ガイドライン

(旧版) 肝癌診療ガイドライン2009年版

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第3章 手術


第5節 肝移植

CQ29 肝細胞癌症例のうち,手術適応,移植の適応となる症例,また手術と移植の双方が適応となる症例は,どの程度存在するのか? さらに双方の治療が可能となる症例ではどちらが良好な成績であるのか?

推 奨
肝切除は肝機能因子による適応の制限を受け,一方,移植は腫瘤の進行による適応制限を受ける。双方の治療が適応となる症例は,切除および移植適応症例の20〜30%程度と推定される。移植待機期間中の腫瘤の進行や症例のドロップアウトまでを考慮した検討では,切除のよい適応となる腫瘍・肝機能条件の症例の成績は肝移植の成績と同等かそれ以上であると考えられる。
(グレードB)

■背 景
肝細胞癌に対する肝切除には,術後の異時多中心性発癌(secondary de novo cancer)という治療上の大きな問題がある。さらに肝切除は背景肝の肝炎または肝硬変に対する治療法とはなり得ない。肝移植は理論的にはこれらを解決する治療法である。

■サイエンティフィックステートメント
肝細胞癌に対する治療法として移植と切除をRCT(Level 1b)により比較をした検討はない。
肝切除は背景肝の状態(肝機能条件)により適応が規定され,欧米ではChild-Pugh分類のAのみ(施設によっては非肝硬変症例のみ)が一般的な切除対象症例である。これに対して肝移植は,背景肝に対する治療を兼ね,異時多中心性発癌の可能性を除去し,また全肝摘出であるため残肝に微小癌が遺残しないという点で理想的な治療であり得る。しかし肝移植については,社会の共有財産である肝グラフトの公平な配分という立場から基準が定められ,肝外転移および術前に画像で同定できる脈管侵襲がなく,単発5cm以下か,多発でも最大径3cm以下で3個以内という腫瘍条件が一般的である(ミラノ基準)(LF005401) Level 2a)。今までは,切除可能な症例には切除を選択し,切除の適応外の症例で移植の適応範囲内の症例に移植をするという方針が一般的であった。近年,切除可能な症例にも,移植の適応内であれば移植をするという主張がなされている。
この観点からの両者の成績の比較には注意が必要である。移植の場合は,待機期間中の癌の進行とドロップアウトは看過できない問題でありintention-to-treatによる解析が重要である。またend-pointを無再発生存にするのか生存にするのかも重要な問題である。移植を推奨する施設は多くの場合,無再発生存での移植の優位性を根拠にしているが,生存成績の比較では差は出ていないものがほとんどである。すなわち移植の場合は術後の拒絶,肝炎再発,免疫抑制剤の使用による合併症による死亡リスクがある。移植後の肝細胞癌再発は全身病の形態をとることが多く有効な治療はほとんどない。一方,肝切除後の再発には再肝切除,TACE,RFAという効果的な治療がとり得る。さらに切除または移植後の在院死亡率(手術死亡率とほぼ同義)は無視できない問題である。これらを考えると両者の比較は,癌治療成績のend-pointのgold standardである生存率で行うべきである。
以下の引用は同じ施設での両者の成績の比較である。Ottoらの報告では在院死亡率は切除症例にやや多く認めるものの,長期成績は個数の少ない(5個以下)症例では移植が勝る(LF003472) Level 2b)。しかし,小さな(5cm以下)腫瘤という条件では両者は同等の成績であり,術前にはっきりと同定できる腫瘤条件は腫瘤径であることから,肝細胞癌に対して移植が切除より優れているとは断定できないと結論している。Figuerasらの報告では,移植を肝細胞癌に対する第一選択として行い,切除は年齢や他疾患合併などにより移植の適応から外れた症例に施行している(LF001873) Level 2a)。その結果切除症例のうち単発で脈管侵襲がなく,肝機能良好例(ただし肝硬変症例)での成績と移植を比較すると,無再発生存率は移植が優れているものの,生存率には差はなかった。Llovetらの報告では,単発5cm以下の肝機能良好例では切除,切除不能例では移植という選択をし,待機期間中のドロップアウトを含めたintention-totreatによる解析を行った(LF002994) Level 2a)。在院死亡率は切除と移植で同等(2〜4%)であったが,長期成績を切除例の中でも肝機能の良好な群と不良な群に分けて比較した場合,成績の良い順に,切除症例(肝機能良好な群),移植群,切除症例(肝機能不良な群)の順であった。同様にPierieらの報告では肝移植対象症例中実際に移植を施行されたのは22/33例であり,intention-to-treatによる解析では,成績が良好な順に,非肝硬変切除症例,移植症例,肝硬変切除症例であった(LF111545) Level 2a)。Margaritらの報告では,Child-Pugh分類のAの症例で比較した場合,在院死亡率は移植例で高く(0% vs. 5.6%)在院日数も移植症例が長かった一方で,生存成績には差はなかった(無再発生存は移植に有利)(LF114986) Level 4)。Shabahangらの報告もChild-Pugh分類のAの症例での比較であるが,在院死は両群とも7%であったが,在院日数は移植のほうが長かった(LF117887) Level 2a)。長期成績では無再発生存,生存共に両群に差はなかった。
わが国の肝切除の手術死亡率は,日本肝癌研究会の追跡調査報告では0.9%であり,一方,わが国での肝細胞癌生体肝移植後3カ月以内の死亡率は35/316(11%)である(LF111448) Level 2b)。すなわち切除と移植の成績を比較する際には,諸外国の成績と異なり,わが国での肝切除の在院死亡率は,移植のそれよりも相当に低いことを銘記する必要がある。また上記の論文は,RCTでなく癌の進行度を可能な範囲でマッチングした症例同士の比較であるが,この場合には切除症例のほうにより浸潤傾向(微小な脈管侵襲等)の強い症例が集積する傾向にあるという報告もあり(LF117859) Level 2a)結果の解釈には注意が必要である。
肝細胞癌に対する生体肝移植と脳死肝移植の比較に関してもRCTレベルでの検討はないが,今までの報告では有意な差は報告されていない(LF1112610) Level 2a,LF1149911) Level 2a)。

■解 説
切除可能な症例で移植の適応内にある(例えば脈管侵襲のない小型の単発肝細胞癌で,肝機能良好な)症例に対してどちらが優れているかどうかは,高いエビデンスレベルの報告はない。また治療開始時の年齢も大きな要素である。これらの治療の実際上の選択はそれぞれの治療関連死(在院死亡率)によっても左右されるが,国内外で大きく異なる数字が報告されており留意すべきである。

■参考文献
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