのか)
2003年12月時点までの主要医学・看護学データ・ベースのElectric searchにより得られた文献の総数は,2,392件であった。得られた論文の参照文献のManual searchも含めたうえで,本ガイドラインの内容と合致する文献を研究者が選択した結果656件となった。さらに,原則として児童・老人・男性への暴力を扱った文献および質的研究を除外することとし,545文献が批判的吟味対象として選択された。これらの批判的吟味の結果,エビデンスを提供する論文として157論文が採択された。

価値判断 (診療オプションに予測される結果の価値判断はどのようになされ,誰がそのプロセスに関わったのか)
ガイドライン作成班は,5人のメイン・ワーキンググループメンバーと7人のセカンド・ワーキンググループメンバーで構成された。ワーキンググループメンバーが網羅的文献検索と関連文献の批判的吟味を行った。文献の批判的吟味によるエビデンスの確認とそれに基づく推奨内容の決定は,メイン・ワーキンググループメンバーによるコンセンサスによった。

利益,害,およびコスト (ガイドライン実行が患者にもたらし得る利益,害,およびコストの種類と程度)
本ガイドラインが,臨床現場において利用されることで,潜在化しやすいDV被害女性の発見と保護および安全確保がすすみ,かつ適切な支援機関への連携がはかられることが望まれる。またその結果として,本ガイドラインの実施が,女性,特に妊婦および産婦におけるDV被害の発生防止と被害女性の健康と幸福の実現につながることが期待される。

推奨事項 (主要推奨事項の概要)
支援環境整備については,医療者に対するDVに関する教育の必要性,被害女性が支援を求めやすい医療現場の整備が求められている。
また,医療現場,特に周産期ケアの場におけるDVスクリーニング導入が必要であり,かつ,すべての妊婦に対して実施されることが重要であること,さらに,スクリーニングは1回だけに限らず複数回行い,妊娠中のみならず産褥期以降も長期にわたるフォローアップが必要である。
スクリーニングにおいては,パートナーのアルコール中毒や薬物中毒がDV発生のリスク・ファクターとして注目され,また,女性の臨床症状としては,複数回の流産または中絶の経験,頭部・頸部・顔面のけが,低出生体重児や胎児ジストレス(non-reassuring fetal status)・胎児死亡などが注意すべき主なものである。
そして,スクリーニング陽性となった,DV被害女性あるいはDV被害の可能性がある女性においては,女性の意思を尊重しつつ,DVに関する情報の提供とともに,女性本人と胎児あるいは乳幼児の生命の危険性を把握して,生命に危険が及ぶことを未然に防止するためのセイフティ・プランが重要である。

妥当性 (外部による査読,他のガイドラインとの比較,またはガイドラインの使用に関する研究の報告)
本ガイドラインは,臨床疫学者,女性支援団体リーダー,サバイバー,セラピスト,DV相談員,医師,助産師,看護師,保健師,弁護士などに外部評価を依頼した。評価者には,各項目に対する意見・コメントをいただくか,あるいはAGREE(Appraisal of guidelines for research & evaluation)を用いた評価を依頼した。
また,改定に際しては,関係各方面への配布とホームページへの公開をとおして,医療関係者および一般市民から広く意見を募集し,さらに,モデル病院において試験的に使用してもらい,意見を求める予定である。
また,本ガイドラインの作成にあたり,DVに関連した既存ガイドラインの探索と評価を行った結果,EBMの手法に基づいて作成されたものはカナダ予防医学に関するタスク・フォース(Canadian Task Force on Preventive Health Care),および米国予防医療専門委員会(US Preventive Services Task Force)によるもののみであり,これらを参考にした。

スポンサー (ガイドラインの作成者,資金提供者,承認者について)
以下からの資金提供により,本ガイドラインは作成された。
平成14~16年度文部科学省科学研究費補助金基盤研究(B)(2)14370824「性暴力被害者に対する看護ガイドラインの開発と評価」
平成14年度日本助産学会研究助成金(学術奨励研究助成)「ドメスティック・バイオレンス被害者の支援ガイドラインの開発」


本抄録は,Haywardらの提案による,ガイドラインを発表する際の構造化抄録の形式によるものである。
中山健夫(2004). EBMを用いた診療ガイドライン 作成・活用ガイド, 東京:金原出版.
Hayward RS, Wilson MC, Tunis SR, Bass EB, Rubin HR, Haynes RB(1993) . More informative abstracts of articles describing clinical practice guidelines. Ann Intern Med 1993; 118(9)731-7.

 

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