ガイドライン

(旧版)急性膵炎診療ガイドライン2010

書誌情報
第IX章  ERCP後膵炎
―消化器内視鏡関連手技後の膵炎―

 


4.ERCP後膵炎の予防


CQ74 : ERCP後膵炎の有効な予防法はあるか?
ERCP後膵炎高危険群に対する予防的ステント留置は有用である:推奨度B
予防的薬剤投与についてはNSAIDsが有用な可能性がある:推奨度C1
ステント留置とNSAIDsの併用の有用性に関しては十分なエビデンスはない。
ソマトスタチンのボーラス投与は有用な可能性がある。ただし,本邦ではソマトスタチンは販売されていない**
*: Sphincter of Oddi dysfunction 確診もしくは疑診例,カニュレーション困難例,バルーン拡張例,pre-cut sphincterotomy 施行例など(本文および表IX-2,表IX-3を参照)。
**: 本邦ではソマトスタチンのアナログであるオクトレオチド(サンドスタチン)が販売されている。詳細は本文を参照。


1) 予防的内視鏡手技

a.予防的一時ステント留置
ERCP後膵炎高危険群に対しての予防的一時ステント留置については,4つのRCTを含む5つの前向き研究に対するメタ分析(対象症例数481例)がある(レベル1a)22)表IX-223),24),25),26),27)(レベル1a~2b)。この5つの研究で対象とされた高危険群とはSphincter of Oddi dysfunction確診もしくは疑診例,カニュレーション困難例,pre-cut sphincterotomy施行例,バルーン拡張例である。ERCP後膵炎発症率はステント留置群,非留置群でそれぞれ5.8%,15.5%で,ステント留置は膵炎予防に有用とされた(OR=3.2;95%CI=1.6~6.4)。重症度別にみると軽症から中等症のERCP後膵炎は有意に減少し(12/206vs.36/275),発症率に有意差は認めなかったが,留置群には重症例はなかった(0/206vs.7/275)。ARR(absolute risk reduction,絶対リスク減少)=0.1,NNT(number needed to treat治療必要数)=10であり,1例のERCP後膵炎発症予防のために10例のステント留置を要するという結果であった。
1966年1月から2004年1月までのERCP後膵炎発症予防についての報告を対象としたレビュー文献(レベル5)28)も,先のメタ分析を引用しほぼ同様の意見を述べているが,両報告で著者らは,高次施設以外での一般的な診療内容か否か,ステント留置にかかる抜去を含めたコストやリスクについて言及している。それらに比較される臨床上の利益を考慮して,ERCP後膵炎発症のリスクなどの個々の状況を十分に勘案する必要がある。
2007年に1件の,spontaneous dislodgement stentを用いた201例を対象としたRCT(レベル1b)29)が追加されているが,ERCP後膵炎発症率はステント留置群,非留置群でそれぞれ3.2%,13.6%(p=0.019)で,高アミラーゼ血症の発症も有意に抑制され有用であった。本邦からも2007年に1件のRCTが報告されており同様に有用な傾向を主張したが,症例数が64例と少なく有意差を示すには至っていない(レベル1b)30)
2007年にFreemanらは予防的ステント留置についての既報告を詳細に検討し,その有用性を主張するとともに予防的ステント留置の適応について表IX-3のごとくまとめた(レベル5)31)

表IX-2 ERCP後膵炎に対する予防的ステント留置の効果


表IX-3 ERCP後膵炎に対する予防的ステント留置の適応


b.その他の内視鏡手技
予防的ステント留置以外の内視鏡手技についてもいくつかのRCTが報告されている。
従来の造影剤注入によるカニュレーション法とガイドワイヤを用いたカニュレーション法の413例の検討では,ERCP後膵炎の発症はガイドワイヤ群,造影剤群でそれぞれ,16/202(7.9%),13/211(6.2%)で有意差はなかった(p=0.48)(レベル1b)32)。同じガイドワイヤを用いたカニュレーション法の別のRCTにおいても,ERCP後膵炎の発症はガイドワイヤ群,従来法群でそれぞれ,9/167(5.4%),13/165(7.9%)で有意差はなかった(p=0.37)(レベル1b)33)。この他にもneedle knifeを用いた手技についてのRCT(レベル1b)34),35)があり,いずれも有用性が主張されている。
検討された手技はすでに広く普及していると考えられるが,単一の方法を推奨する根拠は薄く,施設の設備や術者の技量の範囲で,より安全な方法を選択すべきである。


