ガイドライン

(旧版) 肝癌診療ガイドライン2009年版

書誌情報
 
第1章 予防


第2節 肝庇護療法

CQ2 肝庇護療法は肝細胞癌の発癌予防に有効か?

推 奨
C型慢性肝炎患者に対する発癌予防としてグリチルリチン製剤静脈内投与が推奨される。
(グレードB)

■背 景
慢性肝炎からの発癌は,肝炎ウイルスに起因する肝の持続炎症とそれに伴う壊死・再生の結果として起こると考えられる。肝の炎症を抑止することが肝発癌を予防するかについて検討した。グリチルリチン製剤は,抗炎症作用を有し,肝の炎症を抑制し,肝酵素値を減少させる。小柴胡湯は,7種の生薬を混合した漢方薬で,その作用として細胞膜保護作用,抗炎症作用,肝血流増加作用,肝再生促進作用等が推定されている。これら2剤は肝庇護目的でわが国で広く投与されている。

■サイエンティフィックステートメント
C型慢性肝炎患者に対するグリチルリチン製剤静脈内投与は,肝発癌リスクを減少させる(オッズ比0.40;p=0.044)。インターフェロン療法が無効であったC型慢性肝炎・肝硬変患者に対するグリチルリチン製剤投与は,肝発癌リスクを減少させる(オッズ比0.49;p=0.014)。
大阪地区の肝硬変患者260人を対象とした小柴胡湯投与のRCTでは,平均41カ月の観察期間中,投与群130人中23人,非投与群130人中33人の発癌が認められた。小柴胡湯投与は,発癌率を減少させたが,有意ではなかった(p=0.071)。HBs抗原陰性例に限ると,小柴胡湯投与によって5年発癌率が39%から22%に減少し(p=0.024),さらに5年生存率が60%から76%に改善した(p=0.043)。

■解 説
グリチルリチン製剤と肝腫瘍をキーワードに論文検索を行った。RCTはなく,2本の後ろ向き研究のみが採択された。
Araseらは,C型慢性肝炎非肝硬変患者のうち,グリチルリチン製剤が投与された84人と非投与の109人を対象に後ろ向きコホート研究を行い,危険因子で調整した結果,グリチルリチン製剤静脈内投与は,肝発癌リスクを減少させる(オッズ比0.40;95%信頼区間0.16〜0.99;p=0.044)と報告している(LF023951) Level 2b)。Ikedaらは,インターフェロン治療が無効であったC型慢性肝炎・肝硬変患者のうち,グリチルリチンが投与された244人と非投与の102人を対象に後ろ向きコホート研究を行い,危険因子で調整した結果,グリチルリチン製剤静脈内投与は,肝発癌リスクを減少させる(オッズ比0.49;95%信頼区間0.27〜0.86;p=0.014)と報告している(LF103592)Level 2b)。同一施設からの発表であるが,対象および研究期間が異なるため,個別のエビデンスとして採用した。
小柴胡湯と肝腫瘍をキーワードに論文検索を行い,1本の論文を採択した(LF025573)Level 1b)。
上述したように肝硬変患者に対する小柴胡湯投与は,発癌を抑制する可能性があるが,有意ではなかった。ただし,HBs抗原陰性例に限ると発癌,予後ともに改善されるという結果となっている。本研究が実施された1985年にはC型肝炎ウイルスは発見されていない。その後の疫学統計その他から大多数のHBs抗原陰性肝硬変がC型肝炎ウイルスに起因していることが明らかになった点を考慮すると,C型肝硬変の発癌を小柴胡湯投与が抑制する可能性は高い。しかし,現在わが国では肝硬変に対する小柴胡湯投与は,適応禁忌となっており,その後新たなエビデンスが報告されていないため今回は推奨を行わないこととした。

■参考文献
1) LF02395 Arase Y, Ikeda K, Murashima N, Chayama K, Tsubota A, Koida I, et al. The long term efficacy of glycyrrhizin in chronic hepatitis C patients. Cancer 1997;79(8):1494-500.
2) LF10359 Ikeda K, Arase Y, Kobayashi M, Saitoh S, Someya T, Hosaka T, et al. A long-term glycyrrhizin injection therapy reduces hepatocellular carcinogenesis rate in patients with interferon-resistant active chronic hepatitis C:a cohort study of 1249 patients. Dig Dis Sci 2006;51(3):603-9.
3) LF02557 Oka H, Yamamoto S, Kuroki T, Harihara S, Marumo T, Kim SR, et al. Prospective study of chemoprevention of hepatocellular carcinoma with Sho-saiko-to(TJ-9). Cancer 1995;76(5):743-9.

 

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