ガイドライン

(旧版)EBMに基づく 胃潰瘍診療ガイドライン 第2版 −H. pylori二次除菌保険適用対応−

書誌情報
第1部 胃潰瘍の基礎知識

 
6.治療
4)除菌治療
(1)H. pylori 除菌治療の効果

胃潰瘍の原因としてH. pylori 感染のかかわりが明らかとなり,H. pylori 陽性の胃潰瘍に対して感染症としての治療が主体となった。2000年より,わが国でもH. pylori の除菌治療が保険適用となり,本格的な除菌時代を迎えている。従来から胃潰瘍治療には,H2RAやPPIが用いられてきた。これらの酸分泌抑制薬は短期間に良好な治癒をもたらし,酸分泌抑制薬による維持療法を続けることで潰瘍再発が抑制された。しかし,維持療法の中止後には再発が繰り返されることが多く,再発予防に関しては限界があった。一方,H. pylori の除菌治療は胃潰瘍の治癒促進と再発予防に有効で,除菌に成功した場合には維持療法を行わなくても潰瘍再発は著明に抑制される(表1443),44)。背景胃粘膜の炎症が改善することで,従来の薬物治療では困難であった消化性潰瘍の完治をもたらす。胃潰瘍におけるH. pylori 除菌と再発率の報告は十二指腸潰瘍に比べると少ないが,Cochrane Libraryでのメタアナリシスでは,相対危険率0.29(95%CI:0.20〜0.42)でH. pylori 除菌が胃潰瘍の再発を抑制することが認められている45)図25)。H. pylori 除菌による胃潰瘍の再発抑制については,除菌後1〜2年の期間における報告例がほとんどで,長期経過の成績は少ない。除菌治療後10年間にわたって経過観察された報告では再発抑制効果は維持されており,経過観察中に再発率の増加は認められていない46)。わが国の多施設検討で,除菌治療後4年間にわたり経過観察された胃潰瘍2,255例の再発率は9.3%で,年間2.3%の再発率であった47)。除菌後の再発例では,NSAIDやH. pylori の再燃など何らかの要因が関与している例が多いとされる。

表14 胃潰瘍における除菌後の再発率
  n month H. pylori + H. pylori -
Seppala 1992 204 12 57% 0%
Graham 1992 26 12 74% 0%
Bayardorffer 1993 102 6 33% 0%
Labenz 1994 83 12 56% 3%
Sung 1995 45 12 52% 5%
Tatsuta 1995 79 12 58% 20%
Seppala 1995 190 12 47% 7%
Kato 1996 50 12 46% 0%
Lazzavoni 1997 52 12 63% 10%
Axon 1997 107 12 62% 7%
Asaka 2003 198 12 66% 11%
H. pylori の感染が維持しているものに関しては再発率が非常に高いということは,やはり日本でも外国でも同様の成績が出ている。

図25 H. pylori 除菌治療と治療なしにおける胃潰瘍の再発(Cochrane Library)
図25H. pylori除菌治療と治療なしにおける胃潰瘍の再発(Cochrane Library)

(2)除菌治療の方法
現在,H. pylori 除菌治療の保険適用上の対象は胃潰瘍または十二指腸潰瘍の患者である。H. pylori 感染の診断と治療の流れをフローチャートに示す48)図26)。除菌治療として3種類の3剤併用療法が保険適用となっている。ランソプラゾール(LPZ)30mg,アモキシシリン(AMPC)750mg,クラリスロマイシン(CAM)200mgまたは400mgを朝,夕食後に1日2回1週間服用する方法(LAC)が2000年11月に承認された。2002年12月には,LPZ,AMPC,CAMの1日の服用分すべてが1シートに納められたパック製剤(ランサップ®)が発売された。2002年4月に,オメプラゾール(OPZ)20mg,AMPC750mg,CAM400mgの1日2回1週間療法(OAC)が承認された。新たに,ラベプラゾールナトリウム(RPZ)10mg,AMPC750mg,CAM200mgまたは400mgの1日2回1週間療法(RAC)およびOACのCAM200mgの1日2回療法が2007年1〜2月に承認された。
除菌治療の時期には,活動性潰瘍の診断がなされたと同時に行う場合と,潰瘍瘢痕までに潰瘍治療を行ってから除菌治療を行う場合とがある。活動性潰瘍に除菌治療を行う場合には,保険適用上も潰瘍治療として除菌治療後8週間のPPI投与が認められている。
LAC療法の国内第III相二重盲検試験による除菌率は胃潰瘍で87〜89%,十二指腸潰瘍では84〜91%で,CAM400mg/日とCAM800mg/日とでは除菌率に有意差はなかった49)。OAC療法の国内第III相二重盲検試験による除菌率は胃潰瘍で76%,十二指腸潰瘍では82%で,全体で79%の除菌率であった。RAC療法の国内第III相二重盲検試験による除菌率は,胃潰瘍で88〜90%,十二指腸潰瘍で83〜88%であった(図27)。副作用の主なものは下痢,軟便,味覚異常であり,CAMの用量が増えると味覚異常の発現率が高くなる。除菌治療におけるPPIの役割は,十分に酸分泌を抑制して強酸に不安定な抗菌薬の効果を導き出すことにある。除菌失敗の最も大きな要因は薬剤耐性とコンプライアンスである。最近はCAMの耐性菌の割合が増えており,除菌率の低下が懸念される。また,除菌に失敗すると高率に二次耐性獲得が生じ,初回と同じ治療法では高い除菌率が期待できない。CAMをメトロニダゾールに替えた3剤療法での二次除菌率は比較的高率である。除菌率を維持するためには,服薬コンプライアンスに対する生活指導が重要である。

図26 H. pylori 感染の診断および治療のフローチャート
図26H.pylori感染の診断および治療のフローチャート

図27 現在使用されているレジメンの国内第III相試験の除菌率(Full analysis set)
図27現在使用されているレジメンの国内第III相試験の除菌率(Full analysis set)

(3)除菌後の感染診断
除菌終了後4週間以上経過した後,培養法,鏡検法,迅速ウレアーゼ試験(RUT),抗体測定法,尿素呼気試験(UBT),便中抗原法のうちいずれかの方法を用いて除菌判定を行う。陰性結果の場合には,異なる検査法を用いて再度判定結果を確認できる。PPIはH. pylori に対する静菌作用を有するので,感染診断が偽陰性となることがある。したがって,PPIの投与終了後4週間以上経過後に感染診断を行う。抗体測定法は,非侵襲的で利便性に富むが,除菌判定に際しては注意が必要である。抗体測定法での除菌判定は,除菌前と除菌後6カ月以上経過時で同じ抗体測定法で定量的な比較を行い,抗体価が前値の半分以下に低下した場合に除菌成功と判定できる。しかし,除菌判定に抗体測定法を用いることは推奨できない。

【参照】
第1部 胃潰瘍の基礎知識 6.治療 2)薬物治療

 

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