2) 予防的薬剤投与

予防的薬剤投与についても数多くの優れた研究がある。前出の2003年のレビュー文献28)(レベル5)の検証結果(表IX-4)では,ほとんどの研究が明らかな有用性の証明には失敗し,むしろ否定的な結果が多い。この結果の重要な因子として,多くの研究で高危険群の患者選択がされていないこと,症例,膵炎の定義などがまちまちなことを指摘している。有用性を主張したいくつかの検討にはコントロール群に高危険群を含むことを指摘し,有用性に疑問を呈するとともに,対象に高危険群を選択する重要性を主張している。当時,最も期待されたガベキサートやソマトスタチンでも,長い投与時間や,コストパフォーマンス(ガベキサートのNNT=35)を問題として指摘し,特に外来患者での実用性を疑問視している。
その後,NSAIDs,ガベキサートについて3つ,ソマトスタチン,アロプリノールについて2つ,ステロイド,オクトレオチドについてそれぞれ1つのメタ分析が報告されている。また,これらのメタ分析の対象になった薬剤以外の予防的投与についても,新たにいくつかのRCTを中心とした報告がされている。各薬剤の検証結果について述べる。

表IX-4 ERCP後膵炎に対する薬剤予防投与


a.NSAIDs
NSAIDs投与についての6つのRCTを対象とした合計1,300例のメタ分析では,投与群(652例,diclofenac 271;indomethacin 381)で有意にERCP後膵炎の発症が抑制された(8.9% vs. 16.8%)(OR=0.46;95%CI=0.32~0.65,p<0.0001)(レベル1a)36)。NSAIDs投与に関する副作用はなかった。これらの6つのRCTのうち,NSAIDsをERCPの直前あるいは直後に直腸内単回投与した4つのRCTの合計912例(投与群456例,diclofenac 160;indomethacin 296,いずれも100mg)を対象としたメタ分析では,急性膵炎発症予防に有用であると報告した(4.4% vs. 12.5%)(RR=0.36;95%CI=0.22~0.60,NNT=15)(レベル1a)37)。同じ4つのRCTを対象としたサブグループ解析では,NSAIDs投与群において,ERCP後膵炎低危険群(RR=0.29;95%CI=0.12~0.71,p=0.006),高危険群(RR=0.40;95%CI=0.23~0.72,p=0.002)の双方で膵炎発症は有意に減少していた(レベル1a)38)。ステント留置の併用について言及しているのは4つのRCTのうち2報告で,1つは予防的ステント留置は両群ともに施行せず,もう1つは投与群13例,プラセボ群12例に留置したが,サブグループ解析はなく留置の適応理由も定かではない。
欧米では両薬剤ともに100mg/個の坐剤が販売されており,最大1回投与量は100mgである。本邦では50mg製剤までしかなく,通常1回投与量は25~50mgである。現状では,50mg投与でのERCP後膵炎の予防効果の有無は不明である。販売会社によるボルタレンサポの使用成績調査によれば,1回投与量26~50mgにおける副作用発現頻度は1.76%(301/17,094)で,51~100mgにおけるそれは0.52%(1/191)である。ただし,本邦では1984年に各国で他のNSAIDs(フェニルブタゾン,オキシフェンブタゾン)の安全性が問題視されたことを受けて,用法用量の見直しがなされ1985年に1回量の上限が削減された経緯がある。本邦における予防的投与については投与量の検討が必要である。

