ガイドライン

(旧版)急性膵炎診療ガイドライン2010

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第VI章  急性膵炎の診断

 


4.画像診断


1)胸腹部単純X線撮影

CQ15 : 急性膵炎の診断に胸腹部単純X線撮影は必要か?
急性膵炎が疑われる場合には,胸腹部単純X線撮影は必要である:推奨度A


急性膵炎における腹部単純X線所見として,イレウス像,大腸の拡張の急な途絶(colon cut-off sign)(図VI-1〜3),左上腹部の局所的な小腸拡張像(sentinel loop sign)(図VI-2,4),十二指腸ループの拡張・ガス貯留像,後腹膜ガス像,石灰化胆石,膵石像などがある。Colon cut-off signは急性膵炎に伴う液体貯留や脂肪壊死が横行結腸間膜や横隔結腸靱帯,左右の前腎傍腔に広がることにより,横行結腸〜脾彎曲部や上行あるいは下行結腸が炎症の波及により内腔が狭小化し,口側が拡張するために生じるといわれている63),64),65)(レベル4)。Colon cut-off signは大腸の脾彎曲部から下行結腸に認められることが最も多く(図VI-1,2),次いで横行結腸に多い(図VI-3)。
また,胸部単純X線所見として,胸水貯留像,ARDS(acute respiratory distress syndrome)像,肺炎像などを認める。これらの所見はいずれも急性膵炎に特異的なものではなく,胸部,腹部の単純X線所見のみによって急性膵炎の診断を下すことはできない(レベル4)66)。しかし,腹部単純X線は急性膵炎患者の臨床経過の評価や,消化管穿孔などの他疾患との鑑別診断のためには必須の検査であり,急性膵炎が疑われる場合にはルーチンに撮影すべきである。


2)超音波検査

CQ16 : 急性膵炎の診断に超音波検査は必要か?
急性膵炎が疑われる場合には,超音波検査は必要である:推奨度A
超音波検査は, 急性膵炎が疑われるすべての症例に対し, まず最初に行われるべき検査の一つである。


超音波検査は,膵腫大や膵周囲の炎症性変化を捉えることが可能であり,急性膵炎の診断に有用である(図VI-5,6)。超音波検査における膵の描出率は62〜90%,膵周囲の炎症性変化の描出率は,前腎傍腔が100%,小網腔が90%,腸間膜が65%であると報告(レベル1b〜2b)67),68)されている。また,腹水,胆道結石,総胆管拡張などの急性膵炎の原因や病態に関連する異常所見を描出しうる他に,大動脈瘤など併存疾患のスクリーニングにも有用である。特に,総胆管結石や総胆管拡張の有無のチェックは,胆石性膵炎に対する内視鏡的乳頭処置の必要性を判断する場合にも必要である。初回検査で胆道結石を描出しない場合でも,繰り返し施行して,見落としがないかをチェックすべきである。
なお,重症例では腸管内にうっ滞したガス像などの影響で膵臓や膵周囲組織の描出が不良なことがある(レベル1b〜2b)67),68)。仮性嚢胞内に生じた仮性動脈瘤の診断にはカラードプラ超音波が有用であり,仮性嚢胞内に血流が認められれば仮性動脈瘤と診断できる69)。また,急性膵炎に伴う門脈系の血栓と側副路形成の有無の評価にもカラードプラ超音波は有用である69)



3)CT

CQ17  : 急性膵炎の診断にCTは有用か?
急性膵炎が疑われる場合には,CTは有用である:推奨度A
(造影CTの必要性や重症度判定におけるCTの意義については「第VII章 急性膵炎の重症度診断」の項参照)


急性膵炎の診断そのもののためにはCTは必ずしも必要としない場合もあるが,臨床所見や血液・尿検査,超音波検査によって急性膵炎の確定診断ができない場合や膵炎の成因が明らかでない場合には,積極的にCTを施行すべきである。
CTは,消化管ガスや腹壁・腹腔内の脂肪組織の影響を受けることなく,客観的な局所画像を描出することが可能である(レベル1b)67),70),71)。急性膵炎の診断に有用なCT所見として,膵腫大,膵周囲〜後腹膜腔(主に前腎傍腔),結腸間膜ならびに小腸間膜の脂肪織濃度上昇(図III-1),液体貯留(図III-2),仮性嚢胞形成(図III-5図VI-7〜11),膵実質densityの不均一化,膵壊死(図III-3図VI-12),後腹膜腔および腸間膜の脂肪壊死(図III-3図VI-13),血腫,外傷時の膵断裂像などがある72)図VI-8)。膵内および膵周囲のガス像は,腸管との瘻孔形成やガス産生菌の感染によることが多い(レベル1c)(図VI-1273)
CTは,急性膵炎の診断と腹腔内合併症の診断に最も有用な画像検査である。CTの施行により,胃十二指腸潰瘍の穿孔など他の腹腔内疾患との鑑別や,腹腔内臓器の併存疾患や膵炎に伴う合併症の診断が可能となり,急性膵炎の重症度判定の一助ともなる。特に,重症急性膵炎では,腹痛やイレウスの合併のため超音波検査では情報が十分に得られないことが多く,また,併存疾患や膵炎合併症の把握は,治療指針の決定に重要であるためCTが必要である。



