ガイドライン

(旧版)EBMに基づく 胃潰瘍診療ガイドライン 第2版 −H. pylori二次除菌保険適用対応−

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第1部 胃潰瘍の基礎知識

 
4.合併症

胃潰瘍の代表的な合併症として,出血,穿孔がある。1980年代にヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA),1990年代にプロトンポンプ阻害薬(PPI)が登場し,さらにH. pylori 除菌治療の普及や内視鏡的治療手技の目覚ましい進歩によって,外科手術に至る潰瘍症例は近年減少傾向を示している。ここでは,胃潰瘍の合併症として重要な出血と穿孔について解説する。

1)出血
吐血,下血を初発症状として来院することが多い。下血の場合は下部消化管出血の可能性もあり,腹痛の有無,便の性状をチェックし,詳細な病歴聴取を行い,出血源を推定する。失血による貧血症状(めまい,ふらつき,易疲労感,動悸,息切れなど)を訴えたり,意識障害による頭部打撲などの外傷で搬送されて来ることもあるので,注意を要する。吐下血では潰瘍の既往歴,薬剤服用歴,肝疾患合併などが出血源の推定に役立つ。
出血部位の確認の前に,患者の全身状態の把握が優先する。バイタルサイン(血圧,脈拍,意識レベル,呼吸状態)をチェックし,ショックの有無と程度を評価する。400mL〜1,000mLの輸血を急速に行って回復しないものを重症例とする。ショック状態の患者には治療を優先し,静脈路の確保,輸液,輸血などの処置を行い,循環動態の改善に努める。ただし,動脈性出血で,止血しないとショックから離脱できないような場合には,急速輸血やモニタリングなどの全身管理を厳重に行いながら,緊急内視鏡検査に踏み切る考え方もある。表8に,上部消化管出血時の再出血,死亡率のリスクによく相関するといわれているRockallのスコアリングシステム30)を示す。
緊急内視鏡検査の目的は,出血源の確認,出血状態の評価,さらに必要例に対する内視鏡的止血を行うことである。上部消化管出血の原因として,わが国の報告では,過半数は消化性潰瘍による出血で,次いで食道・胃・十二指腸びらんまたはAGML,食道静脈瘤,Mallory-Weiss症候群などがある31)
緊急内視鏡検査の実施にあたっては,口頭で十分説明するとともに文書で同意を得る。検査開始前に通常の前処置を行い,咽頭麻酔を十分に行った後,内視鏡を挿入する。検査に用いる機種は細径直視型パンエンドスコープを用いるのが一般的である。意識障害で誤嚥の可能性がある場合は,挿管による気道確保も必要となる。
緊急内視鏡検査で出血源となる潰瘍が確認され,出血が持続する場合,あるいは再出血の危険性のある潰瘍では,ただちに内視鏡的止血を行う。緊急内視鏡検査は,夜間や人手の足りないときに行うケースが少なからずあるので,止血効果が高く,かつ簡便なものが望まれる。よく用いられる止血法には,クリップ法(図11-a,b),薬剤局注法(純エタノール,高張Naエピネフリンなど),熱凝固法(ヒータープローブ法など)などがある。いずれの止血法でも約80〜95%近くの止血成績が得られているので,止血法の選択にあたっては,症例や施設に応じて適切な手技を選択し,各止血法を併用してもよい。内視鏡的止血の詳細な方法については,消化器内視鏡ガイドライン32)を参照されたい。
止血困難例では,活動性出血と露出血管を認めるものが多い。interventional radiology(IVR)または外科的治療を考慮する症例は,1 露出血管が太く,深掘れ潰瘍で,内視鏡的止血でコントロールできない症例,2 急速大量輸血を要する症例,3 重篤な背景疾患を有し,再出血をくり返す症例などがある。

表8 上部消化管出血の予後因子
  スコア
因子 0 1 2 3
年齢(歳) <60 60〜79 ≧80  
脈拍数(/分) <100 ≧100    
収縮期血圧(mmHg) ≧100 ≧100 <100  
併存疾患 なし なし 虚血性心疾患
心不全など
腎不全,肝不全
播種性悪性腫瘍
内視鏡診断 病変なし or MWS その他 悪性腫瘍  
出血の性状 現在なし or
黒色出血斑
  血管露出 or
持続出血
 
MWS:Mallory-Weiss症候群.(Rockall TA, et al: BMJ, 1995より引用)

図11-a 胃体下部小弯側に露出血管2本を伴う潰瘍例(101歳,男性)   図11-b 1本の露出血管にクリップを2本留置し,この後残りの露出血管にも1本留置し,止血に成功
図11-a胃体下部小弯側に露出血管2本を伴う潰瘍例(101歳,男性) 図11-b1本の露出血管にクリップを2本留置し,この後残りの露出血管にも1本留置し,止血に成功

 

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