b.ガベキサート
1つ目のガベキサートに対するメタ分析は,4つのRCTを対象にし,ERCP後膵炎の予防に無効であると結論している(OR=0.67;95%CI=0.31~1.47)(レベル1a)39)。さらに,重症膵炎,死亡,高アミラーゼ血症,腹痛のいずれの発生においても有用性は認めなかった。2つ目のメタ分析は(レベル1a)40),投与スケジュールに注目して,1件のRCTを対象に,12時間投与(長時間投与)におけるERCP後膵炎発症率は5.2%減少したが(95%CI=1.1~9.4%,p=0.01),高アミラーゼ血症には有意差を認めなかった。2件のRCTを対象とした12時間以内投与(短時間投与)の検討では,急性膵炎(発症率の差-1.1%,95%CI=-3.8~1.6%),高アミラーゼ血症ともに有用性は認めなかった。最新のRCT1件を加えて5つのRCTを対象とし,先の2つのメタ分析が対象としたRCTすべてを網羅した3つ目のメタ分析では(レベル1a)41),対照群対投与群の急性膵炎の発症率は5.7% vs. 4.8%で,高アミラーゼ血症(40.6% vs. 36.9%),腹痛(1.7% vs. 8.9%)を含めて有用性はないと結論している。最新のRCTを加えて2件のRCTについて検討した長時間投与についても急性膵炎の予防に有用性は見出せなかった。最近もRCT報告があり(レベル1b)42),500mg/6hrのERCP術前投与群,術後投与群,対照群において,ERCP後膵炎の発症率はそれぞれ,3.9%(8/203),3.4%(7/203),9.4%(19/202)で,投与群3.7%(15/406)では有意な低下を認めたと報告された(p<0.01)。術前投与,術後投与に有意差はなく,ERCP施行後に高危険群にのみ投与することを勧めている。

c.ソマトスタチンおよびオクトレオチド
ソマトスタチンに対する1つ目のメタ分析は投与スケジュールに注目し(レベル1a)40),2件のRCTを対象とした12時間投与(長時間投与)は,急性膵炎を7.7%(95%CI=3.4~12.0%,p<0.0001)減少させ,高アミラーゼ血症(p=0.017)についても有用とした。2件のRCTを対象とした12時間以内投与(短時間投与)は,急性膵炎(発症率の差-2.3%,95%CI=-5.2~0.5%),高アミラーゼ血症ともに有用性は認めなかった。3件のRCTを対象とした670例(337 vs. 333)のボーラス投与(カテーテル挿入直前あるいは診断的ERCP直後に4μg/kgもしくは250μgの投与)の検討では,急性膵炎を8.2%(95%CI=4.4~12.0%,p<0.0001)減少させ,高アミラーゼ血症においても有用であった(p=0.001)。臨床的な実用性を考慮してソマトスタチンのボーラス投与が有用な可能性を主張した。このメタ分析が対象としたRCTをすべて網羅し9つのRCTを対象としたメタ分析では(レベル1a)41),急性膵炎発症率は対照群96/1,309(7.3%),治療群72/1,349(5.3%)(OR=0.73;95%CI=0.54~1.006,RR=0.734;95%CI=0.535~1.006)で有意差はなかった。4件の短時間投与,3件の長時間投与に関するRCTの検討で対照群対治療群のERCP後膵炎発症率はそれぞれ6.4%vs. 11.8%,6.4% vs. 2.9%で有意差はなかった。3件のRCTを対象としたボーラス投与群の検討においては先のメタ分析と同様に,急性膵炎(OR=0.271;95%CI=0.138~0.536,発症率の差8.2%;95%CI=4.4~12.0,NNT=12;95%CI=8~23),高アミラーゼ血症ともに有用と報告している。2008年に1件のRCTが追加されている(レベル1b)43)。391例の治療的ERCPを対象に,術前30分から12時間投与する群でERCP後膵炎の発症は有意に低かった(3.6% vs. 9.6%,p=0.02)。
ソマトスタチンアナログであるオクトレオチドについては,15のRCTを対象に1件のメタ分析がある。合計2,621例全体の検討ではERCP後膵炎の予防に有用性は認められなかった(OR=0.78;95%CI=0.57~1.08)(レベル1a)44)。しかし,200例以上を検討した5つのRCTの合計1,714例に限定して解析すると,ERCP後膵炎は有意に減少していた(OR=0.50;95%CI=0.32~0.79,p=0.003,NNT=31)。

