ガイドライン

(旧版)急性膵炎診療ガイドライン2010

書誌情報
第IV章  疫  学

 


4.急性膵炎の予後


1)再発率


CQ 7 : 急性膵炎の再発率はどれくらいか?
急性膵炎の再発率は成因や治療の有無により異なる。アルコール性急性膵炎の46%に再発を認め,そのうちの80%は4年以内に生じたという報告もある。胆石性膵炎では,初回時に胆石に対する処置が行われなかった場合,32〜61%に再発を生じるとされている。本邦における重症急性膵炎の予後調査では,20%に再発が認められ,特にアルコール性膵炎の再発率は32%と高かった。

急性膵炎の再発率は,成因や治療の有無などによって異なる。スウェーデンの大学病院で1975年から1996年の22年間に,急性膵炎で入院した患者1,376人(2,211回のエピソード)を対象にした研究によると,全入院の22%が再発で,その2/3は初発後3カ月以内の再発であった(レベル4)18)。アルコール性急性膵炎の再発率について検討した前向きコホート研究によると,46%の症例に再発を認め,そのうちの80%は初回時から4年以内に生じ,再発率に経時的変化はなかった(レベル4)114)。胆石性膵炎では,初回時に胆石に対する処置が行われなかった場合,32〜61%に再発を生じるとされている(レベル4)115),116),117)。一方,特発性膵炎では,平均3年間の観察期間での再発率は31例中1例という報告(レベル4)118)があり,biliary sludgeのみを認めた特発性膵炎21例では,胆嚢摘出術または内視鏡的乳頭切開術を施行した症例(n=10)のほうが保存的治療例(n=11)よりも再発率が低かった(レベル2b)30)
1987年度の厚生省研究班により重症急性膵炎全国調査が行われ2,533例が集積された。2004年度に714例の追跡調査が行われたが,急性膵炎の再発は20.3%でありアルコール性で32.4%,胆石性で7.4%であった。飲酒継続例の再発率は57.7%と高く,慢性膵炎移行例では74.5%で急性膵炎の再発を認めた。糖尿病合併症率は13%でありアルコール性で20.6%と高かった。以上より,アルコール性膵炎および飲酒継続例は長期転帰が不良であることが示された(レベル4)119)



2)慢性膵炎への移行


CQ 8 : 急性膵炎は慢性膵炎に移行するか?
急性膵炎後の慢性膵炎への移行率は3〜15%といわれている。

急性膵炎後の慢性膵炎への移行率は3〜15%という報告がある(レベル4)119),120),121)。また壊死性膵炎ではERCPにより閉塞性膵炎や石灰化膵炎の所見を認める頻度はそれぞれ8.4%,3.6%で,浮腫性膵炎よりも頻度が高いという報告がある(レベル4)122)。本邦での重症膵炎を対象とした長期予後の全国調査では,遠隔時に膵石を17%(アルコール性33.5%,胆石性6.5%),尿糖を27%(アルコール性40%,胆石性14%)に認めたとされ(レベル4)122),慢性膵炎への移行に膵炎の重症度や成因が関与すると考えられる。



3)死  亡


CQ 9 : 日本における急性膵炎の死亡率はどれくらいか?
日本における2003年の調査によると,死亡率は全体で2.9%,重症例では8.9%であるが,なかでも最重症の急性膵炎についてみると今もなお30%以上の死亡率である。

