ガイドライン

(旧版)急性膵炎診療ガイドライン2010

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第IV章  疫  学

 


3.急性膵炎の危険因子


1)アルコール


CQ3 : 飲酒による急性膵炎発症のリスクは,どれくらいか?
1日に60g/日以上のアルコールを消費する高リスク群における急性膵炎の発生頻度は80~90/10万人/年であり,この高リスク群がアルコール性急性膵炎を発症するリスクは,25年間あたり2~3%である。アルコール性膵炎は男性に多いが,アルコール消費量を調整すると,発症リスクに性差はない。



アルコールは胆石とともに,急性膵炎の2大成因である。北欧14カ国におけるアルコール消費量と膵炎による死亡率との関連を認めるという報告もある(レベル4)24)。しかしアルコール性膵炎の定義が明確でないために,アルコールによる急性膵炎のリスクを定量化した研究はほとんどない。1988年から1995年に施行されたドイツのコホート研究によると,アルコール性膵炎は圧倒的に男性に多かったが,リスクの高い(1日に60g/日以上のアルコール消費)患者群における急性膵炎発症率は,男女でほぼ同等であった(男性91.5/10万人/年vs.女性81.9/10万人/年)(レベル4)25)。さらに,この高リスク群が25年間にアルコール性急性膵炎を発症するリスクは,わずか2~3%であった。これらの事実から,アルコール性膵炎の発症には,アルコール以外の要因も深く関与していることが示唆されている(レベル4)26)



2)胆石


CQ4 : 胆石症による急性膵炎のリスクは,どれくらいか?
胆石のある患者が急性膵炎を発症する相対リスク(relative risk:RR)は,男性で14~35,女性で12~25という報告がある。このリスクは,胆嚢摘出術により著明に減少する。



胆石はアルコールと並んで,急性膵炎発症の明らかな危険因子である。米国で2,583人の胆石患者を追跡したコホート研究によると,89人(3.4%)が追跡中に胆石性膵炎を発症し,胆石患者が急性膵炎を発症する相対リスク(relative risk:RR)は男性で14~35,女性で12~25であった。このコホートにおける胆石保有者の年齢・性別調整後の急性膵炎発症率は,全体で6.3~14.8人/1,000人/年であったが,胆嚢摘出術により,急性膵炎を発症するリスクは男性で1.9人/1,000人/年,女性で2.0人/1,000人/年へと減少した。急性膵炎発症後に胆嚢摘出術を行った58例における膵炎再発は2例のみで,胆嚢摘出術によりRRは1/8に減少した(レベル2b)27)(「第VIII章 10.胆石性膵炎における胆道結石に対する治療」参照)。
胆石性膵炎では膵炎の重症度が軽度から中等度でも,急性胆管炎が併存すると重症化する場合があり,注意を要する(レベル3b)28)
最小の胆石が5mm以下の場合には急性膵炎の発症率が4倍以上になるという報告(レベル2b)29)があり,特発性膵炎と思われた症例でも,その後の腹部超音波検査や胆汁検査で胆砂を認めた症例ではその後の膵炎の再発率が高いと報告(レベル2b)30)されている。



3)内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(Endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)/内視鏡的乳頭括約筋切開術(Endoscopic sphincterotomy:ES)/内視鏡的バルーン乳頭拡張術(Endoscopic papillary balloon dilation:EPBD)(「第IX章 3.ERCP後膵炎の危険因子」参照)


4)手術手技および処置


術後膵炎は膵近傍の手術,特に胆道系の手術や胃切除術後において発生頻度が高いとされている(レベル4)31),32)。胆道,膵,肝,胃の術後,脾腎シャント術後の膵炎,胃切除後輸入脚閉塞による急性膵炎が報告されている(レベル2b)33)。また,心血管手術や移植(膵,肝,腎,心,骨髄など)術後の膵炎も数多く報告されている(レベル4)34),35),36),37),38),39),40),41),42)。その他の領域の手術でも急性膵炎の報告があるが,それらの手術が急性膵炎の誘因になっているかは明らかではない(レベル4)43)
さらに胆石の体外衝撃波破砕術(extracorporeal shock wave lithotripsy:ESWL)(レベル2b)44)や,経カテーテル動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:TAE)(レベル4)45),経皮経肝胆道ドレナージ術(percutaneous transhepatic biliary drainage:PTBD,percutaneous transhepatic cholangio-drainage:PTCD)(レベル2b)46),胆道ステント挿入術後(レベル3b)47),術中照射後(レベル4)48)などの施行後に急性膵炎が発症したという報告がある。