d.アロプリノール
アロプリノールの検討は,6つのRCTを対象に治療群783例,対照群771例の合計1,554例の検討で,ERCP後膵炎(OR=0.74;95%CI=0.37~1.48,p=0.40),重症ERCP後膵炎(OR=0.87;95%CI=0.33~2.28,p=0.78),高アミラーゼ血症(OR=0.88;95%CI=0.37~2.11,p=0.78),死亡(OR=0.19;95%CI=0.01~3.91,p=0.28)のいずれにも効果を見出せなかった(レベル1a)45)。さらに2008年に報告された1件を含む4つのRCTを対象とした検討でもERCP後膵炎発症率に有意差はなかった(8.9% vs. 9.7%,p=0.68)(RR=0.86;95%CI=0.42~1.77)(レベル1a)46)

e.ステロイド
ステロイドについては7つのRCTを対象にしたメタ分析があり,急性膵炎(OR=1.13;95%CI=0.89~1.44,p=0.32),重症急性膵炎(OR=1.61;95%CI=0.74~3.52,p=0.23),高アミラーゼ血症(OR=0.92;95%CI=0.57~1.48,p=0.73)のいずれにも無効で予防投与は勧められないと結論している(レベル1a)47)

f.N-アセチルシステイン
抗酸化物質として期待されたN-アセチルシステイン投与の2つのRCTでは無効であった(レベル1b)48),49)

g.ウリナスタチン
本邦からウリナスタチンの多施設RCTが報告され,投与群で有意に急性膵炎発症率が低かった(2.9%[6/204]vs. 7.4%[15/202],p=0.041)(レベル1b)50)。本研究では,ERCP後急性膵炎をERCP後24時間以上続く腹痛,または,18時間後の膵酵素(アミラーゼまたはリパーゼ)の正常上限値の3倍以上の上昇と定義しており,腹痛の頻度(8.8%[18/204] vs. 14.4%[29/202])に有意差はなかった。また両群ともに重症例はなく,臨床的な有益性は大きくはないと考えられる。2006年には,ウリナスタチンの高用量(45万単位),低用量(15万単位)投与群とガベキサート(900mg)投与群の比較検討のRCTが報告され,ERCP後膵炎の発症率はそれぞれ,3/46(6.5%),4/47(8.5%),2/46(4.3%)で群間差を認めなかった(レベル1b)51)。また2007年にウリナスタチン(15万単位)投与群とガベキサート(600mg)投与群の比較検討のRCTが報告され,ERCP後膵炎の発症率は同じ(2.9%[1/34])だった(レベル1b)52)。いずれの報告も,現時点でほぼ有効性が否定されつつあるガベキサートに対して優越性はなかった。ウリナスタチンのコストを考慮して対象を高危険群に限定した合計227例のRCTでは,ERCP後膵炎の発症は治療群(ウリナスタチン10万単位)で6.7%,プラセボ群で5.6%であり,有用性はないとした(レベル1b)53)

h.炎症性サイトカイン産生阻害剤
炎症性サイトカイン産生阻害剤であるsemapimodの242例のRCTでは,ERCP後の高アミラーゼ血症はsemapimod単回投与群で有意に減少したが(29.8% vs. 18.4%,p=0.031),ERCP後膵炎の発症については有意差を認めなかった(14.9% vs. 9.1%,p=0.117)。薬剤の重篤な副作用はなかった(レベル1b)54)


3) 総  括

現時点では,適切な患者選択を行った上でのステント留置のエビデンスが高い。薬剤投与については表IX-4に示すように,経済性,簡便性,安全性もあわせて考えると,NSAIDsとソマトスタチンのボーラス投与が最も期待される。特にNSAIDsの全例投与はERCP後膵炎の発症率に大きく関わる可能性がある。本邦で多く用いられている可能性が高い蛋白分解酵素阻害薬,特にガベキサートの有用性はほぼ否定的で,少なくとも対象を限定しないとコストに見合わないと考えられる。また,今後,信頼度の高い統一された診断基準が望まれる(レベル5)55)


 

書誌情報