急性膵炎の死亡率は,診断基準や剖検症例の取り扱いにより異なるが(レベル4)123),近年低下したという報告が,いくつかある(レベル4)18),124)。1990年以降の報告によると,欧米における死亡率は2.1〜7.8%である(レベル4)(表IV-5)125),126),127)。また死亡のリスクは,年齢とともに増加する(レベル2b〜4)127),128)。日本における調査(2003年)でも,70歳以上の重症急性膵炎の死亡率は14%であり70歳未満の死亡率(6.5%)に比べて高くなっている(レベル4)8)。厚生省研究班が1987年に施行した全国調査によると,急性膵炎の死亡率は中等症において2%,重症例において30%であった(レベル4)11)。また1999年度の全国調査によると,死亡率は全体で7.4%,重症例で22%であった(レベル4)129)。2003年の同調査では,死亡率は全体で2.9%,中等症において0.7%,重症例において8.9%であった。ただし最重症例では30%以上の死亡率である(レベル4)8)(重症度スコアと死亡率の関係については,「第VII章 1.厚生労働省急性膵炎重症度判定基準(2008)」表VII-2を参照)。
急性膵炎の再発例は初発例に比較し,一般に死亡率は低いといわれる。Anderssonらの研究では,再発性膵炎の死亡率は2.5%であり,急性膵炎全体の死亡率4.2%と比較して有意に低かった(レベル4)18)。またGulloらがヨーロッパの5カ国(ハンガリー,ドイツ,ギリシア,イタリア,フランス)の急性膵炎症例1,068例を対象にした報告によると,再発性膵炎288例の死亡率は5.9%で,全体の死亡率7.8%と比較して低かった(レベル4)15),130)
また,剖検により急性膵炎が診断される例は,少なくない。80年代の報告では急性膵炎の死亡例の30〜40%が剖検で診断されていたが(レベル2b〜4)125),128),131),近年でも,急性膵炎患者死亡例のうち12〜33%が,剖検により診断されたという報告がある(レベル4)126)



4)急性膵炎の死亡時期

急性膵炎では発症早期に死亡する症例が多い。2000年以降の報告によると,死亡例の約半数は発症後2週間以内の早期死亡であり,主な死因は循環不全に伴う臓器不全である(レベル4)132),133)(表IV-6)。一般に,後期死亡例は,主に感染性合併症,特に感染性膵壊死に起因する場合が多い(レベル4)135),136),137)。ICU管理の発達により急性膵炎の早期死亡は少なくなったという意見もあるが(レベル4)138),現在でも多くの患者が入院後2週間以内に死亡しており,早期死亡の問題は解決していない(レベル4)139)。厚生省研究班の調査では,2週間以内の早期死亡が1982〜86年では52%であったのに対し,1996年では29%へと顕著に低下した(レベル4)139)
1987年の全国調査では,早期死亡の過半数は高度な脱水に伴うショックが原因であり,2週以降の死亡例では腎不全,呼吸不全,消化管出血,敗血症,ショックなどが死因として挙げられている(レベル4)11),12)。1999年の全国調査では,死亡例92例のうち75例(82%)において,急性膵炎が直接の死因と考えられた。これらの症例の中で,28例(37%)が2週間以内に死亡しており,死因はショックが13例(46%),多臓器不全が13例(46%)であった。2週間以降の死亡原因のうち最も多いのは多臓器不全(57%)であり,その他の死因としては敗血症(22%),ショック(9%),ARDS(4%)などであった。入院2週間以内での早期死亡が多くみられる要因として75歳以上であること(OR=5.2,95%CI:4.4〜6.1),3つ以上の基礎疾患を有するもの(OR=7.4,95%CI:5.7〜9.5)などが挙げられている(レベル2b)140)



5)予後に影響する因子


CQ 10 : 急性膵炎の予後不良因子は?
急性膵炎の予後は,臓器不全と膵壊死により決定される。壊死性膵炎は,急性膵炎患者の約10〜20%に発生し,その死亡率は15〜20%である。壊死性膵炎に臓器不全を伴う場合,死亡率は約50%になる。また急性膵炎の発症早期に臓器不全がある場合や48時間以上続く臓器不全がある場合,死亡率は70%と高い。

