ガイドライン

(旧版)急性膵炎診療ガイドライン2010

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第VIII章  急性膵炎の治療

 


5.栄養療法



CQ48 : 軽症例に中心静脈栄養は必要か?
軽症例において,早期からの中心静脈栄養による栄養管理の有用性は認められない:推奨度D




CQ49 : 重症例に経腸栄養は必要か?
重症例において,早期からの経腸栄養は感染合併症の発生率を低下させ,入院期間の短縮や医療費の軽減にも役立つ:推奨度B


急性膵炎,特に重症急性膵炎ではエネルギー必要量が増加しており,栄養摂取が長期的に不可能な場合にはそれに見合うだけの栄養を補充する必要がある。急性膵炎における経腸栄養と経静脈栄養とを比較したRCT65),66),67),68),69),70)のシステマティックレビュー(レベル1a)72),73)によれば,経腸栄養施行例は経静脈栄養施行例と比較して,感染症発生率の低下(RR=0.45;95%CI=0.26〜0.78,p=0.004),外科的治療の必要性の低下(RR=0.48;95%CI=0.22〜1.0,p=0.05),入院期間の短縮(平均2.9日短縮,95%CI=1.6〜4.3日,p<0.001)が認められた72)表VIII-3)。一方,死亡率に改善はみられず(RR=0.66;95%CI=0.32〜1.37,p=0.3),感染症以外の合併症(多臓器不全やARDSなど)の発生率にも改善は認められなかった(RR=0.61;95%CI=0.31〜1.22,p=0.16)60)。重症急性膵炎を対象としたRCT(レベル2b)66)では,患者あたりの医療費は,経腸栄養では経静脈栄養施行例の1/3であった。経腸栄養施行例では入院7日後のSIRS陽性率,CRP値,APACHE II値が有意に低下したが,経静脈栄養施行例ではこれらの指標に改善を認めなかったとする報告(レベル2b)67)もある。一方で,経腸栄養は血清IL-6,sTNF-RI濃度,CRP,小腸粘膜透過性に対して有用性を認めなかったとする報告74)もある(レベル2b)。最近では,重症急性膵炎患者に対する経腸栄養と経静脈栄養とを比較したRCTの報告があるが,感染性膵壊死の発生率のみならず,多臓器不全発症率,死亡率でも経腸栄養施行例が経静脈栄養施行例に対し有意な改善を認め,経腸栄養が強く勧められる結果であった(レベル1b)71)
軽症膵炎に対して入院後24時間以内に中心静脈栄養か通常輸液を開始し,その後の経過を比較すると75),経口摂取までの日数,入院期間,膵炎による合併症発生率のいずれにも差を認めなかった(レベル1b)。また,軽症膵炎30例(32発作)に対して無作為に経静脈栄養または経腸栄養を48時間以内に開始した検討では65),疼痛スコア,アミラーゼの正常化までの日数,経口摂取までの日数,アルブミン値,感染症発生率には差を認めなかったが,患者あたりの医療費では,経静脈栄養は経腸栄養の4倍以上($3,294vs. $761,p<0.01)を要した(レベル2b)。
以上から,軽症例では中心静脈栄養の必要性は少なく,早期からの経腸(経口)栄養が可能であると考えられる。イレウスや腸管虚血/壊死に注意しながら施行すれば,重症例においても早期から経腸栄養が可能であり,これにより合併症発生率低下や入院期間の短縮などの効果が期待できる。


表VIII-3 急性膵炎における経腸栄養と中心静脈栄養に関するRCT




CQ50 : 経腸栄養はどのように行えばいいか?
経腸栄養チューブを透視下あるいは内視鏡誘導下に十二指腸あるいはTreitz 靱帯を越えた空腸に留置して行うことが一般的である。


