ガイドライン

(旧版)EBMに基づく 胃潰瘍診療ガイドライン 第2版 −H. pylori二次除菌保険適用対応−

書誌情報
第2部 胃潰瘍診療ガイドライン―解説―

 
8.生活指導
3)ステートメントの根拠
(1)生活指導の項目と文献の選択

胃潰瘍治療上,介入が考えられる生活指導の項目としては,入院安静,喫煙,飲酒の制限,刺激物の摂取の制限や繊維質の多い食事を含めた食事指導などがあげられる。東邦大学医学メディアセンター 山口直比古氏により,これらの項目につき,ランダム化比較試験(RCT)以上のエビデンスレベルとなる文献を検索した。検索式の詳細は当該項目に記載されているので参照されたい。
検索式で,PubMedから4,701件,医中誌Webから613件の文献が検索された。しかしながら,大部分がレベルIV以下の観察研究であり,前述した要因を介入項目にして検討したエビデンスレベルII以上の文献は国内論文では0件であった。PubMedからは,海外の論文として,ベッド上安静,禁煙指導を介入した研究1)と,食餌中の食物繊維の多寡を介入した文献2)が検索された。
前者は,レントゲンで診断された胃潰瘍にて入院した患者に,1日22時間のベッド上安静を義務づける群としない群,禁煙を指導する群としない群に割り付け,3週間後の潰瘍の縮小率,治癒した潰瘍の数を比較検討したもので,ベッド上安静,禁煙の指導は胃潰瘍治癒を促進する効果はなかったと報告している1)。後者は,内視鏡検査で胃潰瘍と診断された患者で,制酸剤と偽薬,食事中の繊維質の多寡の2要因でのRCTで,繊維質の多い食餌を食べるように指導した群と,少ない食餌の群で,6週間後の自覚症状改善率,内視鏡的潰瘍治癒率に差は認められず,胃潰瘍の症状改善,潰瘍の治癒に食餌中の食物繊維の多寡は関係しないと報告している2)
また,胃潰瘍患者が主たる対象ではないため参考程度にとどめるが,prepylorusの胃潰瘍と十二指腸潰瘍患者で,精神的なカウンセリングを行う群,シメチジン維持療法群,偽薬投与群の3群に割り付け,再発予防効果をみたRCTでは,精神的カウンセリングは,十二指腸潰瘍とprepylorus胃潰瘍の再発予防に寄与しないとの結果であった3)

(2)問題点
これら検索された文献は,H. pylori 除菌治療,PPI登場以前の古い研究であり,潰瘍治癒率も低く,また海外の研究であり,国内での介入研究は認められなかった。しかも,これら生活習慣の介入が,胃潰瘍治癒に貢献したという結果は得られていない。したがって,胃潰瘍の病態が解明され,H. pylori 除菌治療,PPIなどの有効な治療法が確立した現状で,入院安静,喫煙,飲酒の制限,食事指導などの生活指導による潰瘍治癒促進効果,再発予防効果は極めて低いものと推測される。ただ,根拠となる十分なエビデンスレベルの臨床試験の成績は存在せず,また今後新たなエビデンスが示される可能性も低く,生活指導に対するさらなる評価は困難と考えられる。しかしながら,喫煙や過度の飲酒による重大な健康被害や,高カロリー高脂肪食の弊害は明白であり,禁煙,節酒,適切な食事指導は,胃潰瘍治療とは関係なくとも,健康増進の上から適切なものであることを強調したい。この点に関しては,エビデンスがないため,デルファイ法によりコンセンサスを形成した。

 

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