急性膵炎の予後は,重症度を反映する2つの指標,臓器不全と膵壊死により決定される。1992年のアトランタ・シンポジウムの定義によると,臓器不全には以下の項目が含まれる。(1)収縮期血圧90mmHg未満のショック,(2)PaO2<60mmHgの呼吸不全,(3)輸液後もクレアチニン>2mg/dLの腎不全,(4)24時間以内に500mL以上の消化管出血。また日本では厚生労働省研究班が重症度判定基準を定めているが,判定項目に呼吸困難・ショック・神経症状・出血傾向・負のBase excess・血中尿素窒素やクレアチニンの上昇などの臓器不全が含まれていた(レベル4)141)。急性膵炎の発症早期に臓器不全がある場合や48時間以上続く臓器不全がある場合の死亡率は高い(70%,69%)(レベル1b〜4)142),143)。また70歳以上の高齢者は重症急性膵炎の死亡率が3倍になる(21.4 vs. 7.1%,p=0.028)という報告もある(レベル2b)144)
一方,膵壊死は,造影CTで評価できる(レベル1b〜5)145),146)。壊死性膵炎は,急性膵炎患者の約10〜20%に発生し,その死亡率は15〜20%といわれている(レベル4)147),148)。慢性のアルコール摂取は急性膵炎発症時の膵壊死のリスクを上昇させる(OR=2.27,95%CI:1.19〜4.30)(レベル2b)149)。1980年代の報告では,壊死性膵炎の死亡率が80%にも上るという報告もあったが(レベル4)150),1990年代以降の報告によると,壊死性膵炎の全死亡率は14〜25%とされている(表IV-7)。1999年の厚生省調査では,調査対象となった1,240例の急性膵炎のうち409例(33%)が重症化した。膵壊死の有無・範囲を判定するための造影CTは,重症急性膵炎の75%で施行され,うち42%に膵壊死を認めた(レベル4)129)。以上の結果から,日本における膵壊死の頻度は,10〜15%程度と考えられる。同じ調査で,膵壊死を伴わない重症急性膵炎の死亡率が11%であったのに対し,膵壊死を伴う重症急性膵炎の死亡率は23%であった。
壊死性膵炎の予後は,壊死の範囲や感染併発の有無に決定されると考えられてきた(レベル4)151),152)
欧米での報告によると,壊死性膵炎の30〜40%に感染性膵壊死を合併する(レベル4)147)。1999年の厚生省の調査でも,重症急性膵炎409例から感染の有無が確認されていない42症例を除いた367例のうち152症例(41%)に感染性膵壊死が発生し,感染症例における死亡率が34%であったのに対し,非感染症例の死亡率はわずか7%であった(レベル4)153)。先述のPerezらの症例集積研究によれば,感染性壊死症例では,予後を左右する多臓器不全の発生頻度がかなり高いこと(41% vs. 23%)なども予後に影響している可能性がある。



6)長期予後

急性膵炎後の機能的予後に関しては,3分の1から約半数例に内分泌的あるいは外分泌的機能障害(糖尿病,脂肪便)が起こるが,全身状態はおおむね良好であり,通常の社会生活を送っているという報告(レベル4)154),155),156)が多い。脂肪便は経年的に軽快する傾向があるが,糖尿病は悪化するという(レベル4)157)。一方,急性膵炎後の内分泌障害は,外科的切除により起こるという主張(レベル2b)158)もあり,重症膵炎に対し保存的治療を行った群と外科的切除を行った群とで,インスリン分泌能に差がみられたという。急性膵炎発症後,治癒した患者の他疾患も含めた死亡率は,他の同年代と比較し高いが,65歳以上では差がないという報告がある(レベル4)159)
1999年厚生省難治性膵疾患調査研究班は,1987年に登録された重症急性膵炎を対象とした全国的な予後調査を実施した。調査対象となった2,098例のうち714例(34%)に有効回答が得られ,うち15%が死亡,再発が22%,慢性膵炎への移行が24%,糖尿病が13%にみられた。80%は発症前と同じ状況にまで社会復帰していた。死因としては,悪性腫瘍が最も多かった(36%)。再発した症例の46%が,1年以内に再発を経験していた(レベル4)160)



表IV-5 急性膵炎の死亡率に関する報告




表IV-6 急性膵炎の死亡率と死亡時期に関する報告

早期死亡とは,* 1週間以内または **2週間以内と定義。
 † :全死亡数94のうち,直接の死因が急性膵炎と考えられる67症例のみ
§:全死亡数に占める割合
(Blumらのレビュー133)に,日本のデータを追加)



表IV-7 壊死性膵炎の死亡率に関する報告




 

書誌情報