4)MRI

CQ18  : MRI は急性膵炎の診断のどのような場合に用いられるか?
膵炎の原因となる胆道結石や出血性膵壊死の診断にはMRIはCTより有用である:推奨度B


胆膵疾患に対する基本的なMRIの撮像法にはT1強調像,T2強調像,MRCP(MR cholangiopancreatography),および造影ダイナミックMRIがある74)。腫大を伴わない浮腫性膵炎はCTでは診断が困難であるが,MRIのT2強調像では浮腫の程度に応じて膵は高信号を呈する。また,膵周囲の液体貯留や前腎筋膜の肥厚もCTと同程度の診断能を有する74),75)図VI-14)。膵周囲の脂肪壊死と液体貯留の鑑別はCTでは困難なこともあるが,MRIでは脂肪壊死と液体は信号強度により明瞭に区別可能である(脂肪壊死は液体と比べてT1強調像では高信号,T2強調像では軽度低信号)74),76),77)。また,出血性の脂肪壊死は特に脂肪抑制T1強調像では高信号を呈するので,比較的容易に診断可能である(図VI-15,16)。膵壊死部はGd-DTPAによる造影ダイナミックMRIで濃染不良域として描出できる78),79)図VI-16)。
仮性嚢胞に出血を伴うことも多い。急性期の出血では単純CTで高吸収を示すので,診断可能である。しかし,時間の経過とともに嚢胞内出血は低吸収に変化してしまうので,CTでは出血の診断は困難となる。MRIでは1週間以上経過した亜急性期の出血はT1強調像,T2強調像ともに高信号を呈するので,容易に診断可能である80)図VI-10,11)。
MRCPはERCPと異なり,乳頭部の操作を必要とせず,また造影剤を用いることなく胆管膵管像を短時間で撮像することができる。胆石や総胆管結石の描出能が高いので,超音波やCTで胆道結石が明らかでない場合には積極的に施行するべきである(レベル3)(図VI-1781),82),83)。小さな胆石や総胆管結石はMIP処理を施したMRCPのみでは見逃される可能性があるので,必ずMRCPの元画像や多方向から撮像したthin sliceのT2強調像も参考にして結石の有無を判断する必要がある。
MRCP胆道結石のみならず膵管胆道合流異常(図VI-18)や膵管癒合不全,総胆管嚢腫,膵腫瘍などの急性膵炎の原因の精査にも有用である(レベル4)84)
MRの操作室では酸素ボンベ,血圧計,心電計,持続点滴セットなど強磁性体の金属製医療器具の持ち込みは非常に危険であり,ペースメーカー装着者は適応外である。



5)Endoscopic retrograde cholangiopancreatography(ERCP)

CQ19  :  急性膵炎の診断にERCPは必要か?
急性膵炎の診断そのものに対してERCPは行わない: 推奨度D


注)胆石性膵炎などについては内視鏡的治療を前提としたERCPが施行されることが多い。胆石性膵炎における胆道結石に対する治療の項(「第VIII章 急性膵炎の治療」)ならびにフローチャート(「第V章 基本的診療方針と診療フローチャート」)を参照のこと。
急性膵炎の診断そのものに対してERCPは有害事項が報告されているため行わない(レベル2b) 85),86)



6)Endoscopic ultrasonography(EUS)

CQ20  :  急性膵炎の診断にEUSは有用か?
発作時にEUSを施行する必要はない。なお,発作が治まった後に体外式超音波検査で総胆管結石を同定しえない場合には適応となる場合もある: 推奨度C2


EUSは,通常の体外式超音波検査に比して総胆管結石の描出能が優れている(レベル1b〜2b) 87),88),89) 。血液検査や超音波検査,CTで成因が明らかでない症例に対してEUSを施行したところ,77.8%の症例に総胆管結石を同定しえたとの報告(レベル2b) 88) がある。重症急性膵炎で,黄疸を有する患者で総胆管結石が強く疑われる場合が適応と考えられるが,全身状態を十分評価してから施行すべきである。現状では発作時に施行する場合は少なく,発作が治まった後に体外式超音波検査で総胆管結石を同定しえない場合に適応となる。

 

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