ガイドライン

(旧版) 肝癌診療ガイドライン2009年版

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第3章 手術


第5節 肝移植

CQ27 肝移植前の肝細胞癌に対する治療は予後を改善するか?

推 奨
肝移植前の肝細胞癌に対する治療が予後を改善する十分な科学的根拠はない。
(グレードC1)

■背 景
肝細胞癌合併肝硬変肝不全症例では肝移植施行の有無が予後を最も大きく左右する因子であるが,脳死ドナーの深刻な不足や生体ドナーのリスクから,肝細胞癌に対する肝移植は適応に制約が設けられている。以下のステートメントは肝移植を受けることが可能な場合,移植前に癌への治療をすることが移植後の予後を改善するか,という観点に限局し論じた。

■サイエンティフィックステートメント
ミラノ基準を提唱したMazzaferroらの報告中の48症例のうち,28例において待機中に治療(TACE26例,PEIT1例,肝切除1例)が施行されているが,施行群の 4年生存率は79%であり,非施行群の69%に対し有意差を認められていない(LF005401) Level 2a)。肝移植前にTACEを施行した100症例と施行しなかった100症例を比較したDecaensらによるフランスの後ろ向き多施設共同症例対照研究によれば(LF108692) Level 2b),TACEを施行した群と施行しなかった群の5年生存率はそれぞれ59.4%,59.3%であり,移植後3カ月以上生存した症例に限っての無再発生存率の検討においても5年の時点でそれぞれ67.5%,64.1%と,有意な差は認められなかった。ミラノ基準内の症例に限っての検討ではTACE施行74例に対し非施行症例は68例であったが,5年生存率はそれぞれ68.8%,67.1%であり,ここでも有意な差は認められていない。
移植前の治療の奏功の影響の検討では,反応が予後に反映されるとの見方がある。ミラノ基準内に対しTACEを施行した68例の検討では,良好な反応を示した62例の5年生存率は73.3%であったのに対し,不変もしくは進行を示した症例の2年生存率は40%であり,5年生存者は認めなかったとしている(LF120913) Level 4)。本報告では比較群間の症例数の偏りが大きく,また,肝全壊死を示した症例(24例)と部分的な壊死を示した症例(38例)の間の比較では有意差は生じていない。部分的な肝移植前の選択的TACE 30症例との効果を,479症例の中から腫瘍条件を揃え抽出された全肝TACE 30症例とcase-control studyの形で検討した多施設共同研究では,選択的TACEを施行した群において腫瘍の肝全壊死の割合が高く,5年無再発生存率が良好である傾向があったと述べられているが,統計的有意差は示されていない(選択的TACE群87%に対し,全肝TACE群64%)(LF108764) Level 3)。一方,ミラノ基準内の肝細胞癌症例に対しexception pointsを与える米国のMELD scoreに基づいた臓器配分方式(HCC adjusted MELD organ allocation scheme)の下では,臓器配分システムによる肝細胞癌症例に対する待機期間短縮の効果が,治療の奏功の影響を上回るという報告もある(LF108725) Level 3)。脳死肝移植では臓器配分システムや待機期間の影響を考慮に入れたうえでの諸報告の解釈が重要であると考えられる。
わが国では待機期間を要しない生体肝移植が主体であるが,本ガイドラインが今回対象とした論文検索の範囲内では,移植前の治療が予後を改善するとする十分な科学的根拠は示されていない。

■参考文献
1) LF00540 Mazzaferro V, Regalia E, Doci R, Andreola S, Pulvirenti A, Bozzetti F, et al. Liver transplantation for the treatment of small hepatocellular carcinomas in patients with cirrhosis. N Engl J Med 1996;334(11):693-9.
2) LF10869 Decaens T, Roudot-Thoraval F, Bresson-Hadni S, Meyer C, Gugenheim J, Durand F, et al. Impact of pretransplantation transarterial chemoembolization on survival and recurrence after liver transplantation for hepatocellular carcinoma. Liver Transpl 2005;11(7):767-75.
3) LF12091 Millonig G, Graziadei IW, Freund MC, Jaschke W, Stadlmann S, Ladurner R, et al. Response to preoperative chemoembolization correlates with outcome after liver transplantation in patients with hepatocellular carcinoma. Liver Transpl 2007;13(2):272-9.
4) LF10876 Dharancy S, Boitard J, Decaens T, Sergent G, Boleslawski E, Duvoux C, et al. Comparison of two techniques of transarterial chemoembolization before liver transplantation for hepatocellular carcinoma:a case-control study. Liver Transpl 2007;13(5):665-71.
5) LF10872 Porrett PM, Peterman H, Rosen M, Sonnad S, Soulen M, Markmann JF, et al. Lack of benefit of pre-transplant locoregional hepatic therapy for hepatocellular cancer in the current MELD era. Liver Transpl 2006;12(4):665-73.

 

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