5)薬剤


薬剤性膵炎に関する1,214文献を系統的に収集した調査がある(表Ⅳ-4)(レベル3a)49)
薬剤投与から急性膵炎発症までの期間は,単回投与で発症するアセトアミノフェンから,投与後1カ月以内に生じるアザチオプリンや6-メルカトプリン(6-MP),投与後数週から数カ月を要するペンタミジン,バルプロ酸,2′,3′-DDI(ジダノシン)など様々である(レベル4)50)



6)高脂血症


CQ5 : 高脂血症による急性膵炎のリスクは,どれくらいか?
血中トリグリセリドが1,000~2,000mg/dLを超えると発症率が増加する。このように顕著な高脂血症により急性膵炎を発症する症例は家族性の高脂血症に多い。しかしこのような高脂血症は稀であり,急性膵炎全体に対する寄与率は明らかでない。



一般的に血中トリグリセリドが1,000~2,000mg/dLを超えると発症率が増加するといわれている(レベル4)51)。このように顕著な高脂血症により急性膵炎を発症する症例は家族性V型の高脂血症に多いが,I型,IV型も関与する(レベル4)52)。また,急性膵炎の成因であるアルコール,妊娠,エストロゲン,糖尿病などでも二次性に高脂血症をきたす。リポプロテインリパーゼの遺伝子多型やアポリポ蛋白C-II欠損に関連した高脂血症の関与も報告(レベル4)53),54)されている。
高脂血症による急性膵炎発症のリスクの大きさは,いまだによく分かっていない。高脂血症は急性膵炎の原因の12~38%を占めるという研究もあるが(レベル5)55),高脂血症は原因のわずか1.3~3.8%にすぎないとする研究結果もある(レベル4)56)



表IV-4 薬剤による急性膵炎

Class I a:  rechallenge test陽性例がある1例以上の症例報告で他の原因(アルコール,高トリグリセリド血症,胆石,他の薬剤など)が除外できるもの。
Class I :  rechallenge test陽性例がある1例以上の症例報告で他の原因(アルコール,高トリグリセリド血症,胆石,他の薬剤など)が除外できないもの。
Class II:  少なくとも4例の症例報告,75%以上の症例で発症期間が一致しているもの。
Class III:  少なくとも2例の症例報告,発症期間が一致していないもの,rechallenge testのないもの。
Class IV:  上記を満たさないもの,1例のみの報告。



7)Human immunodeficiency virus (HIV)


CQ6 : HIV/AIDSと急性膵炎発症との関係は?
近年の海外での報告では,1.3~8.0/1,000人/年であり, 非感染者に比べ発生頻度が高い。



急性膵炎はHuman immunodeficiency virus(HIV)感染症の主な合併症の一つであり,発生頻度は非感染者に比べかなり高く,近年の海外での報告では,1.3~8.0/1,000人/年である(レベル2b)57),58),59),60),61),62)
HIV感染者における急性膵炎の成因としては,アルコール,胆石,高トリグセリド血症,HIV関連の感染症,HIVに対する治療薬(ペンタミジンなど),抗レトロウイルス薬(核酸逆転写酵素阻害剤;NRTIs)などによるものがあり(レベル2b~5)59),60),61),62),63),64),アルマメンタリウムを用いたHIV治療にプロテアーゼ阻害剤を併用した際の重症例も報告された(レベル5)65),66),67)
抗レトロウイルス薬の使用が標準的となった近年の患者を調査した北米のコホート研究(1996~2006年)では,HIV感染者の急性膵炎発生頻度は5.1~8.0/1,000人/年で推移していたが,欧州で行われたEuro SIDA調査(2001~2003年)では1.3/1,000人/年であった(レベル2b)57),58)。1996年以降のHIV感染者23,460人/年を調査したコホート研究では,女性(調整OR=3.0,95%CI:1.7~5.2),サニルブジン使用(調整OR=2.2,95%CI:1.2~4.2),ペンタミジン使用(調整OR=6.3,95%CI:1.4~27.6),低CD4血症(<50cells/mm³)(調整OR=10.5,95%CI:3.3~32.9)などが危険因子とされたが,新しい抗レトロウイルス薬であるアタザナビル,ロピナビル/リトナビル,テノホビル,アバカビル,エファビレンツは危険因子ではなかった(レベル2b)68)



