ガイドライン

(旧版)科学的根拠に基づく急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドライン

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第II章 本ガイドライン作成の必要性と特徴


2. 診断基準(スタンダード)の必要性
2)急性胆嚢炎の診断基準と重症度判定
急性胆嚢炎の診断法として,欧米では「Murphy sign」が良く用いられる。 「Murphy sign」は感度が65%,特異度が87%であり,有用な診断法の一つであるが,臨床徴候のみから急性胆嚢炎を診断するのは不可能である。 そこでわれわれは,臨床症状・画像診断・血液検査の結果を総合的に評価する診断基準の策定を試みた(表3)。 下記に示すように考案された診断基準は,画像診断を急性胆嚢炎の確定診断に不可欠なものと位置づけた。 また急性胆嚢炎に特徴的な臨床徴候および,白血球数や発熱など炎症を示唆する所見を考慮して,非典型的な症例も確実に診断できるように工夫されている。 また,日本ではあまり知られていない「Murphy徴候」や,臨床症状と画像診断の総合的所見である「sonographic Murphy sign」を診断基準として取り入れたのも,この診断基準の大きな特徴である。

表3  急性胆嚢炎の診断基準(「第IX章/1)急性胆嚢炎の診断基準」参照)
  A.   右季肋部痛(心窩部痛),圧痛,筋性防御,Murphy sign
  B.   発熱,白血球数またはCRPの上昇
  C.   急性胆嚢炎の特徴的画像検査所見
  疑診:
  確診:
AのいずれかならびにBのいずれかを認めるもの
上記疑診に加え,Cを確認したもの
ただし,急性肝炎や他の急性腹症,慢性胆嚢炎が除外できるものとする。

急性胆嚢炎は胆管炎と比較して死亡率がかなり低いものの,重症度により治療の緊急性や内容が異なるため,重症度の判定が重要である。 しかし致死的な急性胆嚢炎は少なく「重症」の定義が困難なことに加え,予後予測因子を検討したエビデンスレベルの高い研究が少ないために,重症度判定基準の作成は容易ではなかった。 既存の研究で定義されてきた重症急性胆嚢炎の特徴は,1)壊疽性胆嚢炎や胆嚢穿孔など胆嚢壁の高度炎症性変化,2)胆嚢周囲膿瘍や胆汁性腹膜炎・重症胆管炎などの重篤な局所合併症である。 ワーキンググループはさらに,上記の所見の他に「壊死性胆嚢炎症例に頻度が高い因子」あるいは「重症胆管炎,胆汁性腹膜炎,胆道感染の合併例に頻度が高い因子」が存在するかどうか,既存の研究を検索した。 検索の結果,急性腎不全,炎症反応(発熱,白血球数やCRP,血清鉄値),ビリルビン値,年齢,男性などが重症急性胆嚢炎と関連する因子として同定された。 ワーキンググループ内ならびに関連学会におけるディスカッションの結果,表4に示す重症度分類が策定された。

表4  急性胆嚢炎の重症度判定基準(「第IX章/2)急性胆嚢炎の重症度判定基準」参照)
重症急性胆嚢炎
急性胆嚢炎の内,以下のいずれかを伴う場合は「重症」である。
 (1) 黄疸*
(2) 重篤な局所合併症:胆汁性腹膜炎,胆嚢周囲膿瘍,肝膿瘍
(3) 胆嚢捻転症,気腫性胆嚢炎,壊疽性胆嚢炎,化膿性胆嚢炎
中等症急性胆嚢炎
急性胆嚢炎の内,以下のいずれかを伴う場合は「中等症」である。
(1) 高度の炎症反応(白血球数 >14,000/mm3,またはCRP >10mg/dL)
(2) 胆嚢周囲液体貯留
(3) 胆嚢壁の高度炎症性変化:胆嚢壁不整像,高度の胆嚢壁肥厚
軽症急性胆嚢炎
急性胆嚢炎のうち,「中等症」,「重症」の基準を満たさないものを「軽症」とする。
*胆嚢炎そのものによって上昇する黄疸は特にビリルビン >5mg/dLでは重症化の可能性が高い(胆汁感染率が高い)。

 

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