最近の疫学調査78)によれば,本邦における経腸栄養療法の施行率は急性膵炎全症例の3.9%,重症例でも10.7%であり,十分に普及していない(レベル4)。さらに,開始時期や投与部位,投与内容物なども様々であり,発症9日以内に開始(平均±標準誤差;10.8±6.4日)されることが多いが,発症30日以降に開始された症例も存在するなど,標準的プロトコールが確立されていないのが現状である78)(レベル4)。海外の報告では,入院48時間以内に65),66),67),69),70),経腸栄養チューブを透視下あるいは内視鏡誘導下に十二指腸68),69)あるいはTreitz靱帯を越えた空腸65),66),70)に留置し,経腸栄養が開始されている。経腸栄養成分を20〜30mL/hで開始し,数日をかけて100mL/h(25〜35kcal/kg体重/日)を目標に増量されることが多い65)66),67),68),69),70)
重症急性膵炎における経腸栄養施行時の空腸管と胃管を比較した研究79)では,胃管による栄養群でも,空腸管と同程度の臨床効果(ICU入室期間,入院期間,死亡率に有意差なし)が認められる一方で,死亡率や挿入手技による合併症はむしろ少ない傾向にあった(レベル1b)。最近のメタ解析の報告80)によると,重症急性膵炎に対する胃管からの経腸栄養施行は空腸管からの経腸栄養と比較しても安全性で劣ることなく施行可能であるという結果であった。今後,症例の蓄積が必要であると考えられた(レベル1b)。
また,免疫強化療法として乳酸菌を付加した経腸栄養の効果を検討したRCT81)も行われ,通常の経腸栄養よりも有益である可能性が示唆されている(レベル2b)。最近の免疫強化療法としては乳酸菌以外に,グルタミン,アルギニン,ω-3脂肪酸,プロバイオティクスなどの報告(レベル1b)82),83),84),85)およびメタ解析(レベル1a)86)があるが,コントロール群に比し生存率の改善を示す報告はなく,感染症罹患率に関しても一定した結果は得られていない。また,重症急性膵炎患者に対するプロバイオティクス製剤の効果について致死率の増加が懸念される報告(レベル1b)87)があるが,現時点では,まだ議論の余地が多く,プロバイオティクス製剤を含めた免疫強化療法製剤投与の是非についてはさらなる検討が必要と思われる。



CQ51 : 経口摂取の開始時期は?
腹痛のコントロール,血中膵酵素(リパーゼ)値などを指標として経口摂取開始を決定する:推奨度B


急性膵炎後の経口摂取再開により膵炎が再燃する場合があり,入院治療期間の長期化や医療費増大などの不利益を生じる可能性もあることから,食事再開時期の決定は重要なポイントといえる。経口食開始後の腹痛に関する検討は少ないが,Balthazar's CT スコアD(腹痛再燃vs.腹痛なし;67% vs. 34%,p<0.002),腹痛持続期間(平均11日vs. 6日,p<0.002),食事開始直前の血中リパーゼ高値(正常上限値の4.0倍vs. 2.4倍,p<0.03)が腹痛の再燃と関連していたとする報告がある(レベル2b)88)。軽症例のみの検討では,入院時のCT診断による膵周囲浸出液貯留所見(腹痛再燃vs. 腹痛なし;34.4%vs. 12.2%,p<0.01),CRP高値(4.2vs. 1.3mg/dL,p<0.01),血中アミラーゼ高値(正常上限値の2.1倍vs. 1.3倍,p<0.01),血中リパーゼ高値(正常上限値の2.3倍vs. 1.3倍,p<0.01)(レベル2b)89)が,腹痛の再燃と関連していた。検討が少ないため今後の質の高い大規模な研究が必要であるが,急性膵炎後の経口食開始時期の目安として,腹痛のコントロールと血中膵酵素(特にリパーゼ)を一つの指標とするのは妥当と考えられる。一般的には,少量の脂肪制限食から開始し,経過をみながら徐々にカロリー,脂肪量を増量する。



 

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