8)特発性


急性膵炎発症の成因が特定できない場合を特発性とする。急性膵炎では,臨床症状・所見,適切な検査(US,CT,ERCP,EUSなど)から可能な限り成因を同定し,特発性の頻度を少なくする努力をすべきである。特発性と診断された急性膵炎例の2/3から3/4の症例は,腹部超音波,ERCPなどの検査,ドレナージや胆嚢摘出などの処置によって胆嚢内に微小な胆砂を認めたという報告(レベル2b)69),70)がある。



9)その他の要因


その他,急性膵炎発症との関連が指摘されている因子としては,遺伝性素因(レベル3a~4)56),60),妊娠(レベル4)71),72),73),外傷(レベル4)74),75),ウイルス(ムンプス・コクサッキーB・B型肝炎・サイトメガロウイルス・II型単純ヘルペスウイルス・帯状疱疹)・細菌(チフス菌・レプトスピラ・レジオネラ)・真菌(アスペルギルス)・寄生虫(トキソプラズマ・クリプトスポリジウム・回虫)やマイコプラズマによる感染症(レベル4)76),全身性エリテマトーデス(レベル3b~5)77),78),79)・関節リウマチ(レベル4)80)・シェーグレン症候群(レベル4)81),全身性硬化症(レベル4)82),83)などの膠原病,上皮小体機能亢進症(レベル4)84),85),86),87),88),89),末期腎不全(レベル4)85),86)などがある。血液透析患者,腹膜透析患者の急性膵炎発生頻度は67/10万人/年(95%CI:49~89),266/10万人/年(95%CI:122~504)になるという報告もある(レベル4)90)。129,000人のコホート研究によると,喫煙はアルコール性急性膵炎と特発性膵炎の発症リスクを増加させていた(RR=4.9,95%CI:2.2~11.2,RR=3.1,95%CI:1.4~7.2)(レベル2b)23)。肥満者(BMI>30kg/m²)は,重症化しやすく(OR=2.9,95%CI:1.8~4.6),死亡率のリスクは増加する(OR=2.1,95%CI:1.0~4.8)(レベル2a)91)。(「第VII章 4.単一マーカーによる重症度判定 4)肥満」参照)。
様々な胆道奇形と急性膵炎との関連も指摘されている。急性膵炎患者の6.5%に何らかの先天的胆道奇形を認めた(レベル4)92)。急性膵炎発症例や再発例で主膵管と副膵管の合流がない膵管癒合不全の頻度が高いとする報告(レベル3b~4)93),94)もある。また,共通管の存在や太さ,膵管への逆流,総胆管と膵管の角度,Vater乳頭の異常所見(浮腫,出血,結石嵌頓),Santorini管の開存,胆嚢管合流部の位置などが急性膵炎の発症と関連するという報告(レベル3b~4)95),96),97),98)がある一方,健常人との間にこれらの差を認めないという報告(レベル3b)99)もある。Choledochocele(choledochal cyst)に合併した膵炎も報告(レベル4)100),101)されているが,健常人と比較して頻度が高いか否かは明らかではない。
傍乳頭憩室(レベル4)102),異所性膵(レベル4)103),duodenal duplication(重複十二指腸)による膵炎(レベル4)104),Caroli's diseaseに伴う膵炎(レベル4)105),膵腫瘍(膵癌106),107),108),転移性膵腫瘍109),カルチノイド腫瘍110))による膵炎も報告されている(レベル4)。しかし,膵腫瘍による膵炎を除くとこれらの膵胆道疾患が実際に急性膵炎の発生リスクを高くするか否かは明らかではない。
小児の急性膵炎も,成人と類似の成因で生じる。成人では胆石やアルコールに由来するものが過半数を占めるが,小児ではその他の成因による急性膵炎の頻度が多く,成因は,外傷,高カルシウム血症,上皮小体機能亢進症(家族性多発性内分泌腫瘍(MEN)のタイプIIaを含む),高脂血症,糖尿病,家族性高トリグリセリド血症,透析患者,胆石,膵管癒合不全,胆道拡張症,感染など多岐にわたる(レベル4)111),112),113)



 

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