ガイドライン

(旧版)急性膵炎診療ガイドライン2010

書誌情報
第VIII章  急性膵炎の治療

 


9.蛋白分解酵素阻害薬・抗菌薬膵局所動注療法


CQ55  : 蛋白分解酵素阻害薬・抗菌薬膵局所動注療法は急性壊死性膵炎の治療に有用か?
発症早期の蛋白分解酵素阻害薬・抗菌薬膵局所動注療法は急性壊死性膵炎の死亡率および感染性膵合併症の頻度を低下させる可能性がある: 推奨度C1


一般的に,膵組織は肝や腎に比べて薬剤の移行性は低く,特に急性壊死性膵炎では,発症早期から膵の虚血,膵微小循環障害がみられるため,経静脈的に投与された薬剤は膵組織に到達しにくい。急性壊死性膵炎モデルによる実験的な検討では,経静脈的な投与法(点滴静注法)に比較して,膵を灌流する動脈から薬剤を直接的に投与する膵局所動注により,蛋白分解酵素阻害薬および抗菌薬の膵組織内濃度は飛躍的に増加し,膵の炎症を抑制し,感染率を低下させることが報告されている 110),111),112) 。また,急性膵炎で膵が壊死に至る機序として膵の虚血,微小循環障害,凝固能の亢進による微小血栓形成の関与が指摘されているが,本邦で開発された合成の蛋白分解酵素阻害薬はDICの治療薬でもあり,薬剤が十分に膵組織に到達することにより重症膵炎における膵局所での過凝固状態を改善し,微小血栓形成に起因する膵壊死を抑制する可能性もある。重症急性膵炎に対する膵局所動注療法は安全量の薬剤を最大限に膵局所に到達させるためのdrug delivery systemである。
急性壊死性膵炎を対象に蛋白分解酵素阻害薬nafamostat mesilateおよび抗菌薬imipenemの膵局所動注,nafamostat mesilate単独動注(抗菌薬は経静脈的投与),膵局所動注療法非施行(nafamostat mesilateおよび抗菌薬は経静脈的投与)の3群について検討した報告では,死亡率はそれぞれ6.7%,13.6%,43.8%,感染性膵壊死の頻度はそれぞれ0%,22.8%,50%であり,nafamostat mesilateおよびimipenemの動注群は動注を施行しなかった群に比較して死亡率および膵感染の合併頻度が有意に低かった(レベル3b) 113) 。また,単一施設において,発症から7日以内に入院した急性壊死性膵炎を対象としてプロスペクティブにnafamostat mesilateおよびimipenemの膵局所動注療法を施行した症例について,発症から動注開始までの時間と死亡率,合併症発生率を比較した検討では,発症から48時間以内の動注療法開始群,48〜72時間での動注開始群,72時間以降の動注開始群における人工呼吸を必要とする呼吸不全発生率はそれぞれ28.1%,36.4%,57.9%,死亡率は3.2%,9.1%,26.3%であり,48時間以内に動注療法が開始された群で,72時間以降に開始された群に比較して呼吸不全の発生頻度,死亡率が有意に低かったと報告されている(レベル3b) 114) 。厚生労働省の研究班による,急性壊死性膵炎に対する膵局所動注療法の全国調査集計では,発症から48時間以内に動注が開始された群の死亡率は11.9%であり,48時間以降に開始された群の死亡率23.6%と比較して有意に低く,また,蛋白分解酵素阻害薬および抗菌薬の併用動注群の感染性膵壊死発症率は7.6%であり,蛋白分解酵素阻害薬の単独動注(抗菌薬は経静脈的投与)群の感染性膵壊死発症率23.5%に比較して有意に低かったと報告されている。さらに,動注開始から疼痛消失までの時間の検討では,75.8%の症例で動注開始から48時間以内に疼痛が消失し,72時間までには86.8%の症例で疼痛の消失がみられている(レベル2c) 115) 。最近行われた多施設共同研究では,gabexate mesilateと抗菌薬を用いた膵局所動注療法群は動注非施行群に比較して,疼痛期間,SIRS期間,入院期間が有意に短かく,CRP,IL-6/IL-10の急速な改善がみられた(レベル3b) 116)
また,急性壊死性膵炎を対象に膵局所動注療法後の造影CTによる膵の造影不良域の変化を動注開始時と開始後2週間で比較した検討では,発症から48時間以内に動注が開始された群において84%の症例に膵局所動注開始後2週間で膵の造影不良域の縮小・改善がみられ,48〜72時間に動注が開始された群では62.5%に,72時間以降に動注が開始された群では53%に改善がみられたとする報告もある(レベル3b) 117) 。動注療法に用いる抗菌薬に関する無作為試験では,メロペネムの動注がイミペネムの動注と同等の効果を示したと報告されている(レベル1b) 118) 。動注療法そのものの有効性に関しては,現在までエビデンスレベルの高い無作為試験が報告されていないが,急性壊死性膵炎に対する膵局所動注療法の有用性を否定するまたは有害とする報告はない。動注療法の有用性確立のために,今後のRCTの報告が待たれる。
急性壊死性膵炎発症早期からの蛋白分解酵素阻害薬・抗菌薬膵局所動注療法は急性壊死性膵炎の致死率を低下させ,早期の膵感染を予防する可能性があるが,十分なインフォームドコンセントを行った上で,緊急血管造影検査およびカテーテル留置が安全に行われる施設で実施されるべきである。


 

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