ガイドライン

(旧版)急性膵炎診療ガイドライン2010

書誌情報
第VIII章  急性膵炎の治療

 


4.薬物療法


1)鎮痛薬

CQ42 : 急性膵炎に対する鎮痛の意義は?
急性膵炎の疼痛は激しく持続的であり,そのコントロールが重要である:推奨度A


急性膵炎における疼痛は,激しく持続的である。このような疼痛は患者を精神的に不安に陥れ,臨床経過に悪影響を及ぼす可能性があるため,発症早期より十分な除痛が必要となる。RCTのメタ解析11)では,適切な鎮痛薬の使用は疼痛を効果的に軽減する一方で,診療や治療の妨げにはならないことが示されている(レベル1a)。
軽症から中等症の急性膵炎におけるRCT(レベル1b)12)では,buprenorphine(初回投与0.3mg静注,続いて2.4mg/日の持続静脈内投与)は除痛効果に優れており,以前より非麻薬性鎮痛薬に指摘されてきたOddi括約筋の収縮作用による病態の悪化も認められず,Oddi括約筋弛緩作用をもつ硫酸アトロピンの併用も必要なかったと報告されており,急性膵炎の疼痛コントロールに有用と考えられる。ただし,過鎮静の副作用が多い点には注意が必要である。pentazocine(30mgの6h毎,静脈内投与)も急性膵炎の疼痛に対して有効であったが(レベル1b)13),procaine hydrochloride(2g/日の持続静脈内投与)では十分な鎮痛効果が得られなかった(レベル1b)13)。また,急性膵炎に対して,非麻薬性鎮痛薬のmetamizole(2gの8h毎,静脈内投与)とmorphine(10mgの4h毎,皮下注投与)を比較したRCTの報告では,疼痛コントロールに差は認められなかった(レベル2b)14)



2)抗菌薬

CQ43 : 急性膵炎に対する予防的抗菌薬投与は予後を改善するか?
軽症例では感染性合併症の発生率・死亡率はいずれも低いため,予防的抗菌薬投与は必要ない:推奨度D
重症例に対する抗菌薬の予防的投与により,感染性膵合併症の発生の低下や,生命予後の改善が期待できる:推奨度B
ただし,軽症例でも胆管炎合併例では抗菌薬の使用を考慮する。


グラム陰性菌を中心とする腸内細菌群による膵および膵周囲の感染症は急性膵炎における致死的な合併症であり,これら膵局所感染を予防し救命率を改善することが急性膵炎における予防的抗菌薬投与の目的である。
抗菌薬の予防的投与の効果について,膵壊死を伴う重症急性膵炎症例を対象に行われたRCT(レベル1b)15),16),17),18),19),20),21)のシステマティックレビュー(レベル1a)22),23),24),25),26),27)表VIII-1)によれば,予防的抗菌薬投与により生命予後が改善し24),25),感染性膵合併症が有意に減少した24)との報告がある一方,有意な改善効果が認められなかったとする報告もある26),27)。また,膵外の感染症発生率や外科的治療を必要とした頻度,入院期間には改善がみられなかった24),25),26),27)。しかし,これらの報告の対象患者の多くは壊死性膵炎であること,壊死性膵炎の診断基準が施設間で異なっていることなど問題があり,検証にはさらなる質の高いRCTが必要である27)
1970年代に行われた3件のRCT(レベル1b)28),29),30)では,膵炎の臨床経過を改善するには至らなかった。この原因として,これらが対象とした軽症膵炎では,コントロールの合併症発生率・死亡率がいずれも低かったこと,選択された抗菌薬が膵組織への移行性が低いampicillinであったことが挙げられる。

