ガイドライン

(旧版)EBMに基づく 胃潰瘍診療ガイドライン 第2版 −H. pylori二次除菌保険適用対応−

書誌情報
第1部 胃潰瘍の基礎知識

 
5.診断
2)内視鏡診断

胃潰瘍は急性潰瘍(急性胃粘膜病変)と慢性潰瘍とに分類される。前者は一般的にAGML(Acute Gastric Mucosal Lesion)と称され,後者は治癒期を含めた活動性潰瘍と治癒後の瘢痕状態に分類される。胃潰瘍の内視鏡診断で重要なことは胃癌や胃悪性リンパ腫などの悪性病変との鑑別を的確に行うことである。以下に,内視鏡診断時の留意点について述べる。

(1)急性胃粘膜病変(AGML)
急激に生ずる上腹部痛・嘔吐・吐血などにより発症する疾患であるが,内視鏡像の特徴は粘膜の浮腫・点状および斑状発赤・多発性・不整形のびらんに潰瘍を合併している場合が多い。病変部位は一般に前庭部に多く,前壁と後壁に対称性の潰瘍を認めることが多い。また急性期には潰瘍底に黒苔を認める。発症原因はNSAID起因性のものとH. pylori の初感染によるものが多い。本ガイドラインではNSAID起因性病変とH. pylori 感染に起因する病変に対する治療方針が明確に分けられており,今後は,この両者を鑑別することが重要となる。鑑別のためには,病変部および一見健常部からの鉗子生検によって活動性炎症およびH. pylori 菌体の有無と血清抗体価の測定により両者の鑑別が可能である。すなわち図15に示す病変では図左に示す急性期の生検組織にH. pylori の菌体および活動性胃炎を認めるが,同時期の血清抗体は陰性であり,H. pylori 初感染によるAGMLと診断される。なお,図15右に示すように2週間後には内視鏡的には改善し,4週間後も血清IgG抗体は陰性のままであった。

図15 H. pylori の初感染による急性胃粘膜病変(AGML)
図15H. pyloriの初感染による急性胃粘膜病変(AGML)
初診時の緊急内視鏡検査では前庭部全域に地図状の黒苔に覆われた浅い潰瘍性病変を多数認める(左図)。同時期の生検組織に活動性炎症像とH. pylori 菌体を認めたが血清抗体法では陰性であった。2週間後の内視鏡検査ではひきつれを伴う瘢痕のみが残存している(右図)

(2)慢性胃潰瘍
慢性潰瘍は通常,活動期・治癒期および瘢痕期に分類される。わが国で汎用されている崎田分類(ステージ分類)によると活動期(A1・A2),治癒期(H1・H2),瘢痕期(S1・S2)に分けられる(図16)。胃潰瘍病変の好発部位は胃角部および胃体部である。

1)胃潰瘍急性期
活動性潰瘍の場合特に急性期(A1)には,潰瘍辺縁に浮腫を伴い潰瘍底は一般に白苔ないしは黒苔で覆われている。出血性のものでは潰瘍底に露出血管や黒苔を認めることが多い。A2ステージに移行すると辺縁の浮腫が改善し潰瘍底は白苔に覆われる。これらの時期に悪性病変との鑑別は難しい場合もあるが,潰瘍辺縁からの生検が鑑別診断の助けとなる。
2)胃潰瘍治癒期
治癒期(H1・H2)に移行すると潰瘍辺縁に再生上皮を認めるようになる。白苔を伴う潰瘍底の面積が次第に縮小する。白苔の残存している場合は治癒期とされる。この時期には集中するヒダの性状や再生上皮の状態から悪性病変との鑑別が容易になる。
3)胃潰瘍瘢痕期
潰瘍の治癒期には再生上皮による被覆が完成し白苔は消失する。瘢痕部の色調により赤色瘢痕(S1)および白色瘢痕(S2)と分類される。悪性病変との鑑別には辺縁の性状に注意し,やはり生検による確認が必要である。

図16 各ステージにおける胃潰瘍の内視鏡像
図16各ステージにおける胃潰瘍の内視鏡像
崎田分類(ステージ分類)による各ステージの内視鏡像
A1: 潰瘍辺縁は浮腫状であり潰瘍底は黒苔で覆われている(左上図)
A2: 辺縁の浮腫は改善し潰瘍底は白苔により被覆されている(左下図)
H1: 潰瘍辺縁に再生上皮の出現を認める(中央上図)
H2: 白苔は薄く縮小し再生上皮の部分が拡大している(中央下図)
S1: 赤色瘢痕(右上図),S2:白色瘢痕(右下図)

図17左に示すような幽門前庭部の巨大潰瘍でも8週間後には再生上皮による被覆が認められる。胃潰瘍の診断には経過観察と生検による悪性病変との鑑別が重要である。

図17 巨大な潰瘍の活動期とその治癒像
図17巨大な潰瘍の活動期とその治癒像
幽門前庭部の巨大潰瘍(左図)と8週間後の瘢痕像(右図)。

(3)良性の胃潰瘍と紛らわしい胃悪性腫瘍
1)胃癌

早期胃癌には良性潰瘍との鑑別が困難な内視鏡像を呈することがある。一見,良性潰瘍にみえても潰瘍の辺縁に再生上皮に混在する粘膜内癌を経験することも多く,生検による確認が必要である(図18左)。また,未分化型胃癌の病巣内に良性潰瘍を合併した場合には,病変の遠景像,特に褪色領域に注意し潰瘍辺縁からの生検による確認が必要となる。急性期の潰瘍は辺縁に浮腫を伴っており,進行癌との鑑別が必要なこともあり,経過観察による確認が重要である。
2)胃悪性リンパ腫
特にMALTリンパ腫は多彩な内視鏡像を呈することが特徴であり,中には良性の胃潰瘍と鑑別を要するものがある(図18右)。多発性病変の場合には病巣間の顆粒状粘膜に注意し生検による確認が必要である。

図18 良性潰瘍と紛らわしい悪性病変
図18良性潰瘍と紛らわしい悪性病変
早期胃癌の中には内視鏡所見のみでは良性との鑑別に苦慮するものもある(左図)。良性潰瘍との鑑別を要した胃MALTリンパ腫(右図)。このような病変では潰瘍辺縁からの確実な生検が重要である。


 

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