ガイドライン

(旧版) 肝癌診療ガイドライン2009年版

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第3章 手術


第5節 肝移植

● はじめに

肝細胞癌に対する肝移植は,1980年代に切除不能な腫瘍に対して行われた結果,そのほとんどの症例が数年以内に再発死亡した経験から,多くの肝移植施設が肝細胞癌症例は移植の適応外としてきた。1990年代に入り,従来は肝切除のよい適応とされてきた比較的小さな少数個の肝細胞癌症例に対しては,移植後の長期成績が良性末期肝疾患に対する移植後の成績と同程度であることが明らかにされ,現在では肝機能条件により切除不能な肝細胞癌に対しては,腫瘍条件が一定の基準内(小さな少数個の肝細胞癌)であれば移植のよい適応であることは一般的に受け入れられている。一方,肝細胞癌は,その多くの症例で背景にB型またはC型肝炎ウイルスの感染による慢性肝炎を伴っており,肝細胞癌に対する移植は単に癌治療のみならず,慢性ウイルス性肝炎に対する移植の是非という点からも検討されなくてはならない。これら慢性肝炎に対する肝移植の適応,治療方針は過去20年間で急速に変化しており,特にB型肝炎に対する移植の適応は,抗ウイルス薬の使用などにより禁忌からよい適応へと劇的に変化している。
一般に新しい治療は実験的な段階から始められ,症例が積み重ねられて大まかなコンセンサスに至るのが常で,ランダム化比較試験の結果によるエビデンスの確立は,相当の時間が経過し治療法がある程度定着した後の最後の段階に行われる。その意味で肝細胞癌に対する肝移植は比較的新しい治療でありLevel 1bの論文は皆無である。こうした意味からはこの領域は,エビデンスレベルの高い論文の結果によりClinical Question(CQ)に対する推奨に至るという通常のガイドライン作成の手順がややなじまないことを最初に銘記しておく。
今回の改訂では,前回とCQの内容をやや変更した。肝移植後の予後因子に関しては,この問題は移植の適応基準と不可分のquestionであるので,それを考慮したCQと本文内容にした。肝細胞癌に対して肝移植と肝切除の治療法の優劣の比較については,ほぼそのままにしたが,一部,生体肝移植の論文にも言及した。肝移植前のTAEは有効かという前回のCQは,移植前の前治療はTAEに限らないので移植前治療の有効性というより包括的なCQにした。一方,移植後の再発様式およびそれに対する治療法という前回のCQは,あまり頻度が高く問われるものではないという見地からこれを除き,「背景肝疾患の相違(HBV,HCV,alcohol,PBC,cryptogenic)により移植後の成績に差はあるのか? また,適応は変わるのか?」という新しいCQを新設した。

 

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