表VIII-1 急性膵炎に対する予防的抗菌薬全身投与に関するRCT



CQ44 : 重症急性膵炎において抗菌薬選択で考慮すべきことは?
抗菌スペクトラムや抗菌薬の組織移行性, 投与期間を考慮することが必要である:推奨度B


膵への組織内移行が良い抗菌薬としてimipenem,ofloxacin,ciprofloxacinが知られており(レベル2b)31),また,pefloxacinは膵壊死組織内においても十分な薬剤濃度が得られる(レベル2b)32)。imipenemについては,予防的投与により感染性膵合併症の発生が低下したと報告されている15),18),19),20)表VIII-1)。最近,meropenemを用いて行われた2件のRCT33),34)でも感染性合併症に対する有効性が示されており,imipenemと同等の効果が得られている33)。一方,ciprofloxacin 800mg/日とmetronidazole 1,000mg/日の併用静注を用いた検討(レベル1b)35)では,感染性合併症や生命予後に改善効果は確認されていない(表VIII-1)。
これらの抗菌薬に対して感受性の低いPseudomonas aeruginosaや真菌による感染が問題となっており(レベル3b)36),広域スペクトラムの抗菌薬の使用が真菌感染症の合併を増加させる危険性を指摘する論文もある(レベル2b)37)。抗菌薬の投与期間については明確な見解が得られていないが,感染徴候を認めない場合には2週間を超えて投与を継続することは避けるべきである(レベル1b)38)。胆道,尿路,呼吸器,体内留置カテーテルなど膵以外の部位の感染が明らかになった場合にも,起炎菌を同定し,薬剤感受性検査に基づき適切な抗菌薬を投与する必要がある。


CQ45 : 急性膵炎に対して予防的抗真菌薬投与は有効か?
重症例に対する抗真菌薬の予防的投与は深部真菌感染症の発生を低下させる可能性があるが,病態改善効果は明らかでない:推奨度C2


急性膵炎症例を対象に抗真菌薬投与の予防的効果を検討した大規模なRCTはないが,最近のコホート研究,症例対照研究の報告39),40),41),42)では,深部真菌感染症の続発予防に有用性が示されている(レベル2a~4)。重症急性膵炎において,fluconazole 100mg/日を静脈内投与した群での深部真菌感染症の発生は9%であり,対照群の30%と比較して有意に低率であった(P<0.01)(レベル2b)41)。fluconazole 400mg/日を用いた検討でも真菌性膵感染症の減少が報告されているが42),入院期間(投与群vs.対照群;74日vs.56日,NS)や死亡率(28%vs.32%,NS)に改善は認められなかった(レベル4)。真菌感染症が明らかになった後に抗真菌薬を投与した場合と比較して,予防的投与に病態改善の優位性があるのかについては明らかになっておらず,また,真菌感染症が急性膵炎の予後にどのような影響を及ぼすのか自体明確な答えが出ていないため,その制御についての意義は不明である。


3)蛋白分解酵素阻害薬

CQ46 : 急性膵炎に対して蛋白分解酵素阻害薬は有効か?
重症急性膵炎に対する蛋白分解酵素阻害薬(gabexate mesilate)の大量持続点滴静注は死亡率や合併症発生率を低下させる可能性がある:推奨度C1
ただし,この投与量は保険診療上認められている使用量を超えており,今後,投与量や有効性の再検討が必要である。


急性膵炎の発症進展には膵酵素の活性化が関与していると考えられており,蛋白分解酵素阻害薬はその活性を抑制し,膵炎の進行を防止するために使用される。本邦では,急性膵炎に対して蛋白分解酵素阻害薬の静脈内投与が広く行われている。aprotininの静脈内投与に関するRCTはこれまでに3件報告(レベル1b)43),44),45)されているが,いずれの検討においてもその有効性は認められていない。また,gabexate mesilateに関するRCTで有意な治療効果が示されなかった(レベル1b)46),47),48)ことを受けて,1997年に開催されたSantorini Consensus Conference49)では,gabexate mesilateは急性膵炎の死亡率の低下に全く寄与しないとの結論が下された(レベル1a)。
しかし,2000年に報告されたRCT50)では,臓器不全を伴う重症急性膵炎に対してgabexate mesilate 2,400mg/日の持続点滴静注を7日間行い,合併症発生率および死亡率が有意に低下したとの結果が示された(レベル1b)。また,RCT46),48),51),52)表VIII-2)のメタ解析53)では,軽症例に関してはgabexate mesilateの臨床的有効性は認められていないが,重症例ではgabexate mesilate(900~4,000mg/日の持続点滴静注を4~12日間)はその死亡率や手術施行率を改善するには至らないものの,合併症の頻度を低下させる(OR=0.62 ; 95%CI=0.41~0.93,p<0.01)との結果が示された(レベル1a)。また,2004年に報告されたRCT(gabexate mesilate 6編46),47),48),50),51),54),aprotinin 4編44),45),55),56))のメタ解析57)では,蛋白分解酵素阻害薬の投与により膵炎全体では死亡率の有意な低下は認められなかった(ARR=-0.03 ; 95%CI=-0.07~-0.01)。gabexate mesilate群およびaprotinin群に分けて検討しても有意な死亡率の低下は認めなかった。一方,サブ解析では,中等度から重症例で有意に死亡率を低下させた(ARR=-0.07 ; 95%CI=-0.13~-0.01)と報告されている。なお,このサブ解析ではgabexate mesilate群およびaprotinin群に分けて検討されていない。
gabexate mesilateについては,900mg/日投与でも1,500mg/日投与群と同等の合併症抑制効果を認めたとする報告があるが(レベル1b)58),急性膵炎に対して保険診療上認められている使用量は600mg/日までであり,今後,投与量や有効性などについて,さらなる検討が必要である。
この他,本邦において使用頻度の高いnafamostat mesilateやulinastatinについては,多施設二重盲検法(nafamostat mesilate 20mg/日,ulinastatin 50,000単位)によりgabexate mesilate(200mg/日)との比較試験が行われ,自覚・他覚所見,血液・尿検査所見について,それぞれgabexate mesilateと同等の臨床効果を得ることができたと報告59),60)された(レベル2b)。しかし,これらの報告は死亡例のない軽症膵炎を対象としているため,現在のところ,gabexate mesilateをはじめとしたこれらの蛋白分解酵素阻害薬の軽症例での臨床的な有用性は明らかではなく,また,現時点では重症例での生命予後を改善するか否かの明確なエビデンスは存在しないため,今後,これらをエンドポイントにした研究が求められる。


表VIII-2 重症急性膵炎に対するgabexate mesilate持続点滴静注に関するRCT




4)ヒスタミンH2 受容体拮抗薬


CQ47 : 急性膵炎においてH2 受容体拮抗薬投与は必要か?
H2受容体拮抗薬(cimetidine)には,急性膵炎に対する直接的な有効性は認められず,むしろ合併症発生率や疼痛の持続期間を増悪させる恐れがある:推奨度D
ただし,急性胃粘膜病変や消化管出血の合併例,もしくは合併する可能性がある症例では制酸薬の投与を考慮する。


胃酸による膵外分泌刺激の抑制を目的に,従来よりヒスタミンH2受容体拮抗薬の投与が行われてきた。過去に行われたRCT7),8),9),61)62),63)はすべてcimetidineを用いた検討であり,うち5件を対象としたシステマティックレビュー64)によれば(レベル1a),合併症発生率や疼痛の持続期間に対して改善効果は認められず,むしろ増悪傾向がみられた。このようにH2受容体拮抗薬(cimetidine)には急性膵炎に対する直接的な有効性は認められていない。また,急性膵炎に対するプロトンポンプ阻害剤(PPI)のRCTの報告はない。しかし,急性胃粘膜病変や消化管出血の合併例,もしくは合併する可能性がある症例ではH2受容体拮抗薬またはプロトンポンプ阻害剤(PPI)の投与を考慮する必要がある。

 

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