ガイドライン

(旧版) 肝癌診療ガイドライン2009年版

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第3章 手術


第1節 手術適応・術式・再発補助療法

CQ17 肝切除術における最良の術前肝機能評価因子は?

推 奨
ICG15分停滞率は術前肝機能評価因子として有用である。特に術後死亡の予測因子として優れている。
(グレードB)

■サイエンティフィックステートメント
肝予備能分類としては,従来からChild分類および,その変法であるChild-Pugh分類が世界的に汎用されている。この分類の優れた点は,特別な負荷試験を必要とせず,基本的な臨床症状と血液検査から得られる5項目を点数化し半定量的に肝機能を分類できることである。しかしながら,この分類では肝予備能の良い群の多くはAに分類され,厳密に肝予備能分類が要求される肝切除の場合には,不向きな分類という批判が多い。一方,肝切除の術前肝機能評価としてガラクトース負荷試験,術前門脈圧測定,99mTc-GSA肝シンチグラフィー,ICG負荷試験,アミノ酸クリアランス試験,アミノピリン呼気試験などが挙げられる。ガラクトース負荷試験では肝細胞癌78例を含む肝切除258例(術後死亡6例2%)を対象にgalactose elimination capacity(GEC)が術後合併症,術後死亡の予測因子として有用であり,肝細胞癌症例に限ってもカットオフ値4.0mg/min/kgとした場合,同様の結果を認めている(LF120841) Level 2b)。Child-Pugh分類Aの肝硬変合併肝細胞癌切除例29例を対象とした術前門脈圧測定に関する報告では,11例(38%)に術後3カ月以上遷延する肝不全症状(うち死亡1例)を認め,多変量解析でhepatic venous pressure gradient(HVPG)が術後肝不全に関与する唯一の予測因子であった(LF005142) Level 3)。99mTc-GSA肝シンチグラフィーは組織学的肝障害の評価においてICG15分停滞率よりも優れているとの報告(LF004573) Level 4)もある。さらにICG負荷試験に関する検討では,術後死亡の予測因子として有用であるとする報告がこれまで数多くなされており,肝細胞癌切除例127例を対象とした検討ではICG15分停滞率が術後死亡を予測する因子としてアミノ酸クリアランス試験,アミノピリン呼気試験より優れていた(LF004414) Level 2a)。わが国からも肝細胞癌切除例315例を対象とした検討で,術後死亡24例(7.6%)に最も寄与する因子として,術中出血量とICG K値が挙げられている(LF002905) Level 2b)。また,肝細胞癌376例(術後死亡34例9%),転移性肝癌58例(術後死亡3例5%)を対象とした検討では,ICG15分停滞率,肝切除量,年齢から構成されるprediction scoreが術後死亡予測に有用であったとする報告がある(LF006326) Level 2b)。

■解 説
術前肝機能評価因子の中でも比較的安価で簡便なICG負荷試験に関する報告が多いものの,術前肝機能評価因子のみを論じたエビデンスレベルの高い報告は少なく,術後合併症を含めた検討も少ない。またICG負荷試験は肝内シャントや黄疸の存在によって肝予備能を過小評価する可能性がある。こうした点で,いずれの肝機能評価方法も単独で肝機能を正確に把握したものではなく,肝機能の一側面を評価したものに過ぎない。実際にはこうした負荷試験結果に従来の血液検査や画像検査,残肝容積などを加味した総合的な評価が不可欠である。しかしながら,実際の臨床ではICG15分停滞率は幕内基準(LF018587) Level 2b),あるいは日本肝癌研究会のliver damage決定の一因子(LF120888))として既に広く用いられており,わが国の肝細胞癌に対する術死率は0.8%と安全性は著しく向上した実績がある(LF120899) Level 2a)。また,こうした現状で術後死亡をend-pointとして,術前肝機能評価因子を再評価することは現実的ではない。現状ではICG15分停滞率が術前肝機能評価因子として有用であり,特に術後死亡の予測因子となり得る。

■参考文献
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