ガイドライン

(旧版)EBMに基づく 胃潰瘍診療ガイドライン 第2版 −H. pylori二次除菌保険適用対応−

書誌情報
第2部 胃潰瘍診療ガイドライン―解説―

 
6.維持療法
5)ステートメントの根拠
第1部 胃潰瘍の基礎知識 6.治療 3)維持療法」の項に述べたとおり,H. pylori 除菌によらない,従来の潰瘍治療では,再発を抑制するために潰瘍の治癒後に維持療法を行うことが勧められている。

(1)プラセボ対照の二重盲検比較試験
維持療法の有用性を示す証拠を得るために,2001年分までの収集文献ではCD-ROMの中に示すような一定の方法で収集された63編の文献を検討した。その中でプラセボ対照の二重盲検比較試験の成績が示されている英文論文16編,和文論文1編の計17編1),2),3),4),5),6),7),8),9),10),11),12),13),14),15),16),17)を,維持療法の有効性を判定するレベルII以上の文献として採用した。また,後述するような2002〜2005年の文献収集で集まった英文誌140編,和文誌30編の中から英文2編,和文3編を最終的な検討対象としたが,維持療法についてプラセボ対照の二重盲検比較試験の結果を示す新たな論文はみつからなかった。
これらの文献によれば,プラセボを対照として,シメチジン400mg/日1),6),9),800mg/日2),塩酸ラニチジン150mg/日3),7),10),16),塩酸ロキサチジンアセタート75mg/日13),ファモチジン20mg/日14),ニザチジン150mg/日15),スクラルファート2g/日11),12),3g/日8),4g/日5),ランソプラゾール15mg/日17),30mg/日17)が再発の抑制に有意に有効であった。なお,本研究は保険診療にはとらわれずに検討されたが,ランソプラゾールは現在保険診療では8週投与に限定されており,現実には維持療法に用いることはできない。また,スクラルファートについては,2g/日ではプラセボと比べ効果に有意差のみられなかった文献4)もあった。以上をまとめてその一覧を図9に示した。
これらの各薬物間の優劣について検討した文献は,2001年分までの文献中では二重盲検比較試験によるものは1編18)のみであった。この報告ではスクラルファート2g/日がシメチジン400mg/日に比べ有意に勝るとしているが,シメチジンの非再発率が12カ月で44.6%と,他の検討での値より著しく低いこと,他のopen studyで塩酸ラニチジン150mg/日がスクラルファート3g/日より12カ月再発率が有意に低かった19),あるいは塩酸ラニチジン150mg/日がスクラルファート2g/日と比べ12カ月再発率に有意差がなかった20)とする文献もあって,両者の比較に対し一定の結論を得るに至らなかった。また,2002〜2005年の文献には,薬物間の優劣について検討した文献はみつからなかった。

図9 胃潰瘍再発防止効果
図9胃潰瘍再発防止効果

(2)H2RA,防御因子増強薬併用の二重盲検比較試験
H2RAに防御因子増強薬を併用する効果についての二重盲検比較試験の報告は2001年分までの文献中に2編18),21),また,2002〜2005年の文献中からは1編22)が拾い上げられ,計3編を吟味した。ひとつの文献18)ではシメチジン400mg/日よりシメチジン400mg/日+スクラルファート2g/日の方が有意に非再発率が高かったとしているが,前述のようにこの検討ではシメチジン単独での非再発率が他の検討に比べ著しく低いこと,またスクラルファート2g/日がプラセボと比べ有意差がなかったとする文献4)もあって,ただちに上乗せ効果を示すエビデンスとしては採用しがたいと判定した。もうひとつの文献21)は,12週間という短い期間の維持療法の成績である点が問題で,維持療法のエビデンスとしては観察期間が短期すぎて十分でないと考えられた。さらに本文献では有意に上乗せ効果ありとしているが,この間に併用群で2例の再発がみられたにもかかわらず12週再発率0%としていることから,判定に対するデータの処理法が十分納得できなかった。
もう1つの文献22)は,塩酸ラニチジン150mg/日群(R群)と塩酸ラニチジン150mg/日+エカベトNa2g/日群(RE群)の再発抑制を2年間比較し,併用群が有意に再発率が低かった(GU,DU別にはGUに有意差あり)とするものである。この報告を詳細に吟味してみると多くの問題点がある。1 2群をランダムに割り付けたとあるが,そのランダム化の方法がまったく記載されていない。2 エカベトNaのプラセボがR群に入っていないのでopen studyと思われる。3 対象には胃潰瘍(GU),十二指腸潰瘍(DU)が混ざって取り扱われており,エントリー時の63例は,R群31例(GU19,DU12),RE群32例(GU18,DU14)と書かれているが,その後のGU,DUそれぞれの中止,脱落例数が示されていない。評価対象数はR群28例,RE群27例,計55例となっているが,そのGU,DU別数も不明である。したがってGU,DU別の解析をするのは不適切である。いずれにしても,各群10数例と思われ,今回のGUの検討には症例数も少なすぎる。4 ITT解析ではなく,追跡不可例,内視鏡拒否例,NSAID使用例など8例が解析の初めから除外されており,また再発数,再発率の値からみて,スタート後も途中,中断,脱落がかなり多数あると思われるが,GU,DU別のその取り扱いが不明である。5 対象は以前に潰瘍歴があり内視鏡で瘢痕が確認された例に限っているので,活動性潰瘍がいつあったかまったく不明であり,治癒後長期間瘢痕であった例が混在している可能性がある。成績の図を見ると,RE群はGU,DUとも再発は1例しかない。長期間瘢痕で推移した例は,再発しにくい潰瘍であり,この場合もRE群に長期間非再発であった例が多かったのではないかという疑問を否定できない。通常の再発抑制試験は,活動性潰瘍が治癒後ただちにスタートするのが妥当である。したがって,この試験は方法が不適切と考える。以上のように再発抑制試験としては問題が多い。
以上から3編ともH2RAに防御因子増強薬を上乗せする効果についての十分なエビデンスとして採用するに至らなかった。その他,H2RAに防御因子増強薬を併用する効果をみた多数の和文誌文献があったが,二重盲検比較試験は上記の2報告の他にはなく,多くの報告で,対象の割り付けにおけるランダム性に問題があり,また例数も十分でないものが多く,エビデンスとして採用できる明確な上乗せ効果を示した文献はなかった。またこれらの中には,H2RA単独群より併用群でやや再発抑制効果が勝るとするものが少数みられたが,H2RA 単独群との差はわずかであり,このような場合には併用の有用性を判定するには,再発率の差のみでなく,併用したことの費用対効果についても併せて検討することが今後求められる。

(3)文献検討での問題点
なお維持療法に関する文献の検討において次のような問題点がある。
(1) 欧米の文献が中心となっているため,十二指腸潰瘍についての文献が圧倒的に多く,胃潰瘍の文献は数が限られている。
(2) 今回の検討は1980年以降の文献に限られたが,1970年代に今回の結論を補強するH2RAの維持療法に関する文献が多数存在する。また抗コリン薬,抗ペプシン薬などの有効性を示す文献がある。
(3) 検索した文献の検討対象には,H. pylori の感染状況についての考察がまったくない。当時のH. pylori 感染状況からみて,対象にはH. pylori 陽性例が多くを占めていると思われるが,確かではない。H. pylori 陽性,陰性の違いによってこれら文献の結果がどう変化するのか不明である。この点の検討は今後極めて重要な問題となるが,H. pylori 陰性潰瘍は例数が少なく,多数例を集めての維持療法の検討はかなり困難であろう。H. pylori 陽性潰瘍は除菌治療が優先するので,除菌治療の非適応例での検討となるが多数例での検討はやはり困難が多いと予想される。
(4) 検証に用いられた文献での観察期間は,ほとんど6カ月(24週)ないし12カ月(1年)であり,1年を超える長期投与の有効性については報告が極めて少ない。また長期観察が行われていても次第に脱落が増加し症例数が減少して有意差が得られにくくなっている。これらのことから,1年を超える長期維持療法の有効性について結論を得るにはさらなる検討が必要である。
(5) 検索により収集された文献の中で,ランダム化の方法の記載が不備であるもの,各群の症例数が著しく不揃いであるものなど,封筒法を含め,ランダム化に十分な信頼性をおけないものが少なくなかった。今後の検討では十分なランダム性の保証が求められる。
(6) 潰瘍が治癒して維持療法に移行するまでの治療法(薬物名,用量,投薬期間など)についての考慮がほとんどなされていない文献が多い。治癒率の高い強力な薬物で治癒した群ほど,プラセボ維持療法移行後の再発率が高くなり,また逆にプラセボで治癒した群は再発率が低くなる。長期の治療によって治癒した群(難治群)では再発率が高くなる。これらのことを十分考慮したデザインが求められる。特別な目的のある場合を除き,維持療法に移行する前の治療に用いる薬物の種類,投与量,投与期間は一定にすることが必要である。また活動期潰瘍を治癒させた時点から,ただちに維持療法に移行する試験デザインにするべきである。瘢痕例を集めて維持療法を行うことは再発抑制効果をみるのに不適当である。治癒後長期を経た潰瘍瘢痕は再発しにくいから,治癒後の期間差によるバイアスが大きくなる。
(7) 再発後に再治癒する例が少なくないので,観察間隔が伸びると見かけの再発率が低下する(3カ月ごとに1年間観察するのと1年後のみに観察するのとでは後者の再発率が低くなる)。
また生命表法を用いると,中止,脱落例は0.5再発に算定されるので,解析のための期間幅をどう設定するか(たとえば1カ月間隔で算定するか,6カ月間隔で算定するか)によってその後の再発率の数値が変わってくる。
(8) 無症状再発が15〜35%(本シリーズの数値から)あるので,症状出現時に再発をチェックするという方法では再発率が低くなる。
(9) 1群の症例数が少なすぎて,2群間に有意差がなかったときに,同等性の証明が行われていない文献がほとんどである。
(10) (6)〜(9)にあげたような点から,各文献は等質でない場合が多いので,メタ解析などを行う場合には,このような事項を十分配慮して検討する必要がある。


 

1) 6) 9) 2) 3) 7) 10) 16) 14) 13) 15) 17) 5) 8) 11